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尾池のブルーマンデー憂さ晴らし

ヴァイオリニスト 尾池亜美

第93回 道 その2

こんにちは! 憂さ晴らしのお時間です。
前回「道」という言葉を使いました。音楽の道って何なのだろう、と。
私は、そんなものは存在しない、と思っています。
 
私が目にしてきた周囲の人達を例に挙げます。
若い時に将来プロの演奏家になりたいと夢見た人が居ます。
または親や家族の勧めで始める人も居ます。
小さい頃から楽器のレッスンを受け始め、発表会に出たり、コンクールを受けてみる人たちが居ます。
 
音大に行く人は大体このようなプロセスを経て行くひとが多く居ます。
しかし大体の人が通るような道、というものが、音楽の道といえるのでしょうか。どうも違う気がします。
 
そのプロセスでは「より厳しい親」がお手本とされたり、「一日練習をサボると三日分下手になる」なんて根拠の無い脅し文句があったり、先生もそういった怖い教育で育った人だから生徒に余計怖くあたったり、と、とても子どもが楽しめないような「正解・不正解」の世界があります。
 
 
でも本当は、正解、不正解というのは全て「理論的なもの」からくるものです。理論を教えるのが先生です。生徒は、音楽理論をもちいて、自分の判断で演奏を作り出していかなければなりません。生徒本人の演奏が良し悪しで判断されるべきものではありません。
 
先生の責任は、生徒の良し悪しを決めることでなく、理論や演奏法を基礎から発展まで、順序良く教えてあげることにあって、実際どのように演奏するか、またその良し悪しを決める権利は無いように思います。
 
https://www.youtube.com/watch?v=Xt6nzIy66eQ
 
これはすごい動画で、当時12歳のレーピンの演奏から始まり、若かりしブロン先生がレーピンに物凄い厳しそうなレッスンをしているのですが、この先生が素晴らしいのは、生産的なことしか言わないということです。
 
フレーズの山で歌い足りない箇所はしつこく何度もフレーズを繰り返させます。また、幼い生徒が想像し得ないような情感やクライマックスを目指すための様々な要素を与えに与えます。
 
決して何かを禁止することがありません。とめどなく与えまくる。子どもは与えに与えられたことを自然に吸収し、本能的に良いと感じるものを自然に選択し、パフォーマンスへ持っていけるようなサイクルに持っていくのでしょう。
 
ただ、この人たちのように演奏を極めるとなると時間が掛かりますし、最上級のプロが音楽の「正解」だとすると、皆が最上級のひとの真似をしなければならなくなります。
逆立ちする人が正しいみたいな、地球がひっくり返ってしまうような無理が生じます。
 
音楽は本来、誰のものでもあるはずです。
限られた人のものではないはずです。
 
音楽の道を歩む、歩まないの話ではなく、気づけば既に隣にあるものだと思います。
 
そのくらい音楽は自然に、人に寄り添うことが出来る存在です。
 
音楽はどこにでも溢れています。そこらじゅうで鳴っている音、それが音楽となるためには、たったひとつのことがあればいい、気づけば良いのです。
 
あなたがそれを音楽だと認識することです。「あ、音楽だ」そう思えた時だけが、音楽が成り立つ瞬間です。そうして音楽はあなたの永遠の友だちになるのだと思います。
 
どんなに美しい音楽が鳴っていようと、あなたがそれをBGMか、騒音だとしか思っていなかったら、それは音楽になりえません。
 
でも、鳥のさえずりや川のせせらぎ、または電車の走りだすときの音や、いろんなひとのおしゃべり声、そんなものでも、音として楽しんでしまえば、それが音楽になります。
 
音楽はどこにでもある、誰もが楽しめるものです。
先生が演奏や音楽に「正解、不正解」を与えて、音楽を先生のものにして良いのでしょうか。
 
音楽をわざわざ「道」と呼んで、
難しさを与えないといけないのでしょうか。
 
音楽は知識がないと楽しめない、難しいから限られた人のもの、のように思ってしまうのでしょうか。
 
これが正解であれが邪道、なんてことはあり得るのでしょうか。
 
人は過去を振り返れば、その人の歴史というものが存在しますが、過去の成功者を真似して自分も成功者になろう、みたいなものを「音楽の道」と呼んでしまうことがある気がします。
 
他人にあやからんとする「道」。そんなものは早く消えてしまえばいいと思います。
 
 
ここでいつも書いていることは、私の経験から出て来たものを分かち合っています。
 
道についてお読みいただきましたが、私自身もいま、道を無くそうとしているところです。
 
自分に敷かれたと思っていた道を、「あ、そんなもの無かったわね」と思って、消しゴムでごしごし消しているところです。
 
これまでに色々な先生方、音楽仲間が教えてくれた経験から、理論と演奏法を抜き出して、あとは自分の判断で、自分の心に従って、演奏ができるようになろうとしています。
 
そのプロセスの途中だから、
過去を振り返る必要があったのかもしれません。
 
いつもお付き合いいただき、ありがとうございます。
今日も気軽に、音楽と一緒に生きていければ。アッコルドは、「音楽と人をつなぎます」がテーマです♪
 
それではよい一週間を!!
 

Ami Oike

French Romanticism

尾池亜美 ヴァイオリン

 

尾池亜美(ヴァイオリン)

佐野隆哉(ピアノ)

 

セザール・フランク:ヴァイオリン・ソナタ・イ長調

カミーユ・サン=サーンス:ヴァイオリン・ソナタ第1番ニ短調Op.75

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