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『過去最強クラスの爆弾低気圧』なんてものが襲来した。
我が家周辺は特に問題なかったが、各所の被害は甚大。
「異常気象」とか「想定外」「○年に一度の」という言葉に、
すっかり重みを感じなくなってしまった昨今だが、
陳腐になっているのは言葉だけで、現実は厳しく痛ましい。
「今回のこの58hPaという『落差』が問題なんです!」
気象予報士さん達の熱のこもった解説に、真剣に耳を傾けるが、
どうも正しく理解できていない気がする。情けない。でも、
今回の爆弾低気圧が特別だったということは分かった…かな。
個人的には『爆弾低気圧』とは何ぞや? そこからだ。
=「中心気圧が24時間に24hPa以上下がる温帯低気圧のこと」
気象庁的には『急速に発達する低気圧』と言うらしいが、
俗語の『爆弾低気圧』も、なかなか言い得て妙だと思う。
「1978年9月イギリスからニューヨークに向けて大西洋を航海中だった豪華客船ク
イーン・エリザベス2世号が、予期しない10mを超す高波を受け船体の一部を破損」
…ああ、そんなこともあった。
このときの温帯低気圧も、中心気圧が24時間で60hPaも下がったのだとか。
「台風は『熱帯低気圧』が、爆弾低気圧は『温帯低気圧』が発達したもの」
「『温帯低気圧』は暖気と寒気の気温差をエネルギー源とする」
この際と、いろいろ勉強はしてはみるが、結局、
しっかりインプットされたのは、あの何だか美しい天気図だけだった。
間隔の狭い十数本の等圧線で形作られた同心円、
じ〜っと見ていると、ふっと吸い込まれそうになる。
突然、丸太の輪切りがボワッと頭の中に浮かんできた。
続いて、先頃読んだ異常気象関連の本を思い出す。その本の、
裏表紙の内容紹介に書かれた文に一本釣りされたのだ。曰く、
「ストラディバリウスを名器にしたのは寒冷な気候だった?」
☆
「彼(ストラディバリ1644-1737)が生きた時代は、太陽活動がもっとも低迷した“マウンダー極小期”という小氷期の中でも寒冷化の極であった期間と重なる。彼が使ったトウヒの原木は、(当時の)寒冷な天候によって成長が鈍化し、結果として年輪幅が小さく硬い材質のものになったというのだ」
ああ、そう言えば、以前にそういう論文を読んだ記憶が…。
“ストラディバリの謎”などといって注目されるものは、
例えば、ニスであったり、木材の乾燥度であったりする訳だが、
これらに関しては、研究の結果、そう特別なものは見つかっていない。
だけどストラディバリはストラディバリ、何か“特別”なのだ。
バッハやモーツァルトがそうであるように。
而して、その材としての『木』が、然るに『樹』が、
ヴァイオリンの“音”の根本的要素として研究対象になることは、当然のこと。
「ストラディは理想的な木を選別していた」などと言われれば尚更。
理想的な木材=軽くて丈夫で程よく柔らかい→年輪幅の狭い高密度な材。
—小氷期 Little Ice Age
1300年頃から1850年の約5世紀半の間に訪れた寒冷期を言う。
「穏やかな氷河期」という文言も見るが、それは「氷に閉ざされた世界」というもの
ではなく、平常より冬は寒く夏は暑い、気候の変動の激しい時代のことを言うよう
だ。この小氷期は、太陽黒点数が著しく減少した期間と一部一致するとされる。
—マウンダー極小期 Maunder Minimum
およそ1645年から1715年の太陽黒点数が著しく減少した期間の名称。太陽天文学の研
究者で黒点現象の消失について過去の記録を研究したエドワード・マウンダーの名前
に因む。
樹木を輪切りしたとき見られる同心円状の模様“年輪”(「成長輪」ともいう)、
トウヒなどの針葉樹は、この年輪がはっきりしているものが大半で、
その幅は季節によって成長速度に違いが出、成長が遅いと年輪の幅が狭くなる。
手元にある資料『ヨーロッパ中部アルプスでの年輪幅の推移』を見ると、
確かに、1620年頃〜1715年頃にかけて年輪幅の狭い期間が続いている。
そうか。
太陽がストラディの音を創っていたのか。
☆
気温の低下→農作物の不作→飢饉→経済の停滞→人々の移動→ペストなど感染症の流
行→社会不安→魔女狩りや体制の崩壊、この図式はよく分かる。
そして、これを引き起こす『小氷期』が、
太陽活動、火山活動や海洋循環の変動等と密接な関係にあるであろうことは、
想像に難くない。なるほど!という感じである。
『小氷期』なるものも、我々がつい口にする「異常気象」なるものも、
長い目で見れば、地球の成長の一過程であり、地球の小さな体調変化であり、
バイオリズム—それは周期的な気候変動の一部に過ぎないのだろう。
ただ、ちっぽけな我々にとってそれは死活問題。
何もできないが、無視もできない。頭が痛い。
そんな、傍迷惑な『小氷期』君に、
我が友ヴァイオリンが恩恵を受けていると?
実に複雑な心境だ。
ちなみに、この〈マウンダー極小期〉と呼ばれる時期、
日本では何が起きていたのかといえば。ときは江戸時代。
冷害、干ばつ、水害、害虫の異常発生や病害などに因る飢饉、そして、
現在までにおける歴史上最後の噴火である“富士山の宝永大噴火(1707)”。
さらに科学誌を読み進めていくと、気になる記事にぶつかる。
「太陽活動はほぼ11年の周期で変動している。(1755年より数えて)現在の第24太陽
活動サイクルは2008年から開始したとされている」のだが、
その「サイクル24の太陽活動は過去100年で最も弱く、今後、太陽活動の極小期に入
る可能性が高い」
「これから太陽活動が大きく低下する可能性がある」、結果として、
「地球は 2030年代をピークとする、数十年続く寒冷期に入るだろう」
ホント? 『温暖化』という語彙に洗脳された感もあって、
「寒いの? 暑いの? どっち!」と問い正したくもなるが、
東北3.11.大地震、西之島新島の誕生、御嶽山噴火、長野北部地震、
加えて、世界各地からの異常気象、異常事態の報告、
気候変動が激しい時期に入ったのだと、素人は思いたくなる。
寒冷期がやってくる—もしそれが本当なら、また、
ストラディが使ったような材ができる?
ならばこれは、今後のヴァイオリン製作者にとって朗報だ。
近々どこかで、“第二のストラディバリ”が生まれたりして。
☆
木目と楽器(の音)の質の関連性については、よく耳にする。
「ヴァイオリンを見るときは、まず木目を見る」とも聞く。
ボディだけでなく、駒も魂柱も同じだということも。
ただ、それを知っているからといって、しげしげと、
木目を眺めるなどということは、これまでしてこなかった。
だが、制作者の人達の「渾身の板選び」を知った今は、
ヴァイオリンを持てば、つい、その木目を鑑賞せずにはいられない。
そうして、その相関関係を実感する。個人的見解を挙げると、
木目幅が広い楽器の音色は、柔らかく明るい傾向があるが、
過ぎると、音色に個性を感じなくなり、ときには「バカ鳴り」することあり。
ただ密ならいいというものでもなくて、あまりにも詰まり過ぎている楽器は、
こもった苦しそうな音がして、鳴らし切れないイライラも生む。
木目がまっすぐであることは必須なようだが、
均一性に関しては、均一であればよいというものでもないらしい。
表板は、中心線を挟んだ周辺がより密であるものがよい、とも聞く。
もちろん木目がすべてではなく、厚さとのバランスも重要課題。
それやこれや、結局は製作者の腕に掛かっている?
それにしても、「早材」「晩材」、「夏目」「冬目」。
なんて素敵な名称なんだろう!
(どちらも前者が明るい部分、後者が濃い=縞に見える部分)
(「冬目」というが、冬は成長が止まるので実質は夏から秋の目)
イタリア製のわが愛器が生まれた1900年前後も、
太陽活動が低調な時期だったらしい。
できることなら、詳しく調べてみたいなぁ。
そうそう、我が家にいる「激安通販バイオリン」君は、
なぜか、木目らしい木目がない。不思議な感じの板だ。
どういう木で、どの向きで、どうカットされたんだろう?
値段通りの情けない音がするのだが、それでも、
ずっと傍にいれば、愛着も湧いてくる。
君も十分美しいよ、なんて慰めてみたりして。
☆
まったくの余談だが、
豪雪の苦難に抗いながら、各地から報告される、
『すごい雪だるま』画像に、感動している。
もう一匹のハチ公、土下座し踏まれる人、本物の自転車に跨る猫人…。
その発想たるや。日本人、すごいぞ!
ところで、外国はなぜ、三段雪だるまなんだろう?
可愛いとは思うのだが、二頭身の雪だるまを見慣れていると、
余分なものが付いている感じ、不安定な感じがあって、
見ていて、どうにも落ち着かない。
気になって、調べてみれば。
「頭」と「胴」と、そして「足」。分かります。
「だるま」ではなくて「スノーマン」ですから。分かります。
でもなぁ。
私はずんぐりむっくりの二段雪だるまが好きです。
ヴァイオリン弾きの手帖
ヴァイオリニスト、ヴァイオリン教師 森元志乃
第92回太陽とストラディバリ
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