レッジョ・エミリアは木曜日の午後7時過ぎ。2日に亘る2次予選を全団体が弾き終わったところだ。審査員団は劇場下手奥の審査員室に向かい、協議中である。演奏時間の関係で、金曜と土曜に行われる3次予選に進出するのは6団体までだそうな。
 
さても、どうなることやら。演奏を終えた若者達とすれば、いちばん嫌な時間であろう。
 
大会まで半年と迫ったところで事務局総入れ替えとなり、広報がきちんと機能しなかったのか、今回のレッジョには筆者と顔見知りの同業者たちもまだ顔を見せていない。
 
それでも、プレスが詰め込まれたボックス席に向け、ヨーロッパの弦楽四重奏業界で知らぬ者はないブリュッセルの「マダム弦楽四重奏」と呼ばれる名物主催者さんが手を振ってくるし、会場に向かう広場では辞任した前事務局長から声をかけられた(いろいろ思うところがない筈なかろうが、それでも旧市街中央広場の反対側の自宅から劇場まで足を運んでくるのだから、流石の業界人魂である)。
 
大阪に特派員を派遣した『ストラッド』誌は今回はレッジョにはレポーターを派遣しないとのことだったけれど、それでも明日以降はもっと色々な顔が見られることだろう。
 
 
1時間もかからずに結果が出て、事務局スタッフが劇場入口ロビーに張り出した。劇的な演出が何もないのは、審査委員長のキャラかしら。
 
以下、金曜土曜の演奏順。時間と演目も記す。
 
5月30日 以下は現地時間、日本時間は7時間+
 
◆ピアッティQ 14:30~ ハイドン《皇帝》、ベートーヴェン《ラズモフスキー》第1番、アデス《アルカディアーナ》
 
◆ヴァレーズQ 16:15~ モーツァルトK.387、ベートーヴェン《ラズモフスキー》第1番、アデス《アルカディアーナ》
 
◆カヴァレッリQ 18:00~ モーツァルトK.421、ベートーヴェン《ラズモフスキー》第1番、アデス《アルカディアーナ》
 
5月31日
 
◆ヤナQ 14:30~    モーツァルトK.421、 ベートーヴェン《ラズモフスキー》第1番、ピンチャー《ジュズアルドの肖像》
 
◆ケレマンQ 16:15~ ハイドン《日の出》、ベートーヴェン《ラズモフスキー》第1番、アデス《アルカディアーナ》
 
◆ムチャ(ミューシャ)Q 18:00~ モーツァルトK.387、ベートーヴェン《ラズモフスキー》第1番、アデス《アルカディアーナ》
 
 
さて、ストリーミングでお聴きの皆様はいかがお感じだろうか。会場で演奏に接していた筆者とすれば、無論、ノガQやベルリン=東京Qは残念ではあるが、それほどの驚きはない。妥当な結果と言える。個々人の実力は圧倒的なベルリン=東京Qは、団として作品に即した響きのコントロールが手の内に入れば、次の段階は目の前だろう。
 
カヴァレッリQ、ケレマンQ、ムチャQなど、既にキャリアもあり出来上がっている団体は、まるでコンサートのような立派なステージを展開してくれている。カヴァレッリQに関しては、大阪で接した皆様を前に、何を言うこともあるまい。
 
ケレマンQは2次予選でも、独奏者の貫禄充分な多彩な音色をちりばめた第1ヴァイオリンの妙技ばかりか、参加最年少ながらそんな同僚の芸にしっかり応えるチェロの存在感も際立つ。悪達者と言われかねないところをギリギリで収められているのは、やっぱり人柄かしら。
 
ムチャQ(表記に関しては後述)も、ブラティスラバからドナウ対岸のヴィーンの夜を眺めるようなラヴェル、そして精密にして巧妙な線画で描かれたショスタコーヴィチは圧巻だった。特にコーダ前の《カタリーナ・イズマイロワ》からの引用がポンチチェロに近い響きで呟かれる瞬間には、背筋がゾクッとさせられた。この団体でショスタコーヴィチの弦楽四重奏全曲を聴いてみたいと思わされたのだから、もうコンクールというレベルの話ではあるまい。
 
2次予選で筆者が個人的に最も嬉しかったのは、ヤナQのシューマンである。大阪では1次予選で敗退、その悔しさを天満教会でぶつけた彼らだが、ここレッジョでの演奏はそれらのどれよりも素晴らしい出来だった。それどころか、筆者がこれまでミュンヘンや東京で接してきたこの団体の演奏の中でも、最も説得力があり、納得されられるものであった。
 
ヤナQのシューマンは、技術面の充実は当然として、それを越えたシューマンの楽譜の向こうにある何かを、はっきり感じさせてくれた。日中の若者達の奏でる第3楽章の歌は、勿論、デュッセルドルフの石畳に反映する夕暮れの照り返しではなかろう。
 
でも、もしかしたら、秋の北京の胡堂に舞い散るプラタナスの枯れ葉かもしれないし、天津の街に降る冬の雨の臭いかもしれない。そんなものが確かにここにあると感じられる瞬間を創ってくれた彼らは、立派な若き芸術家である。
 
そう思わせてくれただけで、遙々レッジョ・エミリアまで来た甲斐があった。筆者にとって今回のコンクールは、もうここで終わってもかまわない。
 
 
最後にひとつ、案外と重大なこと。
 
籤の巡り合わせで毎回最後に弾いているブラティスラヴァの団体、Mucha弦楽四重奏団の読み方について。筆者はこの団体の名前はヴィーンのムジークフェラインだかから送られてくるニュースリリースで見たことはあり、「へえ、ミューシャの名を冠した団体もあるのか」程度の認識だった。
 
なにしろ室内楽団の名称は適当なものに限りがある。フェルメールQが恐らくは嚆矢となった画家の名を顕彰する団体も、ミロとかカンジンスキーとか、はたまたダリとか、それなりに存在している。そんなわけで、チェコやらスロヴァキアの団体でミューシャを名告るところがあっても不思議はないと思っていたわけだ。
 
ところが、ここボルチアーニ・コンクール会場で配布されたプログラムのプロフィルを眺めるに、この団体の名称はボヘミア出身のユーゲントシュティールの人気画家ではなく、彼らの先生の名前に由来するとのこと。
 
そうなると、いくら同じ綴りが日本では「ミューシャ」と読まれる慣例があるといえ、踏襲するわけにはいくまい。そんなわけで、本日以降、「ムチャQ」と表記させていただく。本人達を捉まえてなんとか発音をききただしたいのだが、なかなか捉まらないでいる。
 
いずれにせよ、編集部にはどこかの時点で過去に遡って全て表記を直す手間をおかけせざるを得ない。悪しからず。そんなムチャな…なんて親父ギャグが遥かシベリアを越えて聞こえてきそうだ。

2次予選結果と3次予選演目

第10回

パオロ・ボルチアーニ国際弦楽四重奏コンクール

レッジョ・エミリア便り 〈4〉

音楽ジャーナリスト 渡辺 和

素晴らしいシューマンを聴かせてくれたヤナQ。

レッジョは聴衆も正直で、大きな拍手に舞台に呼び返されていた。

全ての演奏が終わり、審査員団は審査中。ソワソワと劇場入口で待つクァルテットの面目。

審査が終わり、池田審査委員長が結果を持って出て来た。ケレマン君も流石に緊張気味だ。

毎度ながらさりげなく、結果の発表です。

ノガQが審査員のミューラーを捉まえて説明を求めている。それなりに手応えはあったのだろう、納得いかないのも判りますけど…

本日の行程が終わると8時過ぎ。昼の長いヨーロッパも流石に夕方で、ガリア街道の西、ミラノの方に日が沈んでいく。モーツァルトもこの街道を馬車で揺られ、ボローニャからミラノに向かった。

以下の写真は、クリック(タップ)すると、

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以下は現地時間、日本時間は7時間+
 
5月30日
 
◆ピアッティQ
14:30~
ハイドン《皇帝》
ベートーヴェン《ラズモフスキー》第1番
アデス《アルカディアーナ》
 
 
◆ヴァレーズQ
16:15~
モーツァルトK.387
ベートーヴェン《ラズモフスキー》第1番
アデス《アルカディアーナ》
 
 
◆カヴァレッリQ
18:00~
モーツァルトK.421
ベートーヴェン《ラズモフスキー》第1番
アデス《アルカディアーナ》

 

 
5月31日
 
◆ヤナQ
14:30~
モーツァルトK.421
ベートーヴェン《ラズモフスキー》第1番
ピンチャー《ジュズアルドの肖像》
 
 
◆ケレマンQ
16:15~
ハイドン《日の出》
ベートーヴェン《ラズモフスキー》第1番
アデス《アルカディアーナ》
 
 
◆ムチャ(ミューシャ)Q
18:00~
モーツァルトK.387
ベートーヴェン《ラズモフスキー》第1番
アデス《アルカディアーナ》
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