エンリコ・オノフリの

バロックの正体

世界の古楽界を牽引してきた
イタリアのバロック・ヴァイオリニスト、
また昨今では指揮者としても活躍する
エンリコ・オノフリさんに、
バロック・ヴァイオリンの詳細な奏法、
そして彼の音楽哲学等を語っていただいく。
 
バロック奏法に関して、
従来の考え方やイメージとは、
大きく異なる部分があって、
改めて考えさせられる話を展開。
(取材協力:ヴァイオリニスト杉田せつ子さん)

第2回

バロック時代も

ヴィブラートをかけた

ノン・ヴィブラートの疑問
 
今日の音楽家の多くが、
曲が古ければ古いほど
ヴィブラートで弾く必要はないと考えていますが、
それは間違いです。
 
古典派の時代
19世紀の最初の20年間を含めて
ヴァイオリニスト
ほとんどヴィブラートなしで
演奏していました。
これは18世紀後期の
もっとも純粋な古典的感性に
一致しています。
 
そこから更に半世紀前に書かれた
ジェミニアーニの理論書によると、
反対に、
短音でさえもできる限り
ヴィブラートで弾いていたということです。
にもかかわらず、
同じ頃イタリアのヴァイオリニスト、
タルティーニは
ほんの少ししかヴィブラートで弾きませんでした。
 
つまりヴィブラートの使用は
主に個々の音楽家の感性によって左右されるものでした。
 
例えば、私はあまりヴィブラートを使いません。
純粋な音が好きですから。
でも時には、
曲に必要であれば
短音にもヴィブラートを使います。
 
もっとも重要なのは、
ヴィブラートは音の飾りであり、
音の内面(現代のヴィブラート解釈のように)
ではないと理解することだと思います。
 
古楽を演奏する際のヴィブラートは
音楽家の理論上の必要性や感性に従って
加えられるべき、単なる装飾に過ぎません。
 
ヴィブラートを装飾として捉えると、
現代のヴィブラートとは
ずいぶん違ったものに聞こえます
現代の多くのヴァイオリニストがするように
すべての音に施されていたとしてもです。
 
さらに一般的に、
メロディの装飾についてですが、
その曲の様々なスタイルについて
深く知る必要があります。
昔の演奏家がしたように
曲を改良することは可能ですが、
様々な装飾スタイルについて
長い期間をかけて研究したあとでなければなりません。
 
 
私の自然の環境
 
私の音楽に対する考え方は
私を取り囲む環境に密接に関係しています。
大都市で数年間暮らした後、生まれた土地へ帰り、
かなり『ワイルドな』環境の
カントリーハウスに住もうと決心しました。
この選択は
私の音楽に対する考え方に
大いに影響を与えました。
 
昔の人々は、
ヨーロッパの都市の中心に住んでいたとしても、
現代の都市に住む人々より
もっと直接的に自然現象を経験していたと思います。
そのため彼らの芸術表現は
もちろん自然に密接に関連していて、
自然現象に影響を受けていました。
昔の音楽家が
彼らの作品で表わしたかった感情を理解するためには、
自然のリズムと自然現象の力を知ることは
たいへん重要であると考えます。
 
『アカデミア』とは
 
18世紀を通じて、
イタリアやその他のヨーロッパの国々では
『アカデミア』
と呼ばれる演奏会が流行しました。
アカデミアは、
音楽に通じた富裕層や貴族によって支えられ、
主に個人的なイベントとして行なわれました
劇場で行なわれたこともあります。
 
アカデミアにおけるプログラムは
現在
私たちがコンサートで
聴きなれているものとは異なり、
多くの場合、
一人もしくは数人の作曲家の
いろいろな曲のいろいろな楽章を
ミックスさせたものです。
時には、それぞれの楽曲・楽章の間に
全く関係性がない場合もあります。
 
古来のアカデミアにインスパイアされ、
私は過去に東京で
日本のバロック・オーケストラ、
チパンゴ・コンソートを指揮する
2つのプログラムを組みました。
様々な作曲家の異なる楽曲・楽章をミックスし、
声楽曲のアリア等も選曲しています。
 
ヴィヴァルディの四季、
モーツァルトの
アイネ・クライネ・ナハトムジーク等の有名な曲をはじめ、
ヘンデルの合奏協奏曲作品6からの楽章は、
『時と悟りの勝利』のアリアと交互に演奏され、
アリアは日本のソプラノ森麻季さんによって歌われました。
 
ヴィヴァルディの四季についていえば、
イル・ジャルディーノ・アルモニコによって
1994年にリリースされた
有名なレコーディングの後に
再びこの曲を演奏・指揮できることはとても嬉しいです。
 
またその後の15年間で、
大変多くのヴィヴァルディや
その他の作曲家の曲を指揮・演奏した経験を踏まえて
この曲を探求できたことを喜んでいます。
 
さらにモーツァルトの
アイネ・クライネ・ナハトムジークでは、
指揮者としてこの曲に対する私の熱意を表現しました。
頻繁に演奏されている作品を演奏することは、
その作品の新しい演奏方法を
探究する貴重な機会なのです。
(続く)
 

Enrico Onofri    エンリコ・オノフリ

イタリアの ヴァイオリニスト、指揮者。

オノフリは画家の父、アンティークに造詣が深い母を持ち、リコーダー、合唱などに幼い頃から接する。14歳でヴァイオリンを始めて直ぐにバロック・ヴァイオリンと出会い、その後ミラノの音楽院にて学ぶ。

 

在学中より、ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス等に参加し、古楽に関する知識を深めた。その後、彼の類い稀なる音楽性と、高度な技術力がたちまちの内に話題になり、22歳の時にJ.サヴァールにコンサート・マスターとして招聘される。

 

1987年(当時20歳)より、イル・ジャルディーノ・アルモニコ(以下IGA)のコンサートマスターを務めており、その後のバロック音楽シーンに多大な影響を与えた名盤として名高いIGAとの「ヴィヴァルディの四季」の録音は、彼が26歳の時に録音されている。

 

2005年よりポルトガルの古楽団体「ディヴィーノ・ソスピーロ」の首席指揮者となる。近年、指揮者、ヴァイオリニストとしての客演のオファーが多数あり、ラ・カペラ・レイアル(スペイン)、ベルリン古楽アカデミー(ドイツ)など、欧州各国の主要団体に頻繁に客演している。 また多数のCD録音に参加しており、前述の「四季」では欧州の多数の主要な賞を獲得し、C.バルトリと共演したアルバムではIGAとしてグラミー賞も獲得している。自身のアンサンブル「イマジナリウム」のCDでは、欧州の主要音楽雑誌において絶賛された。

 

2006年、ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン来日以降、日本での公演もたびたび行なっている。

 

エンリコ・オノフリ バロック・ヴァイオリン・リサイタル

6月7日(土)17時 上野学園・石橋メモリアルホール

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