コンクール公式チーフカメラマン栗山主税氏が選ぶ1枚は、ステージ下手袖風景だ。勿論、コンクールとは各団体がギリギリまで全力を出し切って闘う競争ではある。だが一方で、職業を同じくする若者達の合宿のようなものでもあるのだ。
 
ステージママやマネージャーが張り付く独奏コンクールとは違い、アンサンブルの大会にはお互いの技量や才能をわかり合ったプロの集まりが醸し出す独特の緩さというか、お祭り感のようなものが漂うものなのだ。そんな空気を捉えたナイスショット。今日もありがとう御座います。
 
なお、栗山カメラマンの個人的なお気に入りはラガッツェQだったそうな。そんな気持ちは、2つ提供いただいた次点ショットからも伝わってくる。
 
いよいよ大会も2次予選。いずみホールの舞台裏ばかりか客席の側にも「国際コンクール」の空気が漂い始めた。『ザ・ストラッド』編集者も到着、ホノルル室内楽協会の関係者も会場に姿を見せた。
 
サントリーホール・チェンバーミュージック・ガーデンのディレクターや、晴海第一生命ホールでクァルテット・ウィークエンド・シリーズを手掛けるプロデューサーが東京からやって来る。
 
今や日本地区を代表するクァルテットの聖地となりつつある鶴見サルビアホールの弦楽四重奏シリーズのプロデューサーも最前列近くに陣取った。夕方には東京芸術劇場の現場スタッフも顔を出している。
 
国内外の室内楽業界関係者が客席で各団体の品定めをし、お互いの情報を交換し、仲間の演奏を聴きに客席に顔を出した参加者を捉まえて話をしている。
 
日本にも「国際コンクール」は少なくないが、「世界の業界関係者のミーティング場所」という機能をきっちり果たし得ているのは、ここ大阪だけだろう。逆に言えば、室内楽の世界はそれほど狭い、ということなのだけど。
 
さて、本日は午前11時から7団体が演奏した。なにやら日々のルーティンワークじみて来ているけれど、これがコンクールというものだから仕方ない。以下、客席から眺めた参加各団体へのコメント。ストリーミングをお聴きの方に、会場の空気が少しでも伝われば幸いである。
 
最初に舞台に上がったカヴァレリQは、バルトークとブラームスということで、弓を2本持っての登場である。どんなにガリガリの演奏で毛をダメにするのかと思ったらあにはからんや、バルトーク第3番は刺激的な部分と抒情的な部分をはっきりと対比させ、じっくり着実に弾いていく音楽だった。
 
丸めることはないが、曲想を大づかみに提示し、ある意味、分かり易くこの面倒な楽譜を語っていく。ブラームス第2番もモチーフやリズムの変化を神経質に示すよりも、大きな心の流れを作る。とても練れたアンサンブルだ。
 
続いて登場したアルカディアQ、メンデルスゾーン第4番とバルトーク第5番という演目は、一歩間違うと最初から最後までワーワーと大声で鳴りっぱなしにもなりかねない。そんな心配はどこへ、メンデルスゾーンは第1ヴァイオリンがソリスト状態で突っ走る音楽とは正反対。
 
ここまで第1ヴァイオリンをたてない作品44、老獪な長老ならともかく、若手がやるのは珍しいのでは。バルトークの5番も、腕の達者さをギラギラと前に出さない、もの凄く自然な音楽。
 
ルーマニアとはいえハンガリーに近い地域出身のこの音楽家達からすれば、いかにモダンに変容しても自分らのローカル言語に近いのかも。こういうバルトークもあるのだから世界は広い。
 
ヴァン・カイックQはシューマンの第2番という摩訶不思議な音楽で勝負に出た。音楽が流麗に流れていかない状況そのものを音楽にしてしまったような猛烈に扱いにくい楽譜を、なんとか頭ではなく心で処理しようと試みる挑戦は、結果を出すにはまだもう少し時間がかかるかも。
 
メイジャーコンクール初参加でここまでやってくれたのだから、これから暫く見ていって楽しみな団体であることは確かだ。
 
1次予選の演奏で彼方此方から驚きの声が挙がっていたラガッツェQ、今回はもう堂々と自分らの本性をさらけ出してくれた。シューマン第3番でもバルトークの第4番でも、しっかり自分らなりに考え、解答を出した音楽を、「ほら、こんなに面白いでしょ」とストレートに伝えてくれる。
 
要するに、プロとして完全に完成された水準の団体、ということだ。コンクールの舞台を聴いているのは審査員だけではなく、客席に座る聴衆であり、各地から集まった主催者であり、ホールの担当者やプロデューサーでもあるのだ。
 
そういう人達に直接訴え掛けるのも、コンクールのステージの正しい使い方である。こういうことをやってくれる団体が大阪に出て来たのも、この大会の成熟の証明だろう。
 
オランダの若きプロ集団から一転、ヴァスムートQは良くも悪くも若い団体である。今回のステージでは、メンデルスゾーン第6番で始めて第1ヴァイオリンを巧者ジョナサン・オングからブレンダン・シェイに交代。
 
どうして猛烈に弾ける奴がこの曲で頭を取らないんだ、と不思議に思ったけれど、演奏に接して納得する。恐らくオングが第1ヴァイオリンに坐っていたら、ヴァイオリン協奏曲になっちゃったのではないかしら。
 
ソリストとしての華もある才能を敢えてセカンドに坐らせることで、第1ヴァイオリンが突っ走りかねない曲想をきっちりコントロールするのも、アンサンブルとしてのひとつの知恵である。
 
続くリゲティ第1番はオングが第1ヴァイオリンに戻り、誠実にして正確な、決してトリッキーな芸当はしない音楽で曲の素晴らしさを伝えてくれた。
 
ゲアハルトQもメンデルスゾーン第6番を引っ提げての登場。これまた第1ヴァイオリン突出型ではないバランスの良いアンサンブルだ。弱音での響きの質など、まだまだ団として鍛えることは多そうではある。
 
バルトーク第6番がコンクール向きではないことは本人らも察していようが、それでも弾きたかったのはどうしてか、もうひとつ説得力が欲しかった。
 
最後に登場したアベルQもヴァイオリンを交代する。シューマンの第1番が披露され、期せずして今日は一日で若手3団体によるシューマン弦楽四重奏全曲演奏会になってしまったわけだ。
 
ビックリするくらい真面目に、きちんと、正確に作ってくる団体で、音も綺麗。第1楽章で殆どパルスを感じなくなる程の静的な音楽を作ったのは意図的なのだろうが、終楽章に向けてリズム感を明快にしていくというシナリオを説得力ある音楽として聴かせるにはもう少し時間がかかるのでは。
 
終楽章にはそれなりに個々人の個性を示せる瞬間が用意されているのだから、コンクールと臆せずにアタックしてくれて良いのに、と思うのは聴衆の勝手な希望に過ぎまい。バルトーク第4番も見通しの良い音楽として提示してくれた。
 
 
ファイナル出場団体と演目は以下。この大会、どうしても一般参加審査員によるフェスタは週末に置かねばならぬため、本選が月曜日の午後からとなる。世界でもちょっと例のない特殊な日程になっているので、お間違えの無いよう、ストリーミングページで情報を確認していただきたい。
 
◆ヴァスムスQ(アメリカ)
西村
ベートーヴェン作品132
 
◆アルカディアQ(ルーマニア)
西村
ベートーヴェン作品131
 
◆カヴァレリQ(イギリス)
西村
シューベルト「死と乙女」
 
「死と乙女」ばかりが並んだらちょっとしんどいと思っていたので、この演目には大満足だ。バリバリのテクニック重視系とはちょっと異なる団体が並んだとなると、果たしてどんな西村作品の再現が聴けるのだろうか。
 
なお、本選当日にはいずみホール近くが出身地という作曲者御本人もいらっしゃるという。

弦楽四重奏部門ファイナリスト

演奏順&曲目

 

ライヴストリーミング

http://www.ustream.tv/channel/the-8th

第8回大阪国際室内楽コンクール&フェスタ

大阪初夏の陣 〈5〉

音楽ジャーナリスト 渡辺 和

INDEX

栗山カメラマンが「今日の1枚」候補にあげた別ショット。ラガッツェQのフィニッシュ。

もうひとつおまけ。栗山カメラマンの演奏家への愛を感じる1枚。

コンクール開始前の客席に、連日のいずみホール通いで知り合いになった音楽ファンや、顔見知りの業界関係者たちが三々五々集まる。

今日も淡々と結果が発表され、今日もまた悲喜交々。

以下の写真は、クリック(タップ)すると、

拡大され、キャプションも出ます。

カヴァレリQを讃えるアルカディアQ(写真:日本室内楽振興財団チーフ・フォトグラファー:栗山主税)

コンクールチーフカメラマンの

今日の1枚

ファイナル進出団体
19日(月)午前11時から
 
◆ヴァスムスQ(アメリカ)
西村
ベートーヴェン作品132
 
◆アルカディアQ(ルーマニア)
西村
ベートーヴェン作品131
 
◆カヴァレリQ(イギリス)
西村
シューベルト「死と乙女」

 

2次予選進出団体
16日午前11時からの演奏順
 
11:00~
◆トリオ・エネスコ (ドイツ)
フォーレ
シューマン第2番
 
11:50~
◆ノトス・クァルテット(ドイツ)
シューマン
ウォルトン
 
14:20~
◆アルク・トリオ(日本)
アイヴス
ブラームス第2番
 
15:20~ 
◆東京スカイ・トリオ(日本)
ヘラー「白日夢」
シューマン第1番
 
16:30~
◆トリオ・ラファール(スイス)
シューマン第1番
ラヴェル
 
17:30~
◆トリオ・アタナソフ(フランス)
ブラームス第2番
ラヴェル
 
18:50~
◆トリオ・アドルノ(ドイツ)
メンデルスゾーン第2番
ラヴェル

 

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