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尾池のブルーマンデー憂さ晴らし

ヴァイオリニスト 尾池亜美

第76回

久々のローザンヌにて

カメラータ・ド・ローザンヌ

こんにちは! 憂さ晴らしのお時間です。
 
ヨーロッパはここ数日の間に一気に気温が下がりました。最高気温が23,4℃の暖かい日々と思っていたら、翌日には8℃。長い冬の始まり始まり。
 
さて、先週は旅の週でして、久々のローザンヌにてカメラータ・ド・ローザンヌのリハでした。レマン湖は相変わらずの眺めの良さです。
3日間、短時間で密度の濃いリハを経て、全員で本番のあるザルツブルクへ移動。隣の国ではあるけど真横に長々と移動するので8時間掛かります。直行の飛行機がなくてちょっと不便。
 
移動中、山中の駅が不具合でバスに乗り換え。するとそこには真っ白な世界が…
わりあいしっかりとした初雪を見られました。笑
 
ザルツブルクに着いても寒い寒い。
 
さて、ここではアモイヤルが大きなクラスを持つ、モーツァルテウム音楽大学の新しいホールで演奏するのですが、そのホールは室内楽に最も適しているという評判のホールでした。
窓からはザルツブルクの山がみえるというおまけつき。
 
確かに客席で聞いてると、ゴージャスな音がします。Liquid gold、溶けて流れる金のような。壁はいくつも柱が重なるような形のコンクリートで、反響板となるパーツも細かく計算されて、波打つように配置されているようです。
 
しかしこのホールを知るカメラータのメンバーたちは『恐怖のホール』と言っており、アモイヤルも『このホールで弾くのが好きな人は居ない』というほど、演奏家にとって恐いホールみたいです。自分の弾いてる音が、すぐに客席へ飛んで行ってしまって、返ってこない。それなのでカメラータで演奏するときも、12人が12人の音を聞き合うということが極めて難しかったのです。
 
おまけに、コンサートの最終曲、チャイコフスキーのセレナーデではハプニングが。1楽章中盤でヴィオリストのA線が物凄い音を立てて切れたのです。皆びっくりしつつ、弾き続ける。互いの音が聞こえにくいなか、集中を保つのも大変でした。
 
1楽章を弾き終えて、アモイヤルは穏やかに『弦を替えておいで』とヴィオリストに勧め、彼が緊張に震えながら、舞台袖で弦を交換する間、私たち奏者はゆったりとその場で待っていました。
 
お客さんのほうもそこは心得ていて、すこしざわざわとしながらもヴィオリストが帰ってくると温かい拍手が。次が静寂の3楽章ではなく、ワルツの2楽章だったのも救いでした。その後は集中力をまた高め、一気に弾き切ることができたものの、アンコールにバッハのG線上のアリアで静かに締めよう、という直前に、またもや彼の弦が切れるというオチ付き(笑)でコンサートは幕を閉じました。
聞きにいらしてた生徒さんから拝借。
 
弦が切れた時の判断というのは本当に難しいけれど、カメラータのように少ない人数の場合はそのまま弾きつづけることはほぼ不可能。お客さんを信じて、弦を替えに戻るしかなかったと私は思います。
 
実際替え終わって演奏に戻る時には、なんとなくお客さんとも『これでまた集中して楽しめるね。』という、新しい信頼関係が出来ていたような気もします。
 
久しぶりのカメラータ。メンバー全員が刺激、啓発し合う、前向きなエネルギーをもった団体です。また一緒に演奏出来ることを楽しみに。
 
それではまた、良い一週間を!

© 2014 by アッコルド出版

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