ヴィオリスト矢谷明子さん

クレモナ市街の目抜き通りコルソ・ガリバルディ通り57番にアントニオ・ストラディヴァリが最初の妻と新婚生活を始め、初めての工房を構えたとされる“ストラディヴァリの家”が大切に保存されている。
 
妻フランチェスカ・フェッロボスキとの結婚記念日である7月4日、この通りに面したストラディヴァリの家のバルコニーにヴァイオリンの音色が鳴り響いた。
 
西日の差す土曜の夕方、若手演奏家の奏でるヴァイオリンは“ストラディヴァリの家”に展示されているクレモナの現代製作家達の楽器が使われ、ヴィヴァルディの四季より“夏”、バッハの無伴奏、パガニーニのカプリス等が演奏された。
 
バルコニーの下には100席近い簡易椅子が並べられ、警官によって道の両サイドは車両通行止めにしたものの、周辺のお店は普段通り営業中だったため、コンサート中も時折パン屋さんに入る人や乳母車を押しながらバルコニーの下を通る若い夫婦などを眺めながら、クレモナの普段の生活の情景そのままを包み込むような約1時間のオープンコンサートだった。
 
現在、一階にオシャレな食器店を構え、その上にあるバルコニーには“ストラディヴァリの家 1667年~1680年 A.ストラディヴァリが最初の妻スランチェスカ・フェッロボスキと過ごした家”と書かれた石碑が掛けられている。
 
小さな入口の奥にある細い階段を登ると可愛らしい中庭が出てくる。アーチ型の柱をくぐり振り返るとストラディヴァリの家の扉とその横に開け放された窓が一つあり、室内に並ぶ楽器が垣間見えた。
 
小さな2部屋がつながっただけの“ストラディヴァリの家”では、2012年に設立された「ストラディヴァリアツィオーニ協会」www.stradivariazioni.comによって、現代製作家の楽器が展示され、事前予約することで展示楽器の試奏や製作家達の話が聞けるため、観光名所としてだけではなく、演奏家、製作家、音楽愛好家等が訪れる交流の場にもなっている。
 
 
1671年にはストラディヴァリとフランチェスカの間に初めての息子であり、後のストラディヴァリの仕事の第一後継者となるフランチェスコとやはり弦楽器製作家になったオモーボノが生まれ、賃貸ではあったものの1667年の結婚当初から1680年までの13年間をストラディヴァリ一家はこの家で過ごした。1680年の春には新しい家を購入するだけの資金が調い、その年のうちに一家は新しい家へと移り住んだ。
 
この自宅兼工房で製作されたといわれる有名な1669年製ヴァイオリン“クリスビー”や1672年製ヴィオラ“マーラー”などをはじめこの時期に製作された楽器は、若いストラディヴァリの芸術的成長とプロとしての成功を確固たるものに築き上げたことを物語っている。
 
ヴァイオリン史において最も重要で偉大な製作家が活動初期を過ごした息吹を感じられるこの家のバルコニーからはクレモナの美しい塔“トラッツォ”が眺められ、ストラディヴァリもこのトラッツォの鐘の音を聴きながら楽器に命を吹き込み、後の世の人類の至宝を生み出したにちがいない・・・
 
♪♪♪ 
バルコニーコンサートは“ストラディヴァリの家~バルコニーの夜の調べ~”として2015年8月29日、9月12日、9月25日開催予定。(18時~)
ヴァイオリン演奏 アナスタシア・ペトゥリシャク
www.stradivariazioni.com

~Akiko Yatani from Cremona in Italy~

矢谷明子のクレモナ通信

東京都出身。桐朋学園大学卒業、研究科修了後渡欧。イタリア、シエナ・キジアーナ音楽院にてY.バシュメット、クレモナ・W.スタッファー音楽院にてB.ジュランナ各氏に師事。2002年アネモス国際コンクール弦楽器部門最高位受賞。

 

共演したS.アッカルド氏より「正確な技術と温かい音色に加え卓越した音楽性の持ち主」と評され、イタリアを中心に日本・台湾各地でソロ、室内楽奏者として活動。また、団員全員がソリストとして契約するL.マゼール音楽監督、イタリア交響楽団(旧トスカニーニ交響楽団)では唯一の日本人メンバーとして活躍。世界各地で演奏活動を行なう。

 

2011年3月、イタリア・クレモナにて東日本大震災被災地支援コンサートとして行われたヴィオラリサイタルは、地元紙2紙で大きく取り上げられ、その後も震災支援活動の一環としてイタリア、日本において被災地支援コンサートを開催。また、東日本大震災被災者支援のため、クレモナ市に協力を仰ぎ、国立ストラディヴァリ国際弦楽器製作学校所有のヴァイオリン、ヴィオラを寄贈してもらい被災地に届ける活動を開始した。

 

2012年、世界最高峰の弦楽器製作コンクールとして知られ、3年に1度クレモナで開催される「第13回A.ストラディヴァリ国際弦楽器製作コンクール」において日本人演奏家として初めての審査員を努める。クレモナ在住。イタリア音楽家協会エンパレス会員。

ストラディヴァリの家 初夏のバルコニーコンサート

~妻フランチェスカとの結婚記念日によせて~

立ち見客で溢れるコルソ・ガリバルディ通り

今も昔もクレモナの塔”トラッツォ”が見守る街行く人々

地元テレビも取材に

ストラディヴァリの家の前のポスター

コルソ・ガリバルディ通り57番

道に描かれたストラディヴァリの名前と焼印

ストラディヴァリの家

ストラディヴァリの名前の彫られた石碑は57番地の目印

日常の風景の中のコンサート

ストラディヴァリの家中から中庭を望む

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写真提供 ストラディヴァイリアツィオーニ協会 

© 2014 by アッコルド出版