今日のグルーヴ〈163〉
活字文化に関して、私は活版印刷の時代から経験しているが、この30年は疾風怒濤の時代である。
振り返ってみて、これからの活字文化の方向性を探ってみたい。
今日はその一回目。
活版印刷は、今ではほとんど行なわれていないが、今思うと懐かしい。
思い出すのは、活版印刷の文選・植字工さんの職人芸である。
活版印刷の活字は、亜鉛でできたはんこのようなものであるが、たくさんの活字が収納された棚から必要な文字を選び出し(文選)、それを組んでいく(植字)
という作業をする。
とにかく、手間がかかる作業で、アルファベットならいざ知らず、日本語のようにたくさんの漢字があると、どこに何の文字があるのか、ベテランになると、体で覚えているくらいである。
かつては、宮沢賢治もアルバイトで文選工をやっていた。
当時、原稿は原稿用紙に書いて印刷所に渡し、職人さんその原稿を見て、文選し、植字するのである。
その仕事をしやすくするために、つまり原稿を持ちやすくするために、原稿用紙は400字詰めでなく、200字詰めのB5サイズを作った。
文選・植字には時間がかかるため、原稿をなるべく早く入れなければならず、締め切りも当然があったが、なかなか、原稿ができず、遅れることはたびたびで、そうすると、印刷所からは矢のような催促が来たのである。
そして初校、二校、三校…と校正作業をするのであるが、仕上げの段階、つまり、印刷直前になると、印刷所に行って、一日校正作業をする。
いわゆる出張校正である。
余談であるが、印刷所ではいつも食事を出してくれるのだが、それが楽しみでもあった。
出張校正では、ゲラ刷りと言われるものに赤ペンで修正を書き込むのである。
そのゲラ刷りを見て、植字工さんは直していくのであるが、その速さは尋常ではなかった。正に職人芸であった。
職人さんの手はインクで黒く、また骨張って、ごつく、正に職人さんの手であった。
(つづく)
今日もグルーヴィーな一日を。