今日のグルーヴ〈164〉
15世紀のグーテンベルクの活版印刷が原理としてはつい最近(20世紀後半)まで主流だったわけで、オフセット印刷等もあったとはいえ、意外と、印刷技術の進化と普及は遅かったのである。
本は活字だけでなく、写真や図表等もあるわけで、それらは、樹脂凸版や金属凸版を使用した。
写真の場合、写真にトレーシング・ペーパーをかけて、鉛筆で縮小拡大を指示し、それを製造工場へ持って行って樹脂凸版や金属凸版を作ってもらう。
私は、若い頃、その工場へ写真原稿を届けに行ったり、できあがった凸版を印刷所に届けに行ったりしたものだ。
そして、職人さんが、編集者がレイアウトしたものを見て文字、写真、図表等を組んでいく。
それ自体が、印刷の時の版となる。
B5サイズの1ページでも、亜鉛でできた活字の集まり(組み版)であるから、相当に重い。そういうものが100ページ以上あったら、100個もの組み版があるわけで、置き場所にも困るくらいである。
そして印刷した後は、紙型というものに残す以外、保存することはできないので、ばらばらに解体する。解体された活字は溶かされて、また新たな活字が作られる。
編集者はほとんど意識しないが、その解体する時間も結構かかるため、印刷所にとっては、非常に手間暇のかかる作業であった。
また、当然ながら、活版印刷はカラー印刷が苦手である。原色版印刷というのがあったが、工程も複雑で、コストもかかった。
活版印刷の印刷方法というのは、意外とアナクロだったのである。体力勝負だったのである。
また、文選・植字は、手が汚れるため女性のなり手はほとんどいなかった。
しかし、とはいえ、活版印刷の仕上がりというのは、独特な味があった。印刷時のプレスにより、活字のところは多少凹みがあったが、それも味があったのである。
古いものが、すべて良くないというわけではない。 現在では、名刺や葉書の文面で活版が使われているところもある。
しかし、IT時代には明らかにそぐわなかったのであろう。
(つづく)