土曜日午後からの3次予選、地元紙でどんな報道が成されているか皆目見当もつかないのだが、聴衆は多い。なにしろ優勝候補が次々と登場する無料演奏会、来るなと言っても無理だ。
 
筆者が初日から詰めている2階の17番ボックスも、これまではプレス関係者専用だったのだが、今日はもう表方のコントロールも利かないようで、ケレマンQのときにはお婆ちゃんとお母さん、それに中学生くらいの賢そうな眼鏡君一家がご一緒。
 
平土間からこっちを見つけて走ってきたベルリンのケレマンQマネージャー嬢ったら、もう心配で心配でストリーミングを聴いてていても立っても居られず社長に頭下げてここまで飛んで来た、と興奮気味なのを、地元のご家族は呆れ顔で眺めている。
 
最後のムハQでも、なにやらしっかり着込んだ街の名士のようなご夫妻がお座りになる。作務衣姿でノートを開いたオッサンとしては、ちょっとばかり居心地が悪くなってきた。
 
これまでのレッジョならばそろそろ業界人で溢れかえるのだが、今回は街の盛り上がりの中に直接放り込まれたみたい。美食の街の3年に一度のおらが名士クァルテット祭も、明日のフィナーレに向けヒートアップだ。
 
 
このコンクール、音楽的な実質上の頂点はここ3次予選にある。なにしろ古典+現代+ラズモフスキー第1番というのだから、完全にひとつの演奏会だ。一方で、演奏する側からすれば、ミュンヘンARDやここボルチアーニのような数多くの予選を重ねて少しずつふるい落としていくタイプのコンクールの場合、3次予選辺りが胸突き八丁となる。
 
正直、ギリギリで通過してきた団体とすればもういっぱいいっぱい、優勝候補とされる団体にしたところで練習量がいちばん薄くなりボロが出がちなステージなのだ。アンサンブルコンクールの一般論として、「3次予選は負け比べ」なのである。いかに失点を最小で止めるかが勝負の要、なかなか難しい7回の裏と相成った。
 
実際、先頃の大阪で優勝したトリオ・ラフォールは、昨年のミュンヘンでは3次予選で彼らとすれば万全とは言えぬ演奏となり、厳しいプレスラーの検閲を抜け出ることができなかった。昨日の池田審査委員長インタヴューからもお判りのように、ここボルチアーニの審査員団はあのような極端な厳格さとはちょっと違うようだけれど、果たしてどうなることやら。
 
個々の団体については既に概観してあるので、ポイントを拾うに止める。
 
可能な限り客観的であらねばならぬレポーターとすれば極めて心苦しいことなのだが、筆者は3次予選最初に登場したピアッティQのハイドンはまるでダメだった。自分の受け入れられる趣味の限界があるという事実を、嫌というほど思い知らされるのもコンクール。ストリーミングをお聴きになって気に入られた読者には申し訳ないけれど、以上でコメントもオシマイ。
 
フランスの団体と言われると、センスの良さとか際立つ感性とかを期待してしまう。だが、やっぱりリヨン出身のヴァレーズQはそれとはちょっと違うところにいるようだ。技術面はもう良いから、とは言わないものの、南フランスの臭いが音楽に反映できるようになって欲しい。無論、敢えてそれをしないのも、これまた道なのだろうけれど。
 
3次予選1日目の最後に登場したカヴァレッリQは、良くも悪くも安定した演奏を展開する。アデスは特殊奏法の扱いなど模範的な再現で、オールラウンダーとしての本領発揮だろう。ただ、このステージのように超個性派が並んでしまうと、何か突出したものを、と思ってしまう。無い物ねだりかしら。
 
2日目の最初に弾いたヤナQ、失礼ながらここまで来れば大健闘。もう雑念無く弾けば良いだけだ。モーツァルトのニ短調は、ちょっと「学生さん」風の演奏に終始したか。ベートーヴェンも手堅く纏めた。数多あるアルバン・ベルク系ともアルテミス系とも明らかに違う、彼らなりのベートーヴェンの響きを明快な個性にまで高めていくために何をすれば良いのか。練習をできる環境を整えるために何を自分達でしなければならないのか、過去に前例のない日中合同団体には、次の時代が始まっている。「弦楽四重奏をホントにやりたいんです」という言葉を、我々大人達はどう受け止め、何をすれば良いのか。
 
ケレマンQは今日もケレマンだった。ともかく「個性的」という意味ではこれほど個性的な音楽はない。興味深いのは演奏順で、ベートーヴェン、アデス、最後にハイドンを持ってくる。《日の出》が勝負曲になるなんて信じられないだろうけど、ケレマン君の手にかかると大エンターテインメントになってしまうのだからオソロシイ。もうコンクールの結果なんてどうでもいい、早く世界中で演奏して下さいな。
 
いつも最後はムハQ(名称表記に関しては後述)。しっかりした響きは今日も健在である。アデスがショスタコーヴィチ風な響きになってしまうのは個性なのである、と思わせてくれるのだから文句はない。モーツァルトもベートーヴェンも、解釈よりもまず響きの個性が明快。ヨーロッパの弦楽四重奏業界で知らぬ者ないブリュッセルの名物主催者イレーネ女史曰く、「彼らは2年前にベルリンの小さな大会で聴いているけど、吃驚するほど上達してるわね、あたしの一押し」。
 
 
さても、8時過ぎにセッションが終わり、結果は30分程度で出た。審査委員長に拠れば、さほど難しい議論はなかったとのこと。以下、明日の演目及び演奏順と共に記す。ちなみに明日の本選は半分がセレモニーのような状況となり、開演もこちらの時間の午後8時。日本時間の月曜午前3時である。ちょっとライヴストリーミングに付き合うのは厳しいかしら。
 
◆ヴァレーズQ シューベルト《死と乙女》
 
◆ケレマンQ バルトーク第5番
 
◆ムハQ ショスタコーヴィチ第9番
 
大阪の目でみると、なんだか本選としては不思議な、まるで優勝者発表会みたいな演目ではある。
 
 
大阪からレッジョへと続いたカヴァッリQの2014年初夏の旅はここで終わった。だけど、彼らの音楽が終わるわけではない。コンクールはコンクール、音楽家生活はまた別の話。「来年のロンドンで…もう会いたくないなぁ」と声をかけると、苦笑、としか言えない顔をする若者達であった。
 
そうそう、やっとブラティスラヴァの楽人らを捕まえられた。本人ら曰く、自分らの団体の発音は「ムハ」だそうな(最初に劇場舞台での紹介で読まれていた「ムチャ」というのは、明らかに間違いとのこと)。というわけで、本日以降、「ムハQ」と記すことにする。悪しからず。
 
今、レッジョは土曜の深夜11時前。旧市街中央の広場では、ロックバンドが大音量でライヴをやっていて、裏路地の宿まで轟音が響いてくる。さっきまで、ベルリン=東京Qが劇場の近くでブラームスのクラリネット五重奏を弾いていた筈だ。北イタリアの夏の週末には、いろんな音楽がある。

3次予選結果

第10回

パオロ・ボルチアーニ国際弦楽四重奏コンクール

レッジョ・エミリア便り 〈6〉

音楽ジャーナリスト 渡辺 和

「マダム弦楽四重奏」とヨーロッパ室内楽業界で呼ばれるイレーネ女史と話すムハQ。

「ムハってのはチェロ君の名前で、先生はそのお父さんなんです。そう、確かにミューシャ、って読むところもあるみたいだね。」

この質素な発表風景にも慣れてしまった。

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本日は待っていた参加団体に池田審査委員長がアナウンス。ダメだった人はこれから先生と話をして下さい。

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タカーチュQのヴィオラ女史を取り囲むヤナQ。「ヴィオラの貴方、あのヤナーチェク第3楽章の16分音符だけど、どうして貴方はああいう風に…」

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以下の写真は、クリック(タップ)すると、

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以下は現地時間、日本時間は7時間+
 
6月1日午後8時〜
 
◆ヴァレーズQ シューベルト《死と乙女》
 
◆ケレマンQ バルトーク第5番
 
◆ムハQ ショスタコーヴィチ第9番
ライヴストリーミング
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