ヴィオリスト矢谷明子さん

クレモナのMdVヴァイオリン美術館が「20世紀のイタリア弦楽器製作家たち」展を開催している。MdV美術館運営下のこの新しい展示会は、約一月毎にテーマを変え、イタリア国内でも珍しい貸与、購入、支援という業績を誇る唯一の美術館であり、この重要な時期のイタリア弦楽器製作の歴史の遺産を知らせる為に行なわれている。

 

フィレンツェの製作家を中心とした「20世紀のトスカーナ派」(2014/2/8~3/7)では、トスカーナ派を代表する巨匠イジーノ・ズデルチ(Igino Sderci ) の作品を中心に(1934年製のヴァイオリンと1937年クレモナ弦楽器製作コンクールで優勝したヴァイオリンとヴィオラ)、フェルナンド・フェッローニ(Fernando Ferroni)、ダリオ・ヴェットーリ(Dario Vettori)、アルフィオ・バテッリ(Alfio Batelli)、シルヴィオ・ヴェツィオ・パオレッティ(Silvio Vezio Paoletti)、アルフレッド・デル・ルンゴ(Alfredo Del Lungo)等の作品が一堂に展示された。

 

20世紀のトスカーナ派は1800年代から1900年代にかけて2人の偉大な巨匠、ジュゼッペ・スカランペッラ(Giuseppe Scarampella)とヴァレンティーノ・デ・ゾルツィ(Valentino de Zorzi)が、フィレンツェに移り住み工房を構えたことから始まった。

 

この2人の巨匠の後に続く様にカルロ・ビジャック(Carlo Bisiach)など多くの製作家が活躍し、20世紀最後のトスカーナ派巨匠I.ズデルチに辿り着く。

 

1600年から1900年代の多くのトスカーナ派の製作家はパーフリングを楽器の縁近くに入れ、インナーバウツを浅くしコーナー(プンテ)が短い等(写真1)、他の流派との違いをはっきりと見ることができる。

 

また、横板裏の当て木にブナの木を使用したり、古い職人などは表板に杉の木を使用することもあった。楽器のボタン(裏板上方の半円部分)に各々の製作家が独自の焼印を押したこともトスカーナ派の特徴として紹介されている。(写真1)

 

展示楽器からは、時間の経過と共に細かい刻みが入り美しく深みを持った伝統的なトスカーナのオイルニスも見ることができた。(写真2)

 

また、忘れてはならないのはフィレンツェのメディチ家・トスカーナ大公子(フェルディナンド・デ・メディチ)による170点以上に上る貴重な楽器コレクションである。

 

このコレクションには1600年代フィレンツェに工房をかまえていた44人の製作家の多くの作品をはじめ、アントニオ・ストラディヴァリ(Antonio Stradivari) が大公子のために製作した1690年製のチェロとヴィオラ・テノールも存在する。

 

会場ではメディチ家の紋章を入れたF.フェッローニのヴィオラ・テノールも展示され(写真3)、メディチ家のコレクションが当時の多くの製作家に影響を与え、その後のトスカーナ派形成の礎に大きな影響を与えたことも見てとれる。

 

また、この様な長い歴史と伝統を受け継いで辿り着いた20世紀後半、巨匠I. ズデルチの工房で優秀な職人として働き、1987年フィレンツェで若くして亡くなった日本人製作家Mitsumasa Usuiの名が20世紀トスカーナ派の歴史の最終行に刻まれていたことは印象的であった。

―ストラディヴァリ財団 MdVコレクション―

20世紀のイタリア弦楽器製作家たち Vol.2

ストラディヴァリ財団ヴァイオリン美術館

矢谷明子のクレモナ通信

東京都出身。桐朋学園大学卒業、研究科修了後渡欧。イタリア、シエナ・キジアーナ音楽院にてY.バシュメット、クレモナ・W.スタッファー音楽院にてB.ジュランナ各氏に師事。2002年アネモス国際コンクール弦楽器部門最高位受賞。

 

共演したS.アッカルド氏より「正確な技術と温かい音色に加え卓越した音楽性の持ち主」と評され、イタリアを中心に日本・台湾各地でソロ、室内楽奏者として活動。また、団員全員がソリストとして契約するL.マゼール音楽監督、イタリア交響楽団(旧トスカニーニ交響楽団)では唯一の日本人メンバーとして活躍。世界各地で演奏活動を行なう。

 

2011年3月、イタリア・クレモナにて東日本大震災被災地支援コンサートとして行われたヴィオラリサイタルは、地元紙2紙で大きく取り上げられ、その後も震災支援活動の一環としてイタリア、日本において被災地支援コンサートを開催。また、東日本大震災被災者支援のため、クレモナ市に協力を仰ぎ、国立ストラディヴァリ国際弦楽器製作学校所有のヴァイオリン、ヴィオラを寄贈してもらい被災地に届ける活動を開始した。

 

2012年、世界最高峰の弦楽器製作コンクールとして知られ、3年に1度クレモナで開催される「第13回A.ストラディヴァリ国際弦楽器製作コンクール」において日本人演奏家として初めての審査員を努める。クレモナ在住。イタリア音楽家協会エンパレス会員。

展示会場

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展示会場 (2)

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展示会場 (3)

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I.ズデルチ ヴァイオリン(1934)

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I.ズデルチ 1937年クレモナ製作コンクール優勝ヴァイオリン
I.ズデルチ 1937年クレモナ製作コンクール優勝ヴァイオリン

I.ズデルチ 1937年クレモナ製作コンクール優勝ヴァイオリン

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I.ズデルチ1937年クレモナ製作コンクール優勝ヴィオラ

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I.ズデルチ1937年クレモナ製作コンクール優勝ヴィオラ裏

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F.フェッロー二 ヴィオラ

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F.フェッロー二 ヴィオラ裏

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写真3

写真2

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