今日のグルーヴ〈351〉
グルーヴは、長く伸ばす音、つまりロングトーンにもある、と言ってみたい。
例えば、ロングトーンには、よくヴィブラートをかけるが、このヴィブラートはグルーヴの源の一つに違いない。しかし、ヴィブラートをかけないロングトーンにもグルーヴはある。
トーンというものは、そもそも振動が源であるが、その振動自体がグルーヴの源である。
尤も、グルーヴを感じないロングトーンもあるにはある。例えば純正律のハーモニー。
純正律の完璧にハモったハーモニーにはグルーヴは無いかもしれないが、言ってみれば、一つの彫刻、絵画、時間から解放された永遠の美のようなものだ。
私にとっても、ロングトーンは、学生時代からの一生のテーマである。尤も学生時代は、全調スケール16拍ロングトーンという、ばかばかしいほどの練習をよくしていたものではあるが。
まったくロングトーンの美というものを知らず、また意味を考えようともせず、ただ、しごきに耐えることに意義があるなどという愚かな意識でやっていたのである。
しかし、初めて本田美奈子さんの『つばさ』を聴いたとき、椅子から転げ落ちるくらい度肝を抜かれたものだ。
間奏部分で伸ばされるロングトーンは約30秒である。『題名の無い音楽会21』では、驚異のハイトーンと表現していたが、彼女のハイトーンも勿論凄いが、このフレーズはむしろ、驚異のロングトーンと言った方がいいように私は思う。
まるで命を削って歌うかのような、物理的に不可能なロングトーンとしか思えなかった。彼女のように命を惜まず歌う歌にこそ、聴く者は、心を根底から揺さぶられるのだろう。このロングトーンにこそ、真のグルーヴを感じる。この名曲と名演は、日本の歌謡史上に燦然と輝くだろう。
ところで私も、ロングトーンあるいはロングフレーズで、命を削って死にそうになったことは何度かある。
「これ以上伸ばすと死ぬー、でも負けたくないー」という次元ではあるが。