今日のグルーヴ〈324〉
最初に指揮者の山田一雄氏を見たのは、ショスタコーヴィチのオラトリオ『森の歌』を指揮した時だった。
いろいろな人からいろいろな逸話を聞くような、すでに伝説的な方だったが、最初に見たとき、やはり衝撃だった。
何が衝撃だったかというと、指揮台の上で、指揮棒を担いで、歩く、もしくは散歩する人は後に先にもこの人しかいないのではないだろうか。
その後、相当なブランクがあって、次にヤマカズさんを目の当たりにしたのは、マーラーの交響曲第1番のリハーサルだった。
ただ、ヤマカズさんの名著『指揮の技法』は読んでいた。二拍子、三拍子、四拍子といった基本的な拍子の振り方、その図形には感動した。それまで認識していた図形とは少し異なっていて、しかし、その図形の美しさ、理にかなった理屈は、他のことは忘れても、いまだに覚えている。
いろいろな振り方があるし、理屈があるが、こと図形に関しては、ヤマカズの図形が最高に美しいと私は思う。
また、古いフィルム『日本ニユース』、今ではYouTubeでも見られるが、マーラーの千人の交響曲のヤマカズのアクションは最高に格好いい。
そのようなイメージをもちつつ、マーラーの交響曲第1番のリハーサルは、二度目の衝撃だった。
本当かどうか知らないが、『指揮の技法』でやってはいけない、と書いてあることを全部やっている、と自ら公言されていたという。
果たしてその通りだったのかどうか、私には分からなかった。しかし、ヤマカズの、振り方、アクションには共感しかなかった。ヤマカズから滲み出てくるのは、グルーヴそのものである。
しかし、1楽章の最後で、ファンファーレから盛り上がって、そのまま終わるところ、私は我が目を疑った。
ヤマカズの激しいアクションは知っていたつもりだったが、やはり歴史に残るような方は尋常ではない。
誇張でも何でも無い。ヤマカズが千手観音に見えたのである。