エンリコ・オノフリの

バロックの正体

世界の古楽界を牽引してきた
イタリアのバロック・ヴァイオリニスト、
また昨今では指揮者としても活躍する
エンリコ・オノフリさんに、
バロック・ヴァイオリンの詳細な奏法、
そして彼の音楽哲学等を語っていただいく。
 
バロック奏法に関して、
従来の考え方やイメージとは、
大きく異なる部分があって、
改めて考えさせられる話を展開。
(取材協力:ヴァイオリニスト杉田せつ子さん)

第4

バロック音楽の

本質とは

アフェットとは
 
古楽に関しては、
まずは『劇場的、テアトロ的』なヴィジョン、
それから声楽的なもの、
肉体的な感覚からもたらされるもの……
が重要です。
これはアーノンクールから始まったものです。
 
以前から演奏している
『イル・ジャルディーノ・アルモニコ』。
これは、ある意味アーノンクールの思想を
継いだところもあります。
オーストリア人であるアーノンクールと
イタリア人である私たちとは
大きな違いがあるわけですけれども、
引き継いだものがあります。
 
私の演奏解釈で探しているものというのは、
まず音楽的なテキストです。
次にそれを音楽化する、
そしてダイレクトに聴衆に
それを伝えるということです。
 
音楽全般に言えることですが、
特にバロック音楽において、
最も重要な基礎となることは
『アフェット(情感)』です。
 
音楽は薬にも毒にもなる
 
1500年代の終わりですが、
モンテヴェルディらは、
ギリシャの文献を引用して、
いろいろな精神の状態において、
どういう音楽がいいのか、
つまり音楽セラピー的なことを考えていました。
 
人間の精神的な病というものを
音楽によって治すことができる、
ということを考える一派があったわけですね。
 
つまり、音楽が薬にもなり、毒にもなる、
その両方に音楽はなる、
という考え方があったわけです。
それは体の病気ではなくて、
精神的な病気に関しての話です。
 
モンテヴェルディは
言葉のコントラストが重要である
と考えました。
 
つまり
非常に強い感情を持った言葉と、
その逆に非常に優しい言葉の
双方が
同時に出てきた状態の時に、
人間の精神は癒やされるのだ、
という考え方を持っていました。
 
ですから、
音楽の中でも
コントラストを用いることが、
人間の情感を高めて、
精神的な癒やしになると考えたわけです。
 
モンテヴェルディは、
音楽の中では、
様々な情感が非常に強くなくてはいけない、
と言っています。
それぞれの『アフェット』が強くなければいけない、
と言っています。
 
それが暴力的なアフェットであろうと、
非常に穏やかで優しいアフェットであろうと、
それぞれ強くなければいけない、
ということです。
 
モンテヴェルディたちが
バロック音楽の父と呼ばれるようになるのは、
こういう非常に強いアフェットを表現する
ということがあったからで、
それこそがバロック的な音に、
そしてバロック音楽になっているわけですね。
 
モンテヴェルディの理論というのは
対比・対照(コントラスト)という
修辞学的な理論でした。
 
音楽で非常に違うアッフェットを対比させることで、
人間の内面での不幸な状況を治すような
強い情動を生み出せると考えていました。
強いコントラストを作ることが
この情動を生み出します。
 
従って、
バロック音楽の父達
(モテヴェルディやフレスコヴァルディ)
には音楽が強い活力に満ちた表現力
を持っている必要があったのです。
 
イタリア人である私は、
やはり暴力的なことであろうと
優しいことであろうと、
その強いアフェットをダイレクトに伝える
ということが大事だと思っています。
イタリアの人の会話が
劇場的で激情的なのは、
哲学でもあったのです。
 
私自身は、
古楽の演奏解釈に関しては、
このアイディアを演奏会で追究しております。
しかし、イタリア人であるにも関わらず、
他の国の流れを追おうという人もいます。
 
このように古楽を追求し続けるということは、
それはもはや古楽ではなく、
現代の音楽になっていくと思います。
 
古楽というのは、
過去の音楽を演奏する上で
最も現代的なやり方である、
ということが言えると思います。
続く
 

Enrico Onofri    エンリコ・オノフリ

イタリアの ヴァイオリニスト、指揮者。

オノフリは画家の父、アンティークに造詣が深い母を持ち、リコーダー、合唱などに幼い頃から接する。14歳でヴァイオリンを始めて直ぐにバロック・ヴァイオリンと出会い、その後ミラノの音楽院にて学ぶ。

 

在学中より、ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス等に参加し、古楽に関する知識を深めた。その後、彼の類い稀なる音楽性と、高度な技術力がたちまちの内に話題になり、22歳の時にJ.サヴァールにコンサート・マスターとして招聘される。

 

1987年(当時20歳)より、イル・ジャルディーノ・アルモニコ(以下IGA)のコンサートマスターを務めており、その後のバロック音楽シーンに多大な影響を与えた名盤として名高いIGAとの「ヴィヴァルディの四季」の録音は、彼が26歳の時に録音されている。

 

2005年よりポルトガルの古楽団体「ディヴィーノ・ソスピーロ」の首席指揮者となる。近年、指揮者、ヴァイオリニストとしての客演のオファーが多数あり、ラ・カペラ・レイアル(スペイン)、ベルリン古楽アカデミー(ドイツ)など、欧州各国の主要団体に頻繁に客演している。 また多数のCD録音に参加しており、前述の「四季」では欧州の多数の主要な賞を獲得し、C.バルトリと共演したアルバムではIGAとしてグラミー賞も獲得している。自身のアンサンブル「イマジナリウム」のCDでは、欧州の主要音楽雑誌において絶賛された。

 

2006年、ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン来日以降、日本での公演もたびたび行なっている。

 

エンリコ・オノフリ バロック・ヴァイオリン・リサイタル

6月7日(土)17時 上野学園・石橋メモリアルホール

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