ヴィオリスト矢谷明子さん

クレモナのMdVヴァイオリン美術館が「20世紀のイタリア弦楽器製作家たち」展が今年開催されているが、クレモナを中心に活躍しているヴィオラ奏者の矢谷明子さんによる、その第3弾のレポート。
 
MdV美術館運営下のこの新しい展示会は、約一月毎にテーマを変え、イタリア国内でも珍しい貸与、購入、支援という業績を誇る唯一の美術館であり、重要な時期のイタリア弦楽器製作の歴史の遺産を知らせる為に行なわれた。
 
モダン・ミラノ流派「ミラノ派」展(2014/4/12~5/9)では、ミラノ派を代表するアントニアッツィ、ビジャック・ファミリーの作品の他、G.オルナーティ、F.ガリンベルティ等、多くの製作者の作品が一堂に展示され、ミラノ派形成の勢いを感じ取る事ができた。
 
ミラノ派はアントニアッツィ・ファミリーと共に生まれたと言うことができる。
 
エンリコ・チェルーティの弟子と言われる父ガエタノ・アントニアッツィ(1825~1897)は、1870年、生まれ故郷のクレモナを離れ、家族と共に活動の拠点をミラノへ移した。
 
1897年の彼の死まで2人の素晴らしい製作家である息子リッカルド(1853~1912)、ロメオ(1862~1925)と共に多くの楽器を製作したにもかかわらず、生活のために他の製作家にエチケッタのない楽器を数多く提供したこともあり、ガエタノの楽器を見つける事は容易ではない。
 
また息子リッカルドとロメオの楽器はスタイルに僅かな違いが見られるものの、音色と見た目の両方の美しさを兼ね備え大変人気が高い。
 
テスタのスクロールは当然のことながら美しく、くっきりと浮き立つ淵、パレット下部の削りがバランスの取れた美しいエフ字孔を生み出し、透明なオレンジがかった琥珀色のニスは時間の経過と共に深みを増し、美しい輝きを放っている。そのため今日でもアントニアッツィ・ファミリーの市場価値は上昇し続けている。
 
同時期、ミラノではリッカルド・アントニアッツィの下で学び、後に貧しかったアントニアッツィ・ファミリーへの仕事の提供者にもなったレアンドロ・ビジャック(1864~1945)が楽器製作の他に際立った商才を生かし、イタリアの弦楽器製作家としてそれまでに類を見ない成功を収めていた。
 
自身の工房をミラノ大聖堂すぐ横の一等地に構え、20年の間にイタリアで一番大きな弦楽器店に成長させたレアンドロ・ビジャックは長い間アントニアッツィ・ファミリーと共存関係を続けた。
 
当然のことながら、当時の全ての著名な製作家、ガエタノ・ズガラボット、ジュゼッペ・オルナーティ、フェルディナンド・ガリンベルティ、イジーノ・ズデルチ、ピエトロ・ボルギ等が、ビジャック・ファミリーと共に仕事をしていたと言える。
 
1930年すでに70才になったレアンドロは、やはり製作家であった息子達カルロ(1892~1968)、ジャコモ(1900~1995)、レアンドロ・ジュニア(1904~1982)に彼の偉業を継承するよう託し、コモ湖の私邸に身を引いた。
 
会場には1900年初頭のモンツィーニ工房で製作された珍しいマンドリンも展示され、当時の製作家たちの高い技術を覗き見る事ができた。
 
ミラノ派はクレモナ、トリノ、ボローニャ派と共に弦楽器製作界の重要な基準点の一つとして語られている。

―ストラディヴァリ財団 MdVコレクション―

20世紀のイタリア弦楽器製作家たち Vol.3

ストラディヴァリ財団ヴァイオリン美術館

矢谷明子のクレモナ通信

東京都出身。桐朋学園大学卒業、研究科修了後渡欧。イタリア、シエナ・キジアーナ音楽院にてY.バシュメット、クレモナ・W.スタッファー音楽院にてB.ジュランナ各氏に師事。2002年アネモス国際コンクール弦楽器部門最高位受賞。

 

共演したS.アッカルド氏より「正確な技術と温かい音色に加え卓越した音楽性の持ち主」と評され、イタリアを中心に日本・台湾各地でソロ、室内楽奏者として活動。また、団員全員がソリストとして契約するL.マゼール音楽監督、イタリア交響楽団(旧トスカニーニ交響楽団)では唯一の日本人メンバーとして活躍。世界各地で演奏活動を行なう。

 

2011年3月、イタリア・クレモナにて東日本大震災被災地支援コンサートとして行われたヴィオラリサイタルは、地元紙2紙で大きく取り上げられ、その後も震災支援活動の一環としてイタリア、日本において被災地支援コンサートを開催。また、東日本大震災被災者支援のため、クレモナ市に協力を仰ぎ、国立ストラディヴァリ国際弦楽器製作学校所有のヴァイオリン、ヴィオラを寄贈してもらい被災地に届ける活動を開始した。

 

2012年、世界最高峰の弦楽器製作コンクールとして知られ、3年に1度クレモナで開催される「第13回A.ストラディヴァリ国際弦楽器製作コンクール」において日本人演奏家として初めての審査員を努める。クレモナ在住。イタリア音楽家協会エンパレス会員。

ロメオ(左)&リッカルド(右)・アントニアッツィ兄弟の作品が並ぶ

ロメオ・アントニアッツィ 1901年

リッカルド・アントニアッツィ 1910年

レアンドロ&ジャコモ ビジャッキ― ヴァイオリン1958年

レアンドロ&ジャコモ ビジャック ヴァイオリン 1958年

右からレアンドロ・ビジャック1925年、P.パッラヴィチーニ1923年、G.タラスコーニ

G.オルナーティ ヴァイオリン1920年

美しい裏板 G.オルナーティ ヴァイオリン 1920年

G.オルナーティ チェロ 1928年

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