シンフォニックなデュオの世界を
ヴァイオリニスト
鈴木理恵子さん・インタヴュー
鈴木理恵子(ヴァイオリン)
桐朋学園大学卒業後、23歳で新日本フィル副コンサートミストレスに就任。在学中は篠崎功子、インディアナ大学でJ. ギンゴールド、夏季セミナーなどでH.シェリング、N.ミルシタイン、M. シュヴァルベの各氏に師事。
97年からはソロを中心に活動。ソリストとして主要オーケストラとの共演、全国各地でのリサイタル他、国内外の数々の音楽祭に招かれる。また、クラシックに留まらず「東洋と西洋」をテーマに独自の活動を展開。神奈川県立音楽堂のレジデンスとしての斬新な公演は話題を呼んだ。さらにはベートーヴェンの弦楽四重奏曲全曲演奏等を行う他、スウェーデン・マルメ市立歌劇場の客演コンサートマスターとしても定期的に招かれるなど、その活動は幅広い。また04年より14年2月まで、読売日本交響楽団の客員コンサートマスターを務めた。
04年には国際交流基金等の助成を受けニュージーランド・ツアーを行い、その内容が現地ラジオや新聞でも大きく取り上げられた。05年にはバンコクにてリサイタル、06年は中国の北京、成都でリサイタル・ツアー、07-08年はインドネシアのジョクジャカルタ音楽祭、プノンペン国際音楽祭、09年はインドネシア、インド等、アジア各国の音楽祭に招かれて無伴奏リサイタル等を行い、いずれも大絶賛を博す。後進の指導にも力を注ぎ、これまでにニュージーランド、インドネシア、中国など各国の国立音楽院等で度々ソロ、室内楽のマスタークラスを行っている。
また著名な作曲家たちからの信頼も厚く、多くの作品の初演に指名を受けている。
ソロCDは、ヴィヴァルディ「四季」(共演チェコフィル室内)、「夏の夜の夢」、「フロム・ジ・オリエント」(レコード芸術“準特選盤”)、S. メリロのヴァイオリン協奏曲で参加した「Writing on the Wall」(米国グラミー賞4部門ノミネート)、久石譲プロデュース「ウィンター・ガーデン」、「ショパン・ファンタジー」等をリリース。2013年には若林顕とのデュオによる「ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ全集」(キングインターナショナル)。を発売。2014年6月には、若林顕とのデュオで「シューベルティアーナ」(オクタヴィアレコード)を発売予定。
08年に横浜美術館にて、東西の音楽やアートがジャンルを越えて交わるビヨンド・ザ・ボーダー音楽祭」を自らプロデュース(その後09年・14年横浜みなとみらいホール、2010年掛川市文化会館で開催)。国際的に活躍を続けるアーティスト達が集まり、クラシック音楽、雅楽、ホーミー、声のパフォーマンス、絵画、書、花架拳等がボーダーレスに響き合い一体となる斬新な内容が、大変高く評価されている。
また近年は夫でもあるピアニスト若林顕とのデュオで、ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ全曲をはじめとする数々のヴァイオリンとピアノのための名作に意欲的に取り組んでおり、その真摯な解釈による奥深い演奏が高い評価を得ている。
http://riekosuzuki.com/index.html
ヴァイオリニストの鈴木理恵子さんが
シューベルトの作品を録音(シューベルティアーナ)。
それを記念して、ピアニストの若林 顕さんとデュオ・リサイタルを行なう。リサイタル(10/10浜離宮朝日ホール)の中身ををうかがうと、そこには壮大な世界が。
シンフォニックなデュオを
──リサイタルは、長大なプログラムですね。
鈴木
基本的には、ピアノの土台があって、その上でヴァイオリンが自由に歌う作品が中心ですね。自分では、野太さ、重厚さ、そして繊細さというものをデュオを演奏することによって、強化して、ダイナミックに表現していきたい。その気持ちがプログラミングに現われていると思います。
ベートーヴェンの6番のソナタは、彼のシンフォニーの1番と2番の間くらいに作られた作品です。テンペストのちょっと前くらい。A durということでわりと明るさもあります。
シューベルトの「ヴァイオリンとピアノのための幻想曲ハ長調は、シューベルトの最晩年のすべてが集約されているような作品。これはシューベルトの作品の中でもシンフォニックな要素に満ちていると思います。
後半のR.シュトラウスはシュトラウス・イヤー(生誕150年)ということもあって選びました。R.シュトラウスの若いときの作品です。シンフォニーをやはりイメージしていると思いますし、そのアプローチで行きたいと思っています。
そして、それらとは違ったキャラクターを持ってきたいと思って、プロコフィエフの中でも、叙情的であり、ロマンティックであり、歌が有り、詩的な作品のある5つのメロディーを選曲しました。
シューベルトは、以前からのレパートリーですが、大事なレパートリーなので、あえて少し置いて熟すのを待っていたのです。シューベルトを時間をかけて練りこんでいきたい、というのもありました。
共演の若林さんもシューベルトは得意なレパートリーの一つなのですが、改めて再構築して、彼のシューベルトは本当に素晴らしい。ちょうどCDを録音するにあたって、シューベルトという案が出たときに、これはもう、いままさしくこの時期にこそシューベルトを、と思いました。
ヴァイオリンとピアノのための幻想曲は、ピアノで壮大なシンフォニックな部分が描かれていて、楽章の途切れがなく、物語が語られています。名前通りファンタジーな曲なのですが、冒頭は、数ある作品の中でも、これほどある意味難しい曲はそうそうないと思います。
ヴァイオリニストもピアニストもこの作品をやりたいと思われている方は多いと思いますが、誰にとっても勇気のいる作品なのではないかと思います。室内楽の最高峰の作品、ベートーヴェンで言えば、弦楽四重奏曲に匹敵するような音楽だと思います。そういう作品に取り組むにも良い時期に自分も入ったと思いました。
シューベルトは最初聴くと、長時間の作品に聞こえますが、繰り返しと、繰り返してからのちょっとずつの変化が多いんですね。でも、そこにシューベルトのこだわりを感じるんです。思い入れがあるのではないかな、と最近では思いますね。先日、インストアライブでカット版を演奏してのですが、やはりちょっと物足りないですね(笑)。
繰り返しというのは、バロックでは即興的に二回めは少しアレンジして演奏しますが、古典派以降は、基本的に同じ音符を演奏するわけですが、それでも一回目と二回目とでは、必然的に景色が変わりますよね。そこが繰り返しの面白さであり、必要な理由なのだと思います。
──ピアニストの存在が特に重要な作品ばかりですね。
鈴木
若林のことは、以前から知っていまし、是非一緒に演奏したいと思っていましたが、たまたまある音楽祭で共演したときに、本当に吃驚しました。ブラームスは素晴らしいのは知っていましたが、民族的な作品もキャラクターを全部理解している。勉強家なので。どの作品もそのキャラクターを表現していて、いろいろな側面を持っている。
それこそ、シンフォニックなイメージというか、彼の演奏からいろいろな楽器が聞こえてきたのですね。彼は一人で第九を演奏しますし、オーケストラも好きでよく聴きますし、ポピュラーも聴きますし、いろいろな素養を持っているのだと思います。
私は、長年オーケストラをやっていますから、いろいろな曲のイメージを持っていたのですが、彼のようなアプローチには本当に吃驚しました。新しいものを感じました。ピアノでこういうアプローチがあるのだと思って刺激を受けました。
実際にリハーサルをしていると、凄く緻密なんです。練習の仕方も細かいところから組み立てていく、あるいは全体から俯瞰する。そしてキャラクターといった細かいところを研究する時間のかけ方も入れ込み方も凄いですね。
そういう意味でも、学ぶこともたくさんあります。その中で、お互いの意見も自然な形で取り込まれていく。基本の言語はありますが、その上で、今回はこういう形でいこう、という感じですね。
ベートーヴェンだったら、ベートーヴェンの言語があって、その中で色を出していく。シューベルトもそうで、作曲家ごとの言語を厳密に作り上げて、その上で色を出していく。
私がイメージしている以上のものが彼から来るので、リハーサルはとても実になるものです。彼は、昔から、ソロだけでなく、多くの著名な演奏家と共演してきた経験も豊富ですから、そういうことも大きいのだと思います。
彼とは本当の意味でのデュオというものを感じます。ピアノが伴奏という概念ではなく、全部キャラクターがあって色があって……というものを小品の演奏からも感じます。ヴァイオリンとオーケストラがあるとしたら、オーケストラの部分をピアノ一台で表現するということですね。
すべてがデュオ、それが私の理想で、そもそも一緒に音楽を作り上げていきたい、と思う。会話を作り上げたい。オーケストラもクァルテットもデュオもそういう考え方ですね。私もこう表現するけれど、相手方からの表現も受けて、一緒に作り上げたい。それが演奏の醍醐味ですね。
グルーヴ
鈴木
デュオでもオーケストラでもクァルテットでもグルーヴは大切だと思います。演奏者それぞれのグルーヴのずれというものが新たなグルーヴを生み出すことは確かだと思います。
例えば、オーケストラの場合、あまりにもピタッと合いすぎると、薄い感じがしてしまうことがあります。綺麗だけれど、薄くなる。それはデュオでもそう。だから、意図的にずらしてうねりを出す。
──昔は、交通整理の行き届いた演奏が理想だと思っていました。最近は、そういう演奏に魅力を感じないどころか、音楽的ではない、とすら思うようになってきました。
鈴木
アインザッツがピタッとしていることが良いわけではなくて、例えば、意図的にずらしたときに逆に厚みが増したりする。そのずれがないと、音楽的な幅を感じない。それはどのような演奏形態でも共通しているように思います。
グルーヴ感というのは、それぞれの演奏家を大切にしつつ、全体として迫力のあるうねりをもたらすものだと思います。
理想的な演奏につながるものだと思います。
シューベルトの音楽というのはまさしくそういう音楽だと思います。歌であり、室内楽であり、シンフォニーであり、ですから色の層、音の層が見える演奏が理想ですね。私がヴァイオリンでそういう演奏をしたいと思っているときに若林からもっと凄い色と音の層の演奏がされるんです。
音律
──若林さんは、調律にこだわりを?
鈴木
そうですね。完全な平均律ではなくて、彼の好みで微調整する調律なのではないか、と思います。
ただ、この間、屋久島で演奏したときのことですが、ふだん弾かれていないピアノで演奏したんですね。でも、魔法のように演奏しているうちに音程が合ってくるんです。それは奏法もあるのでしょうが、皆不思議に思いました。
私も以前は、かなり音律に凝って、何度もそのお話もしましたが、若林さんは、奏法で、そういう音が出せてしまうピアニストなので不思議なんですよね。私自身は、音律を使い分けたい、ということでずっと演奏してきましたが、彼のピアノは、どの音律でもピタッと合ってくる。不思議なんですよ、若林のピアノは。
ヴァイオリンの場合は、音程を自由に変えられるので、どんな音律にも対応できるんです。でも、ピアノと演奏する場合は、土台が微調整した平均律で、ピアニストが奏法で対応していく、というのが最も現実に対応したやり方なのではないか、と思います。結局、基本平均律のピアノの微調整した調律で、どんな音楽にも対応できる。意外な発見でした。すべての音律を分かって演奏していて、奏法でピタッと合わせるのでしょうね。
例えば、この音を固めにとりたい、というときに、バスを出して、上声を薄めにするといいとか。そういうのがあるのでしょうね。私がヴェルクマイスターで演奏しているときに、ピアノの上声とぶつかるのを防ぐのでしょうね。そういう微妙な工夫が随所にあるのだと思います。それはリハーサルをすればするほど、日々発見がある、という感じです。本人も練習の度に発見があると言っています。
私は今まで、いろいろな音律を試しました。例えば、ピタゴラス音律はヴァイオリンにとってごく自然な音律で、ずっとそれを使っていた時期に、玉木宏樹先生と出会って、純正律を意識するようになり……でも、結局現在は、すべての音律を自然に取り入れているんです、音律は一つではないので。そこは弦楽器の良いところですね。かつて、いろいろやったことが、現在すべて生きてきているように思います。全部が消化されて身になって良い具合になっていると思います。
──ライヴでのやりとりが楽しみですね。
鈴木理恵子&若林顕デュオ・リサイタル
シューベルティアーナ
2014年10月10日(金)開演時間19:00
浜離宮朝日ホール
鈴木理恵子(ヴァイオリン)・若林顕(ピアノ)
ベートーヴェン
ピアノとヴァイオリンのためのソナタ 第6番イ長調Op.30-1
シューベルト
ヴァイオリンとピアノのための幻想曲 ハ長調D.934
プロコフィエフ
5つのメロディーOp.35bis
リヒャルト・シュトラウス
ヴァイオリンソナタ変ホ長調Op.18
お問い合わせ
コンサートイマジン Tel.03-3235-3777
その他のコンサート
【鈴木理恵子&若林顕 デュオ・コンサート】
2014年11月16日(日)14:00開演
雄勝文化会館メインホール(秋田県湯沢市)
エルガー:愛の挨拶
シューベルト:ヴァイオリンとピアノのための幻想曲ハ長調D.934
クライスラー:愛の喜び・愛の悲しみ
リスト:愛の夢第3番 ※ピアノ独奏
ほか
雄勝文化会館オービオン Tel.0183-52-2112
【鈴木理恵子 室内楽シリーズVol.1】
2014年12月14日(日)15:00開演
戸塚区民文化センタ―さくらプラザ・ホール
演目
エルガー:愛の挨拶
モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ第28番ホ短調KV304
クライスラー:ウィーン奇想曲、愛の悲しみ、中国の太鼓
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第9番イ長調Op.47「クロイツェル」
http://www.totsuka.hall-info.jp/event/chambermusic1.html
シューベルティアーナ
華麗に歌い上げるシューベルトの世界!
シューベルト:
ヴァイオリンとピアノのための二重奏曲 イ長調 作品162
華麗なるロンド ロ短調 作品70
幻想曲 ハ長調 作品159
アヴェ・マリア 作品52-6
ヴァイオリン:鈴木理恵子
ピアノ:若林顕
オクタヴィア・レコード
OVCL-00539 ¥3,200