●大谷先生の最初のレッスンは4小節
— 小さい時から弾くのが好きでした?
好きな曲を好き放題弾くのは好きでしたが、いざ練習となると大嫌いでした(笑)。ただ、人に演奏を聴いてもらうのは大好きだったですね。
ヴァイオリンを始めた次の日から「おうちリサイタル」っていうのがあって、毎日かならず練習の最後に家族の前で発表会をしないといけないんです。そうやって中学生くらいまで家族にお披露目する時間があったのは大きかったと今になって思います。
— 大谷康子先生が「あんなに伸びた子はいない」とおっしゃっていました。
中学生の時に受けた大谷先生の初めてのレッスンでは、最初の4小節でとめられて、1時間それだけでした。それから遅れていた分を取り戻すために、1ヵ月にエチュードを4〜5曲、コンチェルト1曲とか、北海道から先生の行く先々どこにでも通って・・・あの時が一番練習したような気がします(笑)。
右も左もわかりませんでしたけれど、先生との出逢いは食らい付いていけるものを見つけたというのが大きかったかもしれません。先生にも「やりたいことがあったらなんでも自分でよく考えてやりなさい、やりたいと思うことがひとつでも見つかったらただひたすらそれに向けて頑張りなさい」とよく言われました。
結局、藝大付属高校を落ちて、藝大に1浪してようやく入ったので、入った時は喜びより、ここから4年間でどうやって世の中と戦っていくだけ力が付けられるだろうって不安のほうが大きかったです。祝福されればされるほど、4年間で命がけで何かをしなかったら期待に答えられないと逆に不安で、そこからのスタートでした。
●一度もぶれなかった「夢」
— いつからコンサートマスターになりたいと思うようになったのですか?
さすがに小1の文集は覚えていませんでしたが、小5から高校まで札幌のHBCジュニアオーケストラに入っていて、高2からはコンサートマスターとしてヨーロッパ遠征も経験させてもらいました。
その楽しさは子どもなりに感じていたので、職業になったら自分にとっての天職になるかなぁと。勉強のためにコンチェルトは大事で、いっぱいやりましたし、今もやってますけれど、一番好きなのはオーケストラで皆さんとカーッと弾いている時で、数小節のコンサートマスター・ソロに全神経を傾けるのはすごく幸せです。
大学1年の時からいろいろなプロのオーケストラでエキストラとして弾かせていただけたのも、大変でしたがすごい経験になりました。もちろんどこでも、コンサートマスターがどんな動きをしているか、自分だったらどうするかということをいつも考えて弾いていました。
— どうして願いが叶ったと思います?
負けず嫌いで、自分の思ったことは達成できるまで曲げないですね。今回の話もそれが大きかったと思います。コンサートマスターになりたいという夢があったので、それまではオーケストラに入らないと決めていました。
それと強く念じること(笑)。短期スパンでの目標と、長期スパンでの目標とそれぞれずっと頭の中で念じていただけなんです。それを念じながら、今日やることを1つずつ、明日死んでもいいくらいの勢いでやってはいました。
母が体があまり丈夫でなく「明日死んでもいいというくらい悔いなく生きる」というのが口癖だったので、それが植えつけられたようです。
— いろいろなオーケストラにエキストラやゲストコンサートマスターで出演してきましたね。
いろいろなところで可愛がっていただきました。ゲストコンサートマスターで呼んでいただいても、最初の1回で次があるかどうかが決まりますが、僕はどこに行ってもひたすらいろいろな方とお話しさせてもらいました。人が好きなので。
それにどんな立場で行っても、もう皆さんは僕より何倍もその曲を弾いているし、人生の先輩でもあるので、何やっても見透かされているでしょう?
だから体当たりするしかなかったので「僕はこう思ってこうしたいけれど、それはオーケストラとしてはどうなのですか」とか、とりあえず僕の情報や知識になるものは全部教えてくださいというようにお話ししました。それにはスコアを読み込んで、自分の考えの確信は見つけていくようにしましたが。
(続く)
子どもの頃からの夢「コンサートマスター」
〜仙台フィルハーモニーコンサートマスター
西本幸弘さんに訊くその1
聞き手:重松貴子
インタヴュー
プロオケで一番若いコンサートマスターとして、西本幸弘さんが仙台フィルに就任したのが2012年10月。小学1年の文集に「コンサートマスターになりたい」と書いた夢が実現してから2年が経ちました。
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プロフィール
札幌市出身。6才よりヴァイオリンをはじめる。
東京藝術大学音楽学部器楽科卒業後、英国王立北音楽院で首席栄誉付ディプロマ取得。同音楽院よりバルビローリ賞をはじめ、多くの褒賞を受賞。
英国を拠点に活動し、海外オーケストラとの共演や、ザルツブルグをはじめ世界各地の音楽祭で演奏、著名な演奏家との共演も数多い。英国にてNISHIMOTO TRIO、イゾラーニ・カルテットそれぞれを結成し、ウィグモアホール(ロンドン)など著名なホールで招待演奏、イギリス・オーストラリア両国国営放送(BBC、ABC)などにも出演した。
日本帰国後、ニュークラシカルオーバーグループ《Rain Cats & Dogs》結成、ユニークな活動は好評を博している。 また、 自身が掲げる《VIOLINable》をテーマに、ヴァイオリンでの音楽可能性を追求するコンサートプロジェクトを始動し定期的にプロデュースしている。
各種施設での訪問ボランティア演奏などのアウトリーチ活動にも精力的に取り組んでいる。
2012年、仙台フィルハーモニー管弦楽団コンサートマスターに就任。
現在、仙台国際音楽コンクール企画推進委員会委員、ふもとのこどもオーケストラ音楽監督、Mt.FUJI交響楽団ミュージックアドヴァイザーも務める。
ヴァイオリンを上木節子、山崎量子、北本和彦、大谷康子、田中千香士、澤和樹、ヤール・クレス、各氏に師事。
ツイッター : @yukihironishimo
仙台フィルこれからのスケジュール
●シーズンオープニングコンサート
4月18日(金)19:00開演
日立システムズホール仙台コンサートホール
指揮:小泉和裕、チェロ:三宅進、ヴィオラ:井野邉大輔
ベートーヴェン:交響曲第2番
R.シュトラウス:交響詩「ドン・キホーテ」
●第282回定期演奏会
5月16日(金)19:00、17日(土)15:00開演
日立システムズホール仙台コンサートホール
指揮:山田和樹、ヴァイオリン:アリョーナ・バーエワ、ソプラノ:高橋絵理
プロコフィエフ:ヴァイオリン協奏曲第2番
マーラー:交響曲第4番
●仙台フィルが市民に贈るオーケストラ・スタンダードvol.9
5月30日(金)19:00開演
日立システムズホール仙台コンサートホール
指揮:飯守泰二郎、ピアノ:津田裕也オール
ベートーヴェンプログラム
バレエ音楽「プロメテウスの創造物」序曲
ピアノ協奏曲第3番交響曲第6番「田園」
★仙台フィルサービス TEL:022-225-3934
青少年のためのオーケストラ鑑賞会2012.6.28
仙台市青年文化センター・コンサートホール
指揮:鈴木織衛