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〈3〉ドビュッシーとイザイ

 
アッコルド編集長 青木日出男と、
「尾池のブルーマンデー憂さ晴らし」執筆中の
ヴァイオリニストの尾池亜美さんが、
弦楽四重奏について語ります。
 
 
尾池さんは主にソリストとして活躍していますが、
一方で弦楽四重奏へも
非常に思い入れがあるそうです。
 
今回は、7月21日の
アッコルド1周年記念イベントで演奏していただく、
ドビュッシーとイザイについて語っていただきました。
 

イザイとドビュッシーとの関係

 
尾池
7月21日のコンサートで、
お聞きいただきたいこと、というものがあって、
弦楽四重奏曲の他に
無伴奏作品や、弦楽器2台の編成の演奏もします。
 
ヴァイオリン1本であったり、
ヴァイオリン2本の会話であったり、
ヴァイオリンとヴィオラの会話であったり、
 
その会話が、最終的にクァルテットにつながる
わけですね。つまり、クァルテットのパーツ、パーツを
聴いていただくことになるわけです。
 
そうすると、クァルテットがもっと立体的に
聞こえてくると思うんです。
 
例えば、1stヴァイオリンがゆっくりのメロディを
弾いているときに、チェロがそれを支える。
そして、内声の2人(2ndヴァイオリン、ヴィオラ)が
凄く細かい動きで一緒に動いていたりするんです。
最終的に、その2人が、色を演出していたり、
雰囲気作りをしているわけですね。
 
そんなふうにそれぞれのパートを聴き分けると
たぶん見えてくる景色も違ってくると思います。
 
ですから、ヴァイオリン1本の音、2本の音、
ヴァイオリンとヴィオラの音、
というものをそれぞれ味わって
聴いていただきたいと思います。
 
ドビュッシーの弦楽四重奏曲は
イザイの弦楽四重奏団に献呈されたものですが、
そのイザイがヴァイオリン2台のための作品を
書いています。ヴァイオリン2台とは思えないような
分厚い響きが出てきます。
 
青木
イザイの無伴奏、
イザイのヴァイオリン2台のための作品、
そして、
イザイに献呈されたドビュッシーの弦楽四重奏曲……
 
尾池
イザイ・シリーズということに図らずもなりましたね(笑)。
 
青木
イザイ、ドビュッシーを有機的に関連づけて聴くことが
できるということですね。
 
 

イザイに対する印象

 
尾池
イザイは、知れば知るほど、
本当にすごいヴァイオリニスト
だったのだなぁ、と思います。
 
万人に尊敬されていた印象です。
 
青木
イザイの無伴奏ソナタは、
ヴァイオリン自体がよく鳴るように
書かれている、という話を聞いたことがあります。
 
尾池
そうですね。第1番はト短調、第2番はイ短調
という風に、
どの曲も、調性が、ヴァイオリン弦の
どれかに属していますからね。
フラジオレットをよく使うこともあるし、
作曲というより、ヴァイオリニストとしての
技術を究めた結果、6つの作品が残った、
という私の印象です。
 
彼は、ユーモアがあって、
2番の冒頭は、バッハのパルティータを
オマージュしていますが、
すぐに彼自身のメロディに戻る。
それは、この曲を捧げたティボーが、
練習中に気分屋な正確を発揮して、
いろんな曲をちょっとずつ弾いていたので、
それをもじって書いたとか。
 
青木
6曲それぞれ、当時の彼の後輩のヴァイオリニスト達に
捧げていますね。
 
尾池
どの曲も捧げたヴァイオリニストの演奏スタイルや
雰囲気に合っていますね。
 
青木
それで、7月21日は、イザイの無伴奏ソナタのどの曲を?
 
尾池
クライスラーニ献呈された4番を弾きます。
 

偉大なイザイ

 
尾池
イザイという存在はやはり偉大で、
ありとあらゆる作品が、
イザイに献呈されているんです。
ですから、イザイは初演をたくさん行なっています。
勿論、ドビュッシーの弦楽四重奏曲も初演しています。
 
青木
他にどんな曲がイザイに献呈されていますか?
 
尾池
一番有名なのは、フランクがヴァイオリン・ソナタを
献呈していますね。
 
青木
ああ、そうでしたね。イザイの結婚を祝ったものですよね。
 
尾池
そのために書いたものではないですが、
イザイが結婚するということで、
献呈したものですね。
 
そういう逸話がありますから、
フランクのソナタはラブ・ストーリーという
イメージが強いですね。
フランクのソナタは私のCDに入っています。
 
青木
ちょっと話が逸れるかもしれませんが、
フランクのソナタは、結婚式に贈るには、
結構どろどろしているような感じが
私にはします。
 
尾池
どうなんでしょう。
フランクって、そういうイメージですか?
 
青木
最初と終わりは、さわやか。
中が、結構生々しくないですか?
 
尾池
よく、あれだけのドラマができたと思いますね。
昼ドラみたいで(笑)。
 
結婚というのは、ああいった過程を経て、
というところもあるのでは。
全部がとんとん拍子で行く人生は
ないでしょうから。
 
2楽章はせめぎあい、という感じで、
たぶん喧嘩、論争に近いような。
3楽章は、もの凄く内省的なんです。
最初の2分間くらいは、
ピアノがひとり、ヴァイオリンがひとり
で演奏します。
そこは、二人が、たぶん別々の所にいて
「これはどういうことだったんだろう」
とそれぞれが真剣に考えている場面のように思います。
 
ですから、人生自体を凄くよく表わしている曲だなぁと。
 
青木
確かにコンサートのメインになる曲ですからね。
それだけの内容があるわけですね。
 
尾池
そうですね。
勿論、ストーリーが音楽の全てというわけでは
ないのですが。
フランクは人生の大部分、オルガン奏者として
活躍していました。
だから、ピアノのパートもオルガン的です。
オルガンを弾いているかのような音使いです。
あまりピアニズムという感じはしなくて、
オルガンが鳴っているような、
つまり鍵盤から指を離すまで音が続いているような
響きだったり、和音だったりを想像しながら
演奏していると、けっこう良い感じ。
 
ヴァイオリンとピアノの為のソナタですが、
根底にオルガンの響き、教会音楽の響き、
そういうものがあるような気がします。
 
オルガンって、素朴な音から、凄く華やかな音まで
様々な音を持っていますよね。
ピアノを使ったとしても、フランクの音のイメージは
ああいうレンジなんだなぁ、と。
 
青木
話が脱線ついでに、
フランクのソナタをオルガンで弾いた演奏って
聴いたことありますか?
 
尾池
聴いたことはないですが、
容易に想像がつきますね。
 
青木
なので、ふと思ったのですが、
フランクのソナタを
オルガンとの共演で演奏していただけたらな、と。
 
尾池
それは、すごくやってみたい。
 
青木
オルガンと合う作品は、他にいっぱいあると思います。
 
尾池
そうですね。バッハの作品は正にそうですね。
 

ドビュッシーについて

 
青木
ドビュッシーという作曲家について
思うところを。
 
尾池
以前は、ドビュッシーというのは、
よく分からない人、という印象だったんです。
 
元々大好きで崇拝していたのはラヴェルなんです。
内省的で、かつ計算されていて精緻で、繊細で、
色彩感豊かで、それが好きで、
最近まで、ドビュッシーよりラヴェルに気持ちが
行っていたんです。
 
でも、最近、ドビュッシーの方が人間臭いなと
思うようになって。
人生をみても波瀾万丈ですし。
常に愛人みたいな人がいて、
人生の幅が合って、酸いも甘いも噛み分けた
そういう感じがします。
 
作品もいろいろありますし。
ですから、最近になって
ドビュッシーに興味がわいてきました。
 
青木
ドビュッシーで、あと好きなのは?
 
尾池
ピアノ作品で、アラベスク、月の光、
ゴリウォークのケークウォーク
といった作品が好きです。
あと、チェロ・ソナタも好きです。
ある種、メロディ・メーカーだと思いますよ。
 
一口にドビュッシーと言っても、
人生いろいろあった人だけに
いろいろなものを私自身見聞きしなくては、
ドビュッシーを深く理解することはできないと
思っていて、
例えば、当時の絵画を見ることが必要で、
楽曲がどういうものを象徴しているのか。
 
ぱっと音型だけ見ただけでは、
何を表現したいのかが分からないこともあって、
私は自分でも絵を描くのですが、
視覚的なものとか、感覚的なものに
結びつけて考えていくと、
ドビュッシーって、どんどん面白くなっていく。
 
青木
色彩感と結びつける、
ということですね。
 
尾池
そうですね。
色合いもそうですし、
模様、モチーフ、架空の動物……
いろいろ結びつける。
 
青木
架空の動物?
 
尾池
あ、それは自分が勝手に想像したものです。
例えば、曲の一部分にしても、
物語の登場人物とかに、
何かしら関連づけていくと、
面白くなっていく。
弦楽四重奏曲もそういうことで、
広がりを感じることができます。
 
近現代よりになっていった最初の頃の作品ですね。
以前は、ドビュッシーの弦楽四重奏曲、ダサイと
思っていたんだけれど、なんでだろう。
対極のところにラヴェルの弦楽四重奏曲の存在が
私にはあったのですね。
それにドビュッシーのは、
演奏の仕方で素敵にもなれば、
格好がつかないこともあると思う。
 
私はティーンエージャーの頃、
ラヴェルほど泣けるものはなかったんです。
特に緩徐楽章ですね。
ピアノ協奏曲ト長調の2楽章。
 
と思っていたんだけれど、
勿論、今でも好きなんですが、
深みとか、人間的な幅とか、
どろどろしたところとか、
そういう部分は、
ドビュッシーの方が強い感じがする。
 
好みが変わってきたのかもしれません。
 
青木
ラヴェルで好きなのは?
 
尾池
弦楽四重奏曲は勿論ですが、
あとは、遺作のヴァイオリン・ソナタ。
単一楽章の作品で、あまり演奏されませんが。
でも、メッセージがあって、強すぎないけど晴れ晴れとした太陽光を感じるような作品で、本当に好きです。

対談

弦楽四重奏への思い

 

アッコルド編集長

青木日出男

  × 

ヴァイオリニスト

尾池亜美

Webアッコルド1周年を記念して、

1日限り、「リアルな場所」で

アッコルドを展開します。

空を見わたせる会場で

昼から夜への

移り変わりを眺めながら

弦楽器の響きに触れてみませんか?

尾池亜美さん率いる

アミ・クァルテットが出演します。

 

●読者の皆様と、演奏者・執筆者・編集者との交流
●私たちが考える音楽の楽しみ方を一緒に体験

●ヴァイオリニストの尾池亜美さんとアミ・クァルテットの皆さんによる演奏
イザイの無伴奏、デュオ、ドビュッシーの弦楽四重奏曲等が演奏されます。
ヴァイオリニストの長尾春花さんがヴィオラに持ち替えて演奏します!

●アッコルド執筆陣の

ヴァイオリニスト・森元志乃さんと

尾池亜美さんとの対談


●質問コーナー、試奏コーナー、

●ワン・ポイント・アドヴァイス

●尾池亜美さんによる

 ハイフェッツの音階練習のデモンストレーション
 (尾池さんは、ハイフェッツの高弟ピエール・アモイヤルに師事し、ハイフェッツの音階練習を習っています。アッコルドから出版予定)

●美味しい軽食とお酒

 

他にもいろいろなサプライズを用意しています。

 

アッコルド1周年記念イベント

 

7月21日(月・祝)海の日

 

会場 ソラハウス(渋谷)

東京都渋谷区神南1-5-14 三船ビル8F

開演 18:15(開場:17:30)

料金 ¥10,000(軽食付き)

定員 40人

(演奏、コラム執筆者・森元志乃さんとの対談など)

 

公開リハーサル

開場 15:00

料金 ¥2,000

定員 20人

 

曲目

フォーレ/パヴァーヌ

ドビュッシー/弦楽四重奏曲 ほか

 

アミ・クァルテット

1stVn  尾池亜美

2ndVn 森岡 聡

Va    長尾春花

Vc    山本直輝

 

★詳細

http://www.a-cordes-ronde.com/#!special0711/cso7

 

※モバイルからは、メニューの「アッコルド1周年記念イベント」をタップしてください。

 

★チケットはこちらから
http://eventregist.com/e/a-cordes

★メールでのお申し込みもできます。
●お名前
●種類(公開リハーサル・本番)
●枚数
●;連絡先(メールアドレス)(電話)(住所)
を明記の上、
a.cordes.editeur@gmail.com(アッコルド)へ。
メールでお申し込みを戴きましたら、おって決済方法についてご連絡差し上げます。ご連絡をお待ち下さいませ。
※なお、個人情報は、本イベントに関わること以外には使用致しません。

★モバイルからは、メニューの「アッコルド1周年記念イベント」をタップしてください。

 

皆様のお越しをお待ちしています。

 

 

尾池亜美さん

対談・クァルテットへの思い〈1〉

 

尾池亜美さん

対談・クァルテットへの思い〈2〉

 

尾池亜美さん

対談・クァルテットへの思い〈3〉

 

 

 

アミ・クァルテット

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