今日のグルーヴ〈470〉
一時に何度も聴く楽曲シリーズ。ラヴェルの『マ・メール・ロワ』(マザーグース)の終曲の妖精の園。
これは、眠りに就いた眠れる森の王女が王子の口づけで目を覚ますシーンということらしいが、そのようなハッピーエンドにはどうしても聞こえない。
家内は独自のストーリーを描いている。王子への恋に破れた人魚姫が、海に帰っていく場面を想像するのだという。
確かに、全体に寂しげであり、諦観に満ちている。
ところでチャイコフスキーの眠れる森の美女の結婚行進曲もまったくめでたい感じがしない。まるでチャイコフスキーの結婚の失敗を暗示しているようである。この楽曲のトランペットを吹いたことがあるが、ただひたすら苦しい。
『マ・メール・ロワ』で、私が好んで聴くのは、ジャン=フィリップ・コラールの演奏である。昔、彼のインタヴューで写真を撮ったことがある。
背が高く、何より指が長いことに驚いたものだ。見た目が、いわゆる繊細な長い指なのであるが、その手が誰よりも大きい。二回りくらい大きいのである。
つまり、繊細で長い指プラス力強さも備わった類い希なる指に違いないと私は思ったのである。
実際、彼の演奏は、繊細でありながら力強い。彼のマ・メール・ロワの演奏も繊細ながら力強いのである。そして、歌う。
私はピアノで歌うことはどの楽器よりも難しいと勝手に思っているが、聴衆に心の中で一緒に歌わせることに成功したならば、どの楽器よりも歌心が表現されると思っている。