尾池のブルーマンデー憂さ晴らし

ヴァイオリニスト 尾池亜美

第71回 新世界ボルシチ風

こんにちは! 憂さ晴らしのお時間です。
月の美しい9月前半でした。
今回はひたすら、あるコンサートの感想をお伝えしたいと思います。
 
先日一晩だけウィーンに居たのですが、滞在先がわりあい中心部で、楽友協会ホールまで歩いて15分。これは行かなきゃと、軽い気持ちで足を運んだのですが、自分の価値観が変わるほどの感動を受けました。
 
それも、涙するとか、鳥肌が立つとかではなくて、落ち着いているのに温かくじんわりと広がる、初めての種類の感動でした。
 
コンサートの内容は、ウラジミール・フェドセーエフ指揮、モスクワ放送響でプロコフィエフのロメ・ジュリ組曲第2番とピアノ協奏曲第2番、そして後半にドヴォルザークの交響曲第9番「新世界」。
 
初めて聴く指揮者とオケだったので、何となくお国柄や往年の巨匠というイメージから、分厚くて重々しい音楽を想像していましたが、その予想は、甘いものでした。全てが軽やかなのです。気持ちのいい歯切れ良さすら感じました。
 
オーケストラは、器用でライトな日本人や、発音の明快なドイツ圏にはない、味のしっかりした、でも後味は爽やかなボルシチのような(笑)、食べやすく、そしていつまでも食べていたくなる種類の音を持っていました。更に、80歳を越えたこの指揮者は極めて冷静にオケの情熱を捉えていて、その指揮をする動きや仕草――美しいので「所作」という言葉がふさわしいかな――はとても滑らかで上品。
 
腕が縦に動かず、始終くるくると回っているようでした。それも、いろいろな形に。結果的に、「いっせーのーせ」で合わせない、横に流れる音楽を紡いでいくのでした。
 
プロコフィエフと、ドヴォルザークという対照的なレパートリーでウィーンへ来た彼ら。その中でも、ドヴォルザークの新世界は、最初から最後まで驚きっぱなしでした。整然とした音使いで淡々と語る第一楽章。コール・アングレのメロディが有名な2楽章は、間延びしない、一瞬「はやっ!」と思ってしまうような前向きなテンポ。程よく空気が動いて、最後まで停滞しない、これも「滑らか」な演奏でした。美しさは全て音色で表現されていました。
 
そうした流れの後に、スケルツォ(=おどけて、の意、軽やかな3拍子の楽章)の3楽章を、がっちりと、普通より遅めで、内容がぜんぶ聞こえるように演奏したのです。そして終楽章も、決してはっちゃけない。「いけー!」「やれー!」みたいな気合系のパッションとは程遠く、でも中核に熱い塊があるような演奏でした。
 
正直、まだ聞いたものの全部を消化しきれていなくて、まだ色々なことを考え続けています。感動の続きは、また来週に述べたいと思います。
 
それでは、よい一週間を!

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