あなたの知らないイタリア ミステリアスガイド・アブルッツォ
石川康子・著 世界文化社・刊 1,800円(税込)
イタリアと言えば、ローマ、ナポリ、ミラノ、ヴェニス……といった街が日本ではよく知られているが、アドリア海側の州や街、というのはほとんど知られていないことにお気づきだろうか。アブルッツォ州と言っても、初耳の方も多いに違いない。ちょうどローマの反対側に位置する歴史的な地区である。
著者の石川康子氏は、数奇な運命で、アブルッツォ州と深く関わるようになり、この州の魅力をこの著書に記した。
意外と、アブルッツォと日本との関わりは古く、例えば、秀吉は、天正少年使節団が持ち帰ったヴァイオリン他の古楽器を聴いたと言われているが、この天正少年使節団を企画したのが、このアブルッツォ出身の宣教師アレッサンドロ・ヴァリニャーノである。
秘境の地とも言われるアブルッツォの歴史的背景を振り返りながら、この本では、各地の名所、魅力を紹介していく。
イタリアのなかで一番忘れられた存在で、日本ではよく知られていないこのアブルッツォを紹介したこの本の意義は大きい。写真もカラーでふんだんに使われていて、自然や、都市の構造、名所、歴史的建築物……を知ることができる。イタリアの名所を新たに発見した思いだ。
ピアノ嫌いにさせないレッスン 船越清佳・著
ヤマハミュージックメディア・刊 1,785円(税込)
フランスで20年に亘り、演奏、指導の活動を展開しているピアニストの船越清佳さんが、自身の体験を下に、生徒が苦しまずに続けられるレッスン法を具体的に語ったものを上梓した。
フランスにある二つの国立のコンセルヴァトワールを頂点にフランスには、多くのコンセルヴァトワールがあるが、国立以外のコンセルヴァトワールの99パーセントの生徒はアマチュアとして日々ピアノに向かい合っているという。我慢するのが嫌いで楽しいことが大好きな多くフランス人が、なぜ練習が大変なピアノと一生付き合っていくか? フランスで指導する筆者がその方法を具体的に教えてくれる。 一つ、ヒント。フランス人は、「ピアノ」からでなく、「音楽」を第一に考えるという。
日本の音楽基礎教育をベースにフランス音楽教育の長所を要所に織り交ぜることによってレッスンの可能性が大きく広げることをつきとめた筆者は、「質の高いレッスン」と「楽しいレッスン」との両立を図る。
ピアノ教育の本ではあるが、筆者の教育論には、あらゆる楽器、特に弦楽器にも応用できるものがたくさんある。
偉大なるヴァイオリニストたち〜クライスラーからクレーメルへの系譜〜
ジャン=ミシェル・モルク・著 藤本 優子・翻訳
ヤマハミュージックメディ・刊 2,940円(税込)
20世紀の偉大な演奏家と、その先駆者たち。違いを決定づける何かがあるとすれば、それは録音の発明であろう。
本書の著者ジャン=ミシェル・モルクは断言する。そして、この言葉こそが本書の特色を決定づける。音楽史にその名を残すヴァイオリニストを闇雲に紹介するのではない。情報があふれかえる21世紀のいま、あらためてヴァイオリン演奏をどう聴くのが楽しいか、道筋をつけようとしているのだ。
自分の音楽鑑賞スタイルをすでに確立した音楽マニアには、内容の質だけでなく、情報量の多さをよしとする向きがあるので、巨大な氷山からエッセンスを外科手術さながらに切り取り、凝縮してみせる手法の是非について好みがわかれるかもしれない。だが、初読時の見晴らしのよさ、辞書としての使い勝手のよさ、いずれの面から見ても、クラシック音楽ファンにとって必携の書と推薦したい。
モルクはヴァイオリニストを「系譜(出自や師事歴)」「時代背景」「演奏タイプ」「ライブと録音の両面のキャリア」などの観点から分析し、付録の音源の背景と、それを選んだ理由を説明し、なおかつ、余計な情報をぎりぎりまで削ぎ落とした文章で手際よく一冊を構成している。
登場する「20世紀の奏者」は50人。録音黎明期で状態のいい音源が残っていない奏者、教育者、室内楽で知られた奏者は、巻末にまとめて紹介するかたちをとる。50人のうちでは例外的に11ページを割くハイフェッツをのぞき、1人につき6〜7ページの列伝形式で紹介。印象的なアートワークもしくはポートレイト写真を冒頭に置き、小見出しをつけて読みやすくレイアウト。これはイギリスの専門誌『ザ・ストラド』にヴァイオリニスト列伝を連載してきたモルクが、雑誌のスタイルをそのまま踏襲したものと思われる。ヴァイオリニストとしての系譜、キャリアと私生活、活動した国や地域、得意な曲、キャリアの分岐点となる名盤など、選り抜きの情報を人間味あふれる筆致で述べてみせる。さらにありがたいのが、奏者ごとに使用楽器のリストが付されている点だ。現在も活躍する若手ヴァイオリニストたちの使用楽器を、かつて奏でた名手たち。資料はヨーロッパでも指折りの楽器工房主ヴァトロ氏の協力によるもので、このリストを叩き台にして、抜け落ちたピースを埋めていく「辞典マニア」的な楽しみ方も可能だ。
音楽は聴く者の数だけ味わい方がある。自分だけの宝を探すための地図として、手元に置いていただきたい一冊である。
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