ヴィヴィアン・ファン作曲弦楽四重奏曲第3番の、最後のクライマックス部分。

 ただいま土曜日の午後、ロマン派セッションの真っ最中なのだが、池田氏インタビュー翻訳がバンフ事務局から許されるという当初予定していなかった仕事が飛び込んだために遅れてしまった一昨日のセッションについて、ざっと記させていただこう。どの団体が良かったか、とかではなく、コンクールという状況で新作初演をどう扱うかということ。

 

 ここバンフで飯の席で顔を合わせ、世間話などをしていると、アメリカ合衆国の参加者は「俺たちの国は軍事費に金を使うばかりなのに比べて、カナダは文化に沢山お金をつかってくれる」と盛んに口に出す。確かにここバンフは、北米というよりもヨーロッパ圏、若しくは旧コモンウェルス圏の各国の空気。国営放送局や州政府、国が、文化にゴッソリお金を出すのである。無論、政権が変わってお金が出なくなる、不況で税収が減れば文化への配分も減る、等々の問題もあるわけだが。

 

 さて、ここバンフでも、コンクールをひとつの方便にしてカナダ文化をより豊かにするための措置が成されている。それ即ち、若手カナダ人作曲家に対する新作弦楽四重奏曲。カナダ全土をカバーし大きな影響力を持つカナダ放送協会CBCと、バンフ・センターとの共同委嘱である。カナダの若い作曲家とすれば、3年に1度、技術的には猛烈に達者な若手10団体が、自分らの将来を賭けて我が新作を弾いてくれる可能性があるのだ。これほど有り難い機会はあるまい。

 

 今回を含め11回のコンクールで、演奏時間が10分とすこしの新作クァルテットが11作生まれているわけだ。まあ、そこまでならば、世界のどの他のコンクールでも似たようなことをしているわけで、良くやっているなぁ、くらいにしか思えまい。バンフ・コンクールのスゴイのはそこから。ともかく、折角それなりの予算を割いて委嘱した作品なのだ、みんながステージで演奏してオシマイ、にはしないようにしているのである。

 

 去る金曜日、午後2時から1度のインターミッションを挟みつつ、参加10団体がヴィヴィアン・ファンの弦楽四重奏曲第3番をたて続けに演奏する。その前に、午後1時からコンクール監督のバリー・シフマンと中国系美女の作曲家ご本人がステージに登場。曲を巡って一種のプレコンサート・トークを行なう。とはいえ、楽譜の詳細を分析し解説するというより、作曲の経緯や聞き所など、あくまでも会場に集う当たり前の聴衆が対象だ。

セッションの間に慌ただしく食堂でランチを終え、

700名を越える聴衆がエリック・ハーヴェイ劇場へと向かう。

コンクールで委嘱新作をどう扱うか 音楽ジャーナリスト 渡辺 和

第11回バンフ国際弦楽四重奏コンクール

11th Banff International String Quartet Competition

バンフ便り(その5)

ロビーには本日(30日)のセッションの内容が表示されている。

 

 コンクール初日からロビーに仮設された売店では10ドルでこの曲のミニチュアスコアが売っており、専門的な関心のある聴衆はとっくに購入済。楽譜にはかなり詳細な演奏の手引きのようなコメントが掲載されているので、その気になれば新作ラウンドの金曜日までにいくらでも勉強出来よう。流石に作曲家と聴衆の質疑応答はないものの、作曲家女史は会場ロビーを歩き回っているので、その気にさえなれば、本人を捉まえて直接質問するのに何の困難もない。ラウンド開始前に聴衆に提供出来る情報の全てが、あまさず開示されているのだ。

 

 そればかりか、セッション最中のインターミッションには、会場ロビーでコメンテーターのエリック・フリーゼンが、アフィアラQチェロ奏者のアドリアン・ファンに曲を巡るインタビューを行っている。曰く、アドリアン・ファンは過去にヴィヴィアン・ファンの第2弦楽四重奏曲を演奏しており、第1番も勉強していて、この作曲家の作風を知っている。作曲家から完成した楽譜の技術的なチェックを頼まれ、あくまでも演奏家としての現実的な視点からアドヴァイスをした、とのこと。

 バンフの新作委嘱に対する本気さは、演奏者達の方にも向いている。コンクールの期間中、2日間に亘り、センター内のそれぞれの弦楽四重奏の練習場に作曲家が出向き、半時間ほどのセッションを行うのだ。未知の楽譜を前に、初演する演奏家と作曲者が話し合いをするのは考えてみれば当然のことだが、恐らくは、課題曲に対し全参加者にこんなことをしているコンクールは世界に他にないのではなかろうか。演奏する団体にとっての利点は言うまでもないが、作曲者としても、10もの異なる演奏団体から新作への様々な視点を示される希有な経験となるわけで、これほど勉強になることもなかろう。

 

 それほどの手間暇をかけ、一期一会のやっつけ仕事ではなく演奏された音楽は、様々な様相を示しつつも、明快なメッセージを持つ曲として舞台上に再現されていた。幸いにして、バンフ・センター及びCBCのサイトで10種類の演奏の全てを聴くことが可能なので、関心の向きはそちらをどうぞ。やはり聞き所は最後のパッサカリア。チェロの下降するバスラインの上でテンポが自由な第1ヴァイオリンがカデンツァ風の楽想を歌う間を、第2ヴァイオリンが悲痛な歌で埋めていく瞬間だろう。

 

http://music.cbc.ca/blogs/blogpost.aspx?modPageName=&year=2013&month=8&title=Listen-to-10-performances-of-Vivian-Fungs-String-Quartet-No-3-from-BISQC&permalink=/blogs/2013/8/Listen-to-10-performances-of-Vivian-Fungs-String-Quartet-No-3-from-BISQC

 

 じっくりお聴きの上で、日曜夕方の最優秀委嘱作品演奏賞の発表をお待ち下さい。

セッション開始前にステージ上で対談する作曲家ヴィヴィアン・ファンとコンクール監督バリー・シフマン。

セッションの休憩時間には楽譜作成に協力した前回2位のアフィアラQチェリストのアドリアン・ファンが作品を語る。

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