イギリス留学、東京芸大大学院

 

「リサイタル自体は、以前も勉強のために行なったことはありますが、イギリス留学から帰ってきて、藝大の大学院を3月に修了したので、その区切りと言いますか、社会人デビューも兼ねて、正式なデビューという形でリサイタルを行ないます。」

 

──イギリス留学で印象に残っていることは?

 

「良い意味で多国籍的なところが好きです。東京に似ているといえば似ている。世界中から素晴らしい演奏家、指揮者、オーケストラがロンドンに来ます。

 

ですから、私もロンドンに居ながらにしてドイツやウィーン、フランスの演奏家の演奏を生でたくさん聴くことができました。学生に対して優遇があって、4ポンドでくらいの値段で、売れ残っているS席相当のチケットを買うこともできるんです。」

 

──イギリス留学のとき東日本大震災があったのですよね。

 

「ええそうです。その日、たまたま虫の知らせというか、朝の7時くらいにぱっと目が覚めて、そのときにSNSを見たら、皆が地震だ地震だと言っていて、最初なんのことか分からなくて。情報も何も無くて。

 

何も分からないまま、でも両親から、無事だという連絡が来たんです。おかげで安否を心配するということがなかったんです。その時、ふだんその時間帯には家にいない父が偶然家にいたんです。

 

その後映像がどんどん入ってきて、本当に驚きました。This is not movie.とか放送されて本当に信じられない思いでした。」

 

 

 

──先日、大学院を修了なされて、長い学生生活も終わったわけですね。

 

「東京芸大ということでは、高校の時からですから、長い期間でしたね。修了式のとき、光栄にも総代をさせていただきました。本当に感慨深い思いでした。

 

2012年に、大学院に復学してからは、玉井菜採先生、そして客員教授のペーター・コムロシュ先生に師事しました。バルトーク・クァルテットのファースト・ヴァイオリンを弾いていた方です。

 

玉井先生が復帰されて修了までお世話になりました。 玉井先生は、自分の表現したいものを実現するために、どのような技術を身につけ、駆使するのか、といったことを教えてくださいました。

 

いろいろな質問をしましたが、なるほど!といつでも明確に納得のできるお答えを出してくださいました。

 

例えば、体の重心が上の方に行ってしまうと、体が強ばってしまいますし、音も落ち着かないので、あまり良くないのですね。

 

その対策として、ちゃんと二本の足で立ち、真ん中に一本芯が通っているという意識を持ち、丹田(ツボ)に空気を入れるような意識を持つのですが、それをやっているつもりでも、いろいろな精神状態によっても楽曲によってもだんだんと重心が上がってくるのですね。

 

そこを見つけてくださったりするんです。対策のための体操、呼吸法まで教えてくださいました。」

 

──昔の武士がよく腹を練れ、と言われていたらしいですが、それに近いのかもしれませんね。

 

「自分では、練れているつもりでも、そうではなかったことに、自分で気づけるようになったことはとても大きいことだと思います。

 

気づくと、やはり片足重心になっていたりするんですね。ですから演奏しながら修正することができるようになりました。それによって音の飛び方が変わるので大切なことです。改めて姿勢というのは大事だと思います。」

 

幸運にも三人のハンガリーの巨匠と

 

「コムローシュ先生は、ハンガリーの方ですが、私がイギリスに留学しているときも同じハンガリー人のジョージ・パウク先生でしたので、共通するところを感じました。

 

コムローシュ先生は室内楽のキャリアをお持ちなので、そういう観点でも音楽を捉えていらっしゃいました。ソナタのレッスンでは室内楽奏者としての観点からのアドヴァイスもいただきました。

 

私は今まで三人のハンガリー人の先生(ベラ・カトーナ先生、ジョージ・パウク先生、ペーター・コムローシュ先生)に師事してきたのですが、ハンガリー人の過去の素晴らしいヴァイオリニスト達が作曲家に多大な影響を与えて、それによって、素晴らしい作品が数多く生まれたことに気づいたので、そのことを大学院の研究報告書というものに書きました。

 

そして、私自身三人のハンガリー人の先生からどのような影響を受けたか、ということも関連づけました。 そして最後の学位審査会で、研究報告書に基づいて、一時間以内のプログラムを演奏するのですね。

 

私は、バルトークの二番のソナタとブラームスの三番のソナタを演奏しました。 カトーナ先生とパウク先生は、父(ヴァイオリニストの澤和樹氏)の先生でしたので、ご縁もありましたが、コムローシュ先生に師事できたのは幸運でした。」

 

メッセンジャーとして

 

──ところで、デビュー・リサイタルの選曲は。

 

「いろいろな時代のものを入れたいと思いましたが、まずはベートーヴェンのソナタとバルトークの作品は必ず入れたいと思いました。イザイは一番好きな4番。すべて私の好きな名曲を選びました。それぞれの世界、作曲家がどのような思いを込めたのか、メッセンジャーとしてお伝えしたいです。」

 

──現在使われてる楽器は?

 

「1685年のグランチーノです。バッハが生まれた年です。元々父の楽器なのですが、温かみのある音色でとても気に入っています。やっと最近になって、自分のコントロールが効くようになってきたと思います。弓はペカットのコピーの作品です。これも気に入っています。」

 

──今後の活動の抱負を。

 

「いろいろな事をするのが好きな性分なので、室内楽を中心に、ソロも活動していきたいです。今年はご縁があって、12月までの期間限定で芸大オーケストラで演奏させていただくことになりました。他にもエキストラで弾かせていただいているオーケストラもあるのですが、そこでもさまざまな作曲家の作品を知ることができたり、オケでの弾き方というものを学ばせていただいているので、自分の経験を増やすことができてとても有り難いです。」

取材/青木日出男

 

 

 

表現したいものを実現するために

技術を身につけ、駆使する

──デビュー・リサイタルを前に

 

ヴァイオリニスト澤 亜樹さんに訊く

 

インタヴュー

この春、東京藝術大学の大学院を修了されたヴァイオリニストの澤亜樹さんが、デビュー・リサイタルを行なう。
プロフィール
東京生まれ。6歳よりヴァイオリンを始める。
東京藝術大学附属音楽高等学校在学中の2002年より1年間、イギリスに留学し、ベラ・カトーナ氏に師事。
 
2006年、第17回パリ国際バッハコンクール・ヴァイオリン部門第2位受賞。2009年、藝大モーニングコンサートに出演、藝大フィルハーモニアと共演。
 
2010年、東京藝術大学音楽学部首席卒業。安宅賞、アカンサス音楽賞受賞。ウクライナのキエフにて、ウクライナ国立フィルハーモニーと共演。2011年、青山音楽賞新人賞受賞。
 
2010年より2年間、文化庁新進芸術家海外研修員として、英国王立音楽院に留学し、最高位のDiploma of Royal Acaddemy of Music(DipRAM)を得て首席卒業。学内にてWilfrid Parry Prize,Roth Prize,Regency Award等多数受賞、ロンドン交響楽団2010/2011シーズンString Experiece Scheme研修生。2012年、松方ホール音楽賞受賞。
 
2014年3月、東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程修了。玉井菜採、ペーター・コムローシュの両氏に師事。
 
これまでにヴァイオリンを小林美恵、故・鷲見四郎、若林 暢、ジェラール・プーレ、ジョージ・パウクの各氏に。室内楽を岡山 潔、大野かおる、河野文昭、マーティン・オートラムの各氏に師事。
 
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澤 亜樹ヴァイオリン・リサイタル
Pf.野田清隆
2014年4月27日(日)14時 東京文化会館小ホール
曲目:
J.S.バッハ/ヴァイオリンとチェンバロのためのソナタ第3番ホ長調BWV1016
ベートーヴェン/ヴァイオリンとピアノのためのソナタ第7番ハ短調Op.30-2
イザイ/無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第4番ホ短調
ショーソン/詩曲
バルトーク/ラプソディー第2番Op.89
 
詳細:アスペン03-5467-0081
 
 

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