日曜の午後10時50分、レッジョ・エミリア市立劇場2階23番ボックスで、空っぽの舞台を眺めている。全てが終わったのではない。今、審査の真っ最中なのである。どうやら居並ぶ街のVIPには、劇場上層階で軽食が振る舞われているようだ。
 
8時開演予定で、客席がオープンしたのがその5分前。決して合理的な造りなわけでもないイタリアのローカル歌劇場は、客席やボックスに人が収まるだけでもタップリ時間がかかる。
 
席が埋まったところで、おもむろに「聴衆賞」の投票用紙をスタッフが配り始める。客席のヤナQやカヴァレッリQにも配っている。関係者パスを胸に付けた筆者にも、有無を言わさず手渡される。プレスたる筆者が投票用紙をいただいて良いのかしら。ま、ここはイタリア。
 
6階のボックスまで人が詰まった劇場の平土間数列がポッカリ空いている。8時半に近くなったところで、やっと審査員団が入って来る。池田審査委員長以下、今日は皆が正装だ。
 
かくて、ヴァレーズQから演奏開始。輪郭線のハッキリした《死と乙女》。大拍手。で、休憩も無くケレマンQが登場。今日はチェロが第1ヴァイオリンの隣に坐る。正確さを越えた、ヴィルトゥオーゾ性がエンターテインメントにまで至った痛快なバルトーク第5番を披露。また大拍手。
 
再び休憩無しでムハQが舞台へ。さて、数日前のショスタコーヴィチ・サイクルの続きですよ、ってなわけでもなかろうが、完全に手に入ったショスタコーヴィチ第9番をサラッと披露。またまた大拍手。
 
演奏が終わるともう10時20分を過ぎている。聴衆は帰ろうとはせず、すっかり夜も更けた劇場前広場で噴水ショーを見物したり、劇場の様子が見えるカフェに入り込んだり。審査が終わった雰囲気は欠片もない。遥か日本はもう…月曜朝の6時過ぎじゃないか。
 
 
午前0時10分、池田審査委員長から結果が発表された。以下。
 
◆優勝:ケレマンQ
 
◆第2位&聴衆賞:ムハQ
 
◆第3位&現代作品演奏賞:ヴァレーズQ
 
ジュネス・ミュージック・ドイツ賞(マスタークラス参加権):インダコQ
 
聴衆賞のムハQと、同賞次点のケレマンQの票差はわずか数票だったとのこと。池田審査委員長に拠れば、審査員の間でもめるようなことは殆どなく、本選も結論を出すのは難しくなかったという。
 
「ケレマンQはともかく個性的。得意な曲とそうでない曲とがハッキリしていて、上手く試合を進めたということかな。僕としてはいろいろ言いたいこともあるけど、ああいうバルトークもある、ということです。(池田)」
 
もう夜も更けた。あとはエピローグで、明日にでも。読者の皆様、審査員の皆様、クァルテットの皆様、そしてスタッフの皆様、お休みなさい。
 

結果発表

第10回

パオロ・ボルチアーニ国際弦楽四重奏コンクール

レッジョ・エミリア便り 〈7〉

音楽ジャーナリスト 渡辺 和

優勝したケレマンQ。今回のレッジョは以前までの日本優勝ツアーはないが、たまたま来年の9月に紀尾井ホール、サルビアホール、宗次ホールでの演奏は決まっていた。まだ公式には未発表だが、ドイツのマネージャーさんがOKというので、お祝いついでにここでだけ漏らしてしまおう。請うご期待。

午前中には今日の本選を盛り上げるように、旧市街役場前の庭園でベルリン=東京Qの演奏が披露された。礼拝の終わりを告げる鐘の音、上空で追いかけっこをする燕たちの声、それらがベートーヴェンの快癒の歌に重なり、通りを挟んだかつてイタリアQが練習した部屋の窓へと届いていく。

開演前の劇場は、正装の人で溢れる。今日は特別な日なのだ。

客席が埋まると聴衆賞投票用紙が配られる。

これが投票用紙。お気に入りグループにチェックを付すだけ。裏には一応、いろいろ面倒な規程が記されているのだけど。

審査員団も席に着いた。

演奏が終わり、劇場ロビーに置かれた投票箱に清き一票が投じられる。

アルゲリッチ審査員もご機嫌でケレマンQと写真に収まった。

以下の写真は、クリック(タップ)すると、

拡大され、キャプションも出ます。

以下は現地時間、日本時間は7時間+
 
6月1日午後8時〜
 
◆ヴァレーズQ シューベルト《死と乙女》
 
◆ケレマンQ バルトーク第5番
 
◆ムハQ ショスタコーヴィチ第9番
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