演奏家の世界は、試験、コンクール、コンサートなどと、幼い頃から様々なところで順位をつけられたり、比較をされる機会の多い、言うなれば、結構過酷な世界です。

 

今回は、そんな中で、絶望感、失意、そして嫉妬心を抱き、そんな自分にさえ嫌気がさしていた私が、今こうして、仲間の活躍を心から祝福出来るようになり、自分のことを前よりもずっと好きになれるようになったお話を、書きたいと思います。

発端は、ヨーロッパの聴衆でした。

 

私がたまたまラッキーだったのかもしれませんが、留学している間、試験や門下生発表会、マスタークラスなどで演奏すると、自分の先生だけでなく、ライバルであるはずの同じ門下の生徒たち、言葉も通じない聴衆たちが、私の演奏に心からの拍手と賞賛の言葉を送り、そしてハグまでしてくれるのでした。

 

彼らは単に、自分自身の審美眼を大事にしているので、どんなに無名の演奏家でも、ミスがあっても、とにかく自分がいいと思えば、素晴らしい!と思い、それを伝えてくれるのです。

 

逆に言うと、それが彼らにとっては当たり前のことなので、自分はなんて小さい人間だったのだろうと恥ずかしくなりました。

 

完全に自分は、情報や周りの人たちの評価、そうして凝り固まった自分が勝手に作り上げた思い込みに支配され、ネガティブな人間になり、人を羨み、自分にも自信が持てなかったのですから。

 

この気付きには、ものすごく、深く、勇気づけられました。

 

また、留学を経験して、言葉がうまく通じない中、多くの人に助けてもらったことで、人間、一人では生きていけないんだな、と痛感しました。

 

みんなみんな、それぞれに頑張っているんだと、自分の周りにあった霧が晴れるように、一人一人が輝いているように見えてきました。

 

自分の信じるものに対して自信を持つこと、それは目に見えないものに自信を持つこと。

 

それを実行するには、勇気が必要かもしれません。でも、それをしてあげられるのは、結局、自分しかいないと思うんです。

 

謙虚であること、そしてフレキシブルであることは、常に必要だと思います。

 

ですがそれは、自分を卑下したり、過小評価することとは違うと思うんです。

 

そんなことをしたら、インスピレーションや創造性を生み出す、自分の一番ピュアな心の部分が縮こまって、音楽という表現を出来なくなってしまいます。

 

自分で自分の"今"の状態をしっかりと見つめていれば、ダメな状態は素直にダメだと認められるし、いい時はそれをおごることなく、ただありのままの姿でいることが出来ると思います。

 

それが、人の真の強さなのかな、と最近思っています。

 

本当に強い人というのは、本当に優しい。

 

そんな人を、これからも一歩一歩目指していきたいと思います。

 

そこで提案です。

 

次にコンサートに行く時、ちょっとプログラムのプロフィールを読むことから目を離して、今の自分が感じることを、そのまま感じてみませんか?

 

奏者の新しい、全く違った魅力を発見出来るかもしれませんよ。

 

ここのところ、だいぶ真面目な話題ばかりだったので、次回は、「音楽の色気」について書いてみようと思います。

"Follow The Light"
ヴィオラ奏者 安達真理

 

第3回 手放した嫉妬心と

得た優しさ

Mari Adachi,Vla

東京生まれ。4歳よりヴァイオリンを始める.
桐朋学園大学在学中にヴィオラに転向。卒業後、同大学研究生修了。

 

2009年よりオーストリア、ウィーンに渡る。

ウィーン国立音楽大学室内楽科を経て、2013年スイス、ローザンヌ高等音楽院修士課程を最高点で修了。

 

2015年、同音楽院ソリスト修士課程を修了。

 

2013年よりオーストリアの古都インスブルックのインスブルック交響楽団にて2年間副首席ヴィオラ奏者を務める。2015年夏、6年間の海外生活にピリオドを打ち、日本人として改めて日本の役に立ちたいと決意を新たにし、完全帰国。

 

2005年霧島国際音楽祭にて特別奨励賞、優秀演奏賞受賞。
第6回大阪国際音楽コンクールアンサンブル部門第1位およびラヴェル賞受賞。


2006、2007年ヴィオラスペースに出演。『サイトウ・キネン若い人のための室内楽勉強会』に参加。


2007~2009年N響オーケストラアカデミー生として著名な指揮者、演奏家と共演、研修を積む。


2009年小澤征爾音楽塾オペラ・オーケストラ両プロジェクトにてヴィオラ首席奏者を務め、日本と中国にて公演。


2010、2011、2013年とオーストリアのセンメリンクでの国際アカデミーに参加する度、全弦楽器を対象とするコンクールにてソリスト賞を受賞。


2011年バーデンバーデンのカール・フレッシュアカデミーにて、バーデンバーデン管弦楽交響楽団とバルトークのヴィオラ協奏曲を共演、特別賞を受賞。


2011年よりカメラータ・デ・ローザンヌのメンバーとして、ピエール・アモイヤル氏と共に、スイス、フランス、トルコ、ロシアの各地で多数の公演を行なう。またこれまでにアライアンス・カルテット、ルーキス・カルテットのメンバーとしてオーストリア、ハンガリーを中心に公演を行なう。


2014年、バンベルク交響楽団にて首席ヴィオラ奏者として客演。


2015年、ローザンヌ室内管弦楽団とマルティヌーのラプソディー協奏曲を共演。
同年夏、モントルージャズフェスティバルに出演。クラシック音楽のみならず、幅広いジャンルで活躍。


世界的なヴェルビエ国際音楽祭にて、アマチュアの人たちの室内楽のレッスンにあたるなど、指導者としても活動を始めている。


ヴァイオリンを篠崎功子氏、ヴィオラを店村眞積氏、ジークフリード・フューリンガー氏、今井信子氏、ギラッド・カルニ氏、室内楽を、東京カルテット、ヨハネス・マイスル氏に師事。その他国内外にて多数のマスタークラスを受講。
http://www.mariadachi.com

 

 

聡明な解釈と美しい音による豊かな表現。彼女はアーティスティックな才能を持っている。』

——ギラッド・カルニ(ローザンヌ高等音楽院教授、チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団首席ヴィオラ奏者)

© 2014 by アッコルド出版