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初夏の光に溢れた週末、大阪城周辺もいろいろなイベントがあったようで、審査員やコンクールスタッフが陣取る宿もどこかウキウキしたお休み気分に溢れている。
 
とはいえ、大阪国際室内楽コンクール&フェスタは胸突き八丁。向かいのいずみホールでは今日も、10団体が一般審査員の前で己の音楽を披露するフェスタの後半が続く。
 
公式チーフカメラマンの本日の1枚も、フェスタの空気を伝えるものだ。ホールの中で発表を待つのもなんとなく鬱陶しい。せっかくだから大阪には珍しい、爽やかな初夏の夕方の空気でも吸おうじゃないか。2日間お疲れ様の一般審査員が下した結果は、以下の通り。火曜日本選の演奏順である。
 
◆デュオ・グラシメス(マリンバ&ピアノ)
◆アンサンブル・ディーヴォ(ロシア民族アンサンブル)
◆ペトロ・デュエット(ピアノ二重奏)
◆打楽器集団「男群」
◆ストリング・アンド・キーズ(バラライカ&ピアノ)
◆カリオン(木管五重奏)
◆トリオ・パラフレーズ(ドムラ、バラライカ、アコーディオン)
◆ダス・クライネ・ヴィーン・トリオ(ヴァイオリン二重奏&ピアノ)
 
毎度ながら、ロシア強し、だ。とはいえ今年は日本の団体も実力、アピール度共になかなかななものとのこと。ことによると大会初の国内団体優勝もありかも。
 
 
いずみホールで一般審査員が真剣に熱演を聴いた日曜日、コンクール部門審査員のマーティン・ビーヴァー氏とパスカル・ロジェ氏、とりわけライナー・シュミット氏とすれば、ことによると審査よりも肉体的には疲れる1日だったかもしれない。
 
朝の9時から夕方5時前まで、大阪音大の教室を借り日本各地から応募した5つの弦楽四重奏団とひとつのピアノ三重奏団へのマスタークラスが開催されたのである。コンクールを主催する日本室内楽振興財団の定款のひとつ、若い音楽家への室内楽教育を実践する付帯イベントだ。
 
大阪や名古屋の音大生による団体、名古屋拠点の若手奏者らに拠る活動を始めて間もない団体、さらにはベルリン留学を終えて戻った気鋭ヴァイオリニストが都響や読響の同世代仲間を集めて結成した団体まで、キャリアも熟練度も様々なグループが、モーツァルトやベートーヴェン作品18を素材に1時間半のレッスンを受ける。会場が学校内部ということで一般公開はなかったが、大阪音大で弦楽四重奏を学ぶ学生らもギャラリーに坐った。
 
クァルテットに「そこは君たちはどうしたいのか?」と盛んに問いかけ、音楽的な方向性を引き出そうとするビーヴァー氏。ついこの前までの東京Qの第1ヴァイオリン奏者のアドヴァイスは極めて具体的で、若い音楽仲間の考えを可能な限り尊重する。キャリアはまるで違うものの、同じ道を志す良き先輩コーチのようだ。
 
それに対し、ハーゲンQで第2ヴァイオリンという重鎮を務めつつ、ヨーロッパで無数の若い弦楽四重奏団を育ててきたシュミット氏は、古典音楽のあるべき姿を伝える師匠である。
 
スラーの下に付けられた付点はどう処理するかという具体的な問題を論じつつ、最終的には「古典とはどういうものか」を非西洋文化に育った若者に判らせようとする。
 
アーティキュレーションと言葉の関係、楽譜の外にあった常識、テンポはどう決められるべきか…たかが90分のレッスンで、まるで古典音楽が一気に理解出来たように感じさせるのはマジックだ(勿論、そんなことはあり得ないわけで、自分らの練習室に戻れば疑問が増えているだけなのかもしれないけれど)。この師匠につきたくてヨーロッパに残る決断をした日本の若者達がいたのも納得出来る。
 
 
マスタークラス会場から宿舎に戻る短い道中、マーティン・ビーヴァー審査員に少しだけ話をうかがった。室内楽コンクールの審査は初めてというビーヴァー氏、難しい審査の本選を前に、音楽を比べるという行為について、どうお感じなのか。以下、気楽な会話としてお読みいただければ幸いである。
 
――独奏のコンクールと室内楽コンクールでは、審査員として違いがありますか。
 
ビーヴァー:大きく違いますね。ヴァイオリンや独奏楽器では、ひとりの人を審査しています。その楽器を弾いている人が対象。その人が音を外して演奏すれば、それでオシマイです。
 
ですが、室内楽グループではそうはいきません。3人が正しい音程で弾いているけれどもひとりはそうではないこともあれば、みんな音程が狂ってることだってありますけど(笑)。
 
1人が音程を外していても、グループとして出している音があるので、「悪い」と感じるのがとても難しいのです。それに、室内楽のグループには、楽譜を演奏する上でとても沢山の異なったやり方がありますし。楽譜をどう見るか、からして沢山のやり方がある。
 
――ビーヴァーさんのマスタークラスを見学させていただいても、それは良く判ります。
 
ビーヴァー:そう、「正しい」や「間違っている」でなければならないわけではありません。私自身にしても、ある団体を聴きながら、個人的にはそのグループのやり方は好きではないけれど、自分らが何をやっているかきちんと判り確信を持ってやっているし、客観的に見て芸術的に満足のいく水準ではある、と思うこともあります。
 
自分では絶対にああはやらないだろうな、と思いますけどねぇ。自分がやらないことを納得出来るなんて、考えてみたら滑稽なことなのかもしれませんけど(笑)。
 
――ビーヴァーさんにとっての評価は、「このグループは私がやるようにちゃんとやっているぞ」、というものでもない。
 
ビーヴァー:それは絶対にあり得ません。室内楽を生徒達に教えていても、希望としては生徒らが私と同じに弾いて欲しくはありません。彼らには彼らなりの視点を育てて欲しいのです。
 
勿論、基本的な正しさはあります。でも、作曲家がピアノとかフォルテとか、ここをクレシェンドとか書いているのを、自分なりの音楽の言葉で表現せねばならない。
 
――じゃあ、室内楽の評価というのは何を根拠とするのでしょうか。
 
ビーヴァー:そうですねぇ(暫く黙考)…ちゃんと音が正しいか、リズムはそれぞれ正確か、イントネーションは同じか。そしてある作品に本当に生命力を与え、音楽的に動かせているか。
 
でも最大の評価ポイントは、「もう一度このグループを聴きたいかどうか」です。
 
――ということは、審査員の皆さんも私たち聴衆とちょっと似ている、ということですねぇ。
 
ビーヴァー:勿論です。恐らく、私たちは皆さんよりももうちょっと色々な知識があるでしょうが(笑)。
 
――それに、遥かに良い耳をお持ちでしょうし。とはいえ、どうしてもどちらかを選ばねばならない、ということになったとしたらどうします。
 
ビーヴァー:音楽家としての好みはありますし、もしも作曲家が生きていたらどっちが好きかな、と考えるでしょうね。それにしたところで私の個人的な見解ですけれど。なんにせよ審査員というのは、とても難しい仕事です。
 
これはリンゴみたいで、こっちはオレンジみたい。で、向こうはバナナみたい、みんな美味しいフルーツなんだけどねぇ…というようなもので(笑)。味は全然違います。
 
――なるほどねぇ。で、僕はバナナが大嫌いだ、とは言えますけどねぇ(笑)。
 
ビーヴァー:そう、私はバナナにはアレルギーがあるんだ、とかね(笑)。
 

フェスタ1次予選結果&

マーティン・ビーヴァー審査員インタビュー

 

ライヴストリーミング

http://www.ustream.tv/channel/the-8th

第8回大阪国際室内楽コンクール&フェスタ

大阪初夏の陣 〈8〉

音楽ジャーナリスト 渡辺 和

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以下の写真は、クリック(タップ)すると、

拡大され、キャプションも出ます。

審査発表で会場に集まるフェスタ参加者たち

(写真:日本室内楽振興財団チーフ・フォトグラファー:栗山主税)

コンクールチーフカメラマンの

今日の1枚

第1部門
弦楽四重奏
ファイナル進出団体
 
19日(月)
 
17:30〜ヴァスムスQ(アメリカ)
      西村
    ベートーヴェン作品132
 
18:45〜アルカディアQ(ルーマニア)
      西村
    ベートーヴェン作品131
 
19:55〜カヴァレリQ(イギリス)
      西村
    シューベルト「死と乙女」

 

第2部門
ピアノ三重奏&四重奏
ファイナル進出団体
 
19日(月)
 
11:00〜ノトス・クァルテット(ドイツ)
      野平
    ブラームス第1番
 
12:20〜トリオ・アドルノ(ドイツ)
      武満
    シューベルト第2番 変ホ長調
 
14:40〜トリオ・アタナソフ(フランス)
      シューベルト第1番 変ロ長調
    武満
 
15:50〜トリオ・ラファール(スイス)
      武満
    シューベルト第2番 変ホ長調

© 2014 by アッコルド出版

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