今日のグルーヴ〈184〉
ヴァイオリニストで作曲家の故・玉木宏樹氏のことは、何度となく書いてきた。彼は自ら「七色のヴィブラートを持つ」と公言していた。
彼の左指は、指先の骨がたわむくらい柔らかかった。動きの俊敏さも超絶的だった。
それは、彼自ら考案した「革命的音階練習」によって培われたものである。
天才的と言われた彼だが、実は自ら考案した音階練習の裏付けがあったのだ。
彼の音楽練習の特徴を一つだけ書くと、どの調整も、G線のG(含♯or♭)から始まることにある。
彼は常々、「頭を使え! 頭を使え!」と言っていた。彼の演奏からは、天才的なフィンガリングとボーイングに見えたが、それは動物的な野生の勘ではなく、考え抜かれた裏付けがあってのことだったのである。
シューマンの名言「知性は指を動かすが肉体練習で指は動かない」を具体化して実践しているのである。
よく理屈は立派だが、実際の演奏を見て失望することがあるが、彼は理屈も実践もずば抜けていた。しかも、彼の偉大なところは、それを自分だけのものにしようとせず、広く普及させようとしたことにある。
勿論、彼のアプローチ方法だけが唯一のものではなく、奏法にはいろいろなものがあるだろう。これ以上は、話が逸れていくので、項を改めたい。
私が言いたかったことは「歌心はテクニックである」と言ったは玉木氏であったということである。
彼の七色のヴィブラートにはいろいろなタイプのものがあった。「あなたのヴィブラートを聴くと心を抉られる」と彼の女性ファンのひとりが言った。
ところが彼自身は、自分の冷徹な心にぞっとしたと言っているのである。決して自分のヴィブラートに飲まれていない。あくまでも歌うためのテクニックのひとつなのである。
今日もグルーヴィーな一日を。