本日も恙なく(とはいえ、遥か日本でライブストリーミングをご覧の皆さんはお気づきの通り、若干一名某審査員さんの遅刻はすっかり恒例化し、本日も午後にはとうとう開演が15分も押す事態になっているのだけど)2次予選初日が終了。比較的経験の長い団体が多かったこともあり、ガッツリ演奏会を5つ並べたような1日であった。
 
初夏の北イタリアは日本の夏のように熱気を浴びた台地からモクモクと雲が沸き上がり、昨日は夕方前に夕立が来たのだが、今日はどうやら雨にまではならなかったようである。尤も、昼前から夕方まで劇場のプレスボックスに詰め込まれている身には、そんなこと実感のしようもないのだけれど。
 
 
さて、パオロ・ボルチアーニ国際弦楽四重奏コンクール、10団体の熱演の紹介はさせていただいているが、コンクールなるイベントは演奏する若者だけでは成り立たない。それを審査する長老達、審査員団があってこそだ。セッションの結果が出ない本日は、これまで紹介してこなかった当コンクールの審査員を列挙しておこう。
 
まずは審査委員長。我らがヴァイオリンのサムライ、弦楽四重奏の技術的な事なら何でお知る巨匠、池田菊衛氏である。「アッコルド」には何度も登場下さり、読者諸氏にはすっかりお馴染みだろう。東京Qでのツアー生活を終えてまる1年、少しは楽になられたのかと思ったら、そうでもないらしい。
 
「イェール大学にはまだ自分の部屋もあり、レッスンもしています。でも、演奏旅行はないからシーズン期間中は家にも随分いられました。このコンクールが終わると、夏のセミナーやフェスティバルで、かえって忙しくなる(笑)。」(池田)
 
日本でも、洗足での教職に加え、この秋からはかつての僚友磯村氏と共に第3期生を向かえるサントリーホール室内楽アカデミーの教頭に就任。富山でのセミナーも控えているという。勿論、コンクールで成果を出すばかりが教育ではないけれど、熱戦が繰り広げられた先週の大阪国際に2団体を送り込んだ同アカデミーにもの凄い師匠たちがやってくるわけだ。レッジョ大会真っ最中の今から、次の大阪が楽しみ、などと口走るのは気が早過ぎるかしら。
 
審査員団のもうひとりの長老は、チェロのフレッド・シェリーである。すっかり頭が白くなり、好々爺然とした風貌だが、かつてピーター・ゼルキンやリチャード・ストルツマンと組んだ「タッシ」の伝説は未だに色褪せていない。その後もリンカーンセンター室内楽協会の中心人物として、NYを拠点で活動している。弦楽四重奏奏者としては、ガリミアQのチェロを務めていたことがあるのは、案外と知られていないかも。この人がいれば、参加者がどんな現代曲を弾こうが審査員団は安心だろう。
 
現役の名弦楽四重奏奏者を代表するのは、タカーチュQの現ヴィオラ奏者ジェラルディン・ヴァルサー女史だ。審査席は池田審査委員長の隣で、ときおり真剣に話し合いをしているのは、中声がガッチリ支えるクァルテットの練習風景みたい。
 
これらアメリカ系室内楽の長老の周囲に配されたのは、ヨーロッパの若手である。このコンクール、以前から審査員に過去の優勝団体メンバーを起用する習慣があり、前々回などアルテミスQから現役ヴァイオリン2人が審査員に座った程。クスQのオリバー・ヴィレも既にここの審査員の経験がある。儒教思想の(?)日本やアジアの大会ではあり得ないだろう。
 
今回は、元アルテミスQのヴァイオリン、ハイメ・ミューラーが審査員に名を連ねた。教育者としての拠点をベルリンからリューベックに移してからも、今やピヒラー門下に匹敵するアルテミス門下を次々と輩出、ドイツ室内楽教育の新たな潮流をつくりつつある。レッジョ大会を経験しているだけに、この会場での響きや参加者のメンタルまで熟知しているのは審査に大きな強みとなろう。ちなみに前回の大阪にも審査員として来日、楽譜の版を巡って事務局を慌てさせる几帳面さを示してくれた。
 
イタリア代表の2人は、クレモナQのヴィオラ奏者シモーネ・グラマグリアと、トリオ・デ・パルマでチェロを弾くエンリコ・ブロンズィ。前者はやはりこの大会の舞台を経験している卒業生である。ご隠居有名人ではなく、このような現役バリバリの中堅どころを審査員団に入れてくるなど、なかなか気骨あるコンクールではないか。
 
そして今回のレッジョ審査員団の目玉は、マルタ・アルゲリッチである。正直、数ヶ月前にレッジョからの案内を見て、目を疑ってしまった。現役最高峰のピアニスト、室内楽は別府やルガーノで盛んに行なうとは言え、内田光子のような常設弦楽四重奏とのピアノ五重奏などは殆どやらない(少なくとも筆者はそんな事例を聴いたことがない)超個性派スターである。
 
筆者の周囲の関係者は、皆、このピアニストが審査員団に入ることに危惧を感じるばかりだったが、大阪で審査される張本人のカヴァレッリQメンバーに感想を聞いたところ、「あら、あんなに音楽的にスゴイ人が審査員にいるなんて、素晴らしいじゃない」とのことだった。なるほど、ステージ上の若者達はこちらが心配するような不安を感じていないのならば、確かに面白い人選ではある。
 
これらのメンバーがレッジョ・エミリア市立劇場平土間の真ん中に一列に坐り、連日の熱演を聴いているのだ。さても、まずは明日の2次予選の結果、どのようなことになるやら。
 
 
もうひとこと。コンクール演目について。
 
ストリーミング予告をご覧になってお判りの通り、この大会の各ステージの演目は、ちょっと独特である。第2次予選で既に本選のような大曲を並べて来る参加団体もいる。
 
詳細はこちら、大会規程の公式データ20ページ以降をご覧あれ。
http://www.iteatri.re.it/allegati/REGOLAMENTOPREMIO%20PAOLO%20BORCIANI%202014_130701062018-9_140507014940.pdf
 
既に終了した1次予選では、
ベートーヴェン《ラズモフスキー》第1番の第1楽章(何故かペータース版との指定まである)、それに列挙された古典派、ロマン派、現代までの作品群から1曲。2次予選は古典派からロマン派までのリストから1曲、それに近代から現代までのリストから1曲。3次予選はリストアップされた古典派から1曲、ベートーヴェン《ラズモフスキー》第1番全曲、それにマティアス・ピンチャー、トマス・アデス、ヴォルフガング・リームの3曲からどれか1曲。そして本選は、リストにある全演目からお好きな1曲、である。
 
長大なコンサートになることが予想される3次予選は多少の制約はあるが、それ以外のラウンドは、演奏する側にとって極めて選択の幅が広い。このコンクール、演奏曲選びから闘いが始まっているのだ。
 
さて、第4日目も午前11時から5団体が2次予選の演目を披露する。結果が発表になるのは、日本時間では午前3時くらいになるのではなかろうか。

審査員・演目

第10回

パオロ・ボルチアーニ国際弦楽四重奏コンクール

レッジョ・エミリア便り 〈3〉

音楽ジャーナリスト 渡辺 和

開演前に劇場広場に到着すると、あれまぁ、巨大広告が伸びている。左端に1枚、若者の写真が追加されているのだ。つまり、コンクール開幕に完成しなかったということかしら。流石、イタリア!

開演前、ステージ上で音チェックをするノガQを、聴衆がロビーのモニターで眺めている。連日100名ほどが詰めかける聴衆は、殆どが街のご隠居だ。なにしろ予選は全て入場無料、3年に一度の楽しみである。

池田審査委員長を囲み、ミューラーとヴァルサーがなにやら相談。みんなクァルテットを知り抜いたプロ中のプロだ。

セッションに向けてがっちり食事、美食の街でピザとサラダを頬張るクァルテット・ベルリン=東京の面々。

お腹もいっぱい、《死と乙女》で強烈なパワーをイタリア聴衆に聴かせよう、頑張れ、ベルリン=東京Q。

先週の同じ日に大阪で弾いていたカヴァレッリQがここにいる。なんだか不思議だけど、プロとなれば当たり前のことなのだ。時差ももう取れた。あとは弾くのみ。

以下の写真は、クリック(タップ)すると、

拡大され、キャプションも出ます。

以下は現地時間、日本時間は7時間+
 
5月29日
 
◆インダコQ
11:00~
ブラームス第2番
ヴェーベルン作品5&9
 
◆ヤナQ
12:15~
シューマン第3番
バルトーク第3番
 
◆ジュビリーQ
15:15~
シューベルト《死と乙女》
バルトーク第3番
 
◆ケレマンQ
16:30~
シューマン第1番
バルトーク第4番
 
◆ミューシャQ
17:45~
ラヴェル
ショスタコーヴィチ第8番
 
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