今日のグルーヴ〈237〉
歌謡の歌手の方は、一つの持ち歌を数え切れないくらい歌っていると思われるが、オーケストラの奏者の場合、シンフォニーにしても何にしても、数え切れるくらいの本番しかない。
比較すること自体無意味とは思うが、あえて比較してみたい。
オーケストラはだいたい4年でレパートリーが一周するというくらいだから、下手をすると4年に一度しか演奏していない曲もあることになる。
それでもシカゴ交響楽団の首席トランペット奏者を半世紀にもわたって務めたアドルフ・ハーセス氏は、「展覧会の絵」やマーラーの五番といったトランペット奏者一世一代の晴れ舞台の本番をそれぞれ130回以上にわたって吹いたそうだから、これはかなりの数になる。
130回以上も同じ曲で本番のソロを吹いたということは、歌謡の人にとっては少ない印象だが、オーケストラ奏者にとっては驚異的な数字である。
つまり、オーケストラの演奏は、大抵、極端に一期一会に等しいのである。そこでノーミスで演奏することは、奇跡に近いことなのである。ミスと言っても様々である。音を外さなくても、音楽的なミス、ということもあり得る。
ゆえにどんな曲でもこれが最初で最後、という意識で臨むべきなのであろうが、普通はそこまで自分を追い込むようなことはしない。
しかし、そこまで追い込んで演奏されたら、おそらく眠い演奏とは無縁のものになるに違いない。
今日もグルーヴィーな一日を!