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コンクール部門の1次及び2次予選が終わって、いずみホールもやっと一息ついた。とはいえスタッフはノンビリなどしていられない。今日と明日は「フェスタ」なのだ。
 
大阪国際室内楽フェスタがどんなイベントか、もう説明は不要だろう。大阪国際バナーからトップページに行っていただければ、解説がある。
 
午前10時半頃からいずみホールには100人もの一般審査員が詰めかけ、資料を配付され客席に座り、日下部吉彦審査委員長から説明がある。要は、今日明日で20団体聴き、これは良いと思った団体をリストアップしてくれ、ということである。
 
本日の栗山チーフカメラマンの1枚は、場所もアングルも、昨日と殆ど違っていない。だが、そこにいるのは審査員だ。同じ空間に、まるで違った緊張感が漂っている。
 
11時からセッションが始まる。このフェスタ、転換役の裏方さんが大活躍なのだ。最初は舞台上にピアノ、それに上手側に打楽器やらなにやらいろいろ。ピアノ横にあるのは、どうやらトイピアノのようである。登場した日本青年3人組「カコ・エ・タッソ」は、ひとりが打楽器担当で、あとのふたりはピアノデュエットを担当するようである。さても、始まった音楽は、どことなく懐かしいクレイジー・キャッツの音楽パーフォーマンスも思い出させる音の玉手箱で…
 
続いては、真っ当なドヴォルザークの五重奏曲から、まるで韓流ドラマのテーマソングのようなタンゴまで(意外にもフェスタが大好きな『アメリカン・レコード・ガイド』評論家のマルコー氏は、「なんで韓国でタンゴなんだい?」と素直に面白がっていた)、ソウルの街に流れる様々な音楽を巧みに奏でた韓流アイドル風5人組女子ピアノ五重奏団。
 
続いては娯楽と本気の室内楽を微妙にミックスさせたフルート四重奏団。ドイツのイケメン2人組がカッコ良く決めるヴィブラフォンとピアノのデュオ。
 
そして、恐らくは今回のイベントで弦楽四重奏団としては最も「練れた」アンサンブルを聴かせてくれたクァルテット・サンフランシスコ(第1ヴァイオリンのジェレミー・コーエンはこの分野では大長老で、いうならばアメリカのジャズ系クァルテット界のロバート・マンである)。
 
…と、この調子で書いていくとキリがない。ストリーミングをご覧になった方も多かろうから。以下省略。日曜日もまた、10団体が続く。蛇足ながら、「コトアルト」として琴との二重奏で登場するヴィオラの原裕子は、前回の弦楽四重奏部門で第3位となったウェールズQでヴィオラ奏者である。こんな風にいずみホールのステージに戻ってくるなんて、ちょっとビックリ。流石になんでもありのフェスタだ。
 
 
いずみホールでは次々といろいろな音楽が繰り出されている頃、少し離れたコンクールを主催する日本室内楽振興財団事務所が収まるよみうりテレビの一角では、もしかしたらこのイベントで最も重要かもしれない作業が行なわれていた。予選段階で戦いが終わった団体への、審査員による講評である。立ち話で済ませるのではなく、きちんと部屋に籠もり、審査員それぞれから個別に演奏の美点や問題点が指摘される。事務局が予定していた時間が過ぎても、熱心なインタビューは終わらなかったという。
 
殆どの演奏終了団体は、明日、大阪を離れる。これら若き音楽家らにとって、「2014年初夏のオオサカ」が意味のある時間であるように、心から願う。またいつか、いろいろな形で、いずみホールのステージに戻ってくる者もいるだろう。
 
 
まだまだフェスタのセッションが続く午後4時から、天満筋南の天満教会で審査委員長堤剛のレクチャー及び大会出場者による演奏会が行なわれた。
 
1次予選で涙を呑んだアダマスQ、ヤナQ、トリオ・スヤーナが、2次予選で弾くべく準備した作品を披露する。コンクールの場ではなくても、ともかく自分らの成果を少しでも多くの人に聴いて欲しいという気持ちに応えるために用意された無料イベントである。午前中に審査員団からのコメントをもらった後となれば、またひとつ音楽がレベルアップしているかもしれない。いずみホールとは全く異なる音響の中での熱演に、100名程の聴衆も大喝采だった。
 
演奏に先立って、堤審査委員長によるレクチャーが行われた。レクチャーといっても、「室内楽漫談」である。尽きぬ話題で、当初の倍ほどの長さになってしまったレクチャーの内容から、コンクール審査真っ最中、そして前日の第2部門2次予選結果発表の席では遠回しに「コンクールは嫌い」と漏らしてしまったひとりの長老音楽家が、室内楽を、コンクールを、どう考えているか少しだけ触れた5分ほどの部分を抜粋する。即興に近いお喋りなので、多少手を入れさせていただいた(文責筆者)。本選を前に、お読みいただければ幸いだ。
 
「室内楽はまず、やる人が本当に好きでないとなかなかできないんですね。しかも相手がいる。自分は和食が好き、自分が洋食が好き、自分は中華が好き、とみんなが言ってると、なかなか一緒になれない。じゃ今日は和食で行きましょう、となっても、今度は、自分は辛い味が好きだ、自分は辛いのは好きじゃない。いろいろあるわけです。
 
食べることなら好き嫌いで済みますけど(笑)、音楽の場合はそのうえに、気持ちや自分の考えが入ってきます。結構、ぶつかり合ってしまうところがある。それを上手く纏めながら、一緒に何かを作り出していく。そういう作業がとても大事なのです。
 
まず好きで、自分達で楽しめなければならないのですが、それだけではない。自分達が楽しんで、これは素晴らしい、これは良いものだ、と思うものを、演奏という形態にして皆様に伝えなければいけないのです。
 
ベートーヴェンのチェロ・ソナタは素晴らしい、自分もああいう風に弾きたい、と私もまず、思います。でも、こういう風に感じたから、すぐさまそれをこういう風にする、ということは殆どあり得ません。まず自分の中に取り入れ、それを濾過し、自分の音にする。そんな自分の音を外に出し、皆様に聴いていただく。そういうプロセスがある。そうやって始めて、「演奏」も「芸術活動」というレベルに達するわけです。
 
私はインディアナというところに留学して、ヤーノシュ・シュタルケルという大変なチェリストで大変なアーティストの先生に師事できました。シュタルケル先生は、しばしばこんな風に仰っていました。「何かが凄く悲しいから、自分は悲しい、これが悲しい音楽だ、というのではダメだ」って。「どういう風にすれば、聴いている方に悲しい気持ちなっていただけるか、悲しいと思える音楽として受け止めていただけるか、それが大事だ」と仰る。難しいことです。悲しいと思わせたくていろいろやると、それはそれなりに面白いかもしれないけど、それでは芸術というレベルには達しない。そういうことをよく仰っていました。
 
ひとりでもそれほど大変なのです。(室内楽では)それを3人、あるいは4人で、一緒にやらなければならない。芸術のレベルに達するためにいろいろ議論し、いろいろ研究しなければならない。例えば弦楽四重奏の場合ですと、同じ長い音を弾く場合でも、ただ、いち、に、さん、し、と並んで弓を引っ張るだけではなく、弓の速さや圧力も揃えねばならない。そんな退屈な練習もせねばなりません。それが音になって出て来るときの素晴らしさはありますが、そこに至る過程には厳しいものがあるわけです。そういうものも室内楽の楽しみ、面白さかもしれないのですけど。
 
コンクールは、そうしてきたものを比べなければならない。今回の第8回のレベルはとても高く、世界で一流の若手グループが参加して、それは有り難いことなんです。ですが、そんなグループの作り上げる素晴らしい音楽を、どういう風にジャッジすればいいのか、ホントに難しい。フィギュアスケートならば、回転が3回と4回だったら、それは4回の方が良いと言えるのでしょう。ですが音楽は抽象的なものです。抽象的なものに、無理にジャッジをしなければならない。それが我々にとっての難しいところなんですね。」
(コンクール審査委員長堤剛)

フェスタ初日&

堤審査委員長レクチャー

 

ライヴストリーミング

http://www.ustream.tv/channel/the-8th

第8回大阪国際室内楽コンクール&フェスタ

大阪初夏の陣 〈7〉

音楽ジャーナリスト 渡辺 和

INDEX

以下の写真は、クリック(タップ)すると、

拡大され、キャプションも出ます。

一般聴衆によるフェスタ審査員の方々

(写真:日本室内楽振興財団チーフ・フォトグラファー:栗山主税)

コンクールチーフカメラマンの

今日の1枚

フェスタ・予選B
 
18日午前11時から
 
11:00~ ドラマティカ(スロベニア)
       打楽器二重奏

11:30~ コトアルト(日本)
       琴&ヴィオラ
 
12:00~ トリオ・パラフレーズ(ロシア)
       ロシア民族楽器三重奏

13:50~ 打楽器集団「男群(オグン)」(日本)
       打楽器六重奏

14:20~ ザ・スタセヴスキー・ブラザーズ
       (フィンランド)
       チェロ&ピアノ

15:10~ ストリングス・アンド・キーズ(ロシア)

       バラライカ&ピアノ


15:35~ ダス・クライネ・ヴィーン・トリオ
       (オーストリア)

       ヴァイオリンデュオ&ピアノ


16:00~ デュオ・カリプソ(フランス)

       サクソフォン&ピアノ


16:50~ カリヨン(デンマーク)
       木管五重奏

17:15~ ソコ・デュオ(ドイツ)

       ピアノデュオ

© 2014 by アッコルド出版

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