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もうすぐ深夜に近付こうとしている。それにしても長い1日だった。午前9時半に始まったセッションは、途中1時間20分のランチタイム休憩を挟み、実質ぶっ続けで午後8時半まで。10団体が古典と20世紀初頭作品を披露し続ける。
 
朝の開場前からいずみホール前には関西ばかりか名古屋、東京、果ては札幌から来た熱心な聴衆が並ぶ。連休明けの仕事が本格的に始まった平日火曜日、これを聴くために仕事を休んだファンも。長丁場とあって出入りもかなりあったようだが、延べ人数にすれば70名から100名程の人々が本日の1次予選をライブで耳にしたわけである。
 
それだけではない。国際コンクールの証は、業界関係者やジャーナリストの顔ぶれからも明らか。サントリーホールや宗次ホールの関係者が客席に座り、『アメリカン・レコード・ガイド』の記者として前回の大会のレベルに驚いたカナダの評論家ロバート・マルコー氏が再び来日。『音楽の友』誌も関西の知性派評論家白井知雄氏を貼り付けている。
 
2次予選以降は東京からの来訪者も増えるし、とうとう第8回目にしてかの『ザ・ストラッド』が記者をロンドンから直接送り込んでくる予定。海外の室内楽主催者も来訪するという。大阪初夏の陣、本当に燃えている。
 
本論に入る前に一言。本日から当稿ヘッドを飾る写真に、コンクール会場を巨大な一眼レフを抱えて走りまわる公式チーフカメラマンの栗山主税氏が自ら選んだ「今日の1枚」を挙げさせていただく。今日のコンクールの空気が最も良く伝わる写真を、現場担当者が自ら選んだベストショットだ。
 
早速提供いただいたのは、いずみホール楽屋口に到着するカヴァレリQ。「よおおし、弾くぞぉ」という試合前の気負いよりも、「さあ、これから楽しみましょう!」と舞台に向かう若い音楽家達の笑顔が初夏の大阪の午後の光にキラキラ輝く、素敵な1枚である。明日はどんな顔が見られるかしら。
 
 
さて、大会第1日たる第1部門1次予選、通常の弦楽四重奏専門大会なら5団体づつに分けて午後1時くらい(ラテン系の国なら午後3時くらいかも)からゆったりと開催されるところだろうが、なにせここ大阪は実質3つのコンクールを一気に行う超マンモス大会なのだ。そんなノンビリしている暇などない。
 
当媒体読者のかなりの方がライブストリーミングをお聴きになっていたと思うので、皆々様なりにお感じになることもあろう。会場の空気を、演奏順に手短に記す
 
日本代表で1番籤を引いたソレイユQ、よく考えられたきちんとした音楽を聴かせてくれた。偉そうなことを言わせていただけば、課題はたったひとつ、「音楽的な説得力」だろう。ベートーヴェン作品18の6の冒頭楽章の軽快なテンポは、どうしてそうでなければならなかったのか? 第3楽章では聴衆にスゴイと思って欲しいのか、それとも笑って欲しいのか? もう私たちにはこれしかないのだ、という感じを聴く人に与えるためにはなにが必要なのか? まだまだ悩んで、そしてもっと大きくなっていただきたい。
 
続いて登場したヴァン・カイックQは、正直、K.428はちょっと本調子ではなかったかも。なにせこの大会、いずみホール舞台上での練習時間はほぼ皆無なのだ。アッという間にこの空間に合わせてきたのは流石である。後半のドビュッシーはなんとも立派でありました。この団体、チェロ奏者は日本の血を半分ひいており、第1回八王子カサド・コンクールにも参加している。母の母国で錦を飾れるか。
 
ブルーミントンのエリート、ヴァスムートQはなんといってもシンガポール出身の第1ヴァイオリン氏の存在感がスゴイ。まだまだ団としては成すべき事は多いけれど、先が期待される逸材である。シンガポール初の「室内楽で飯を喰う」演奏家に育って欲しいものだ。
 
前回のロンドン覇者アルカディアQは、そのタイトルの恥じない立派な演奏を披露してくれた。筆者はロンドンでの結果には納得しきれぬところがあったのだが、あれから2年、派手な活動を控え、プロカルテットやヨーロッパ室内楽アカデミーに参加、地道に勉強を重ねた成果が着実に上がっているのは嬉しい。大阪大会を長く眺めているファンには、第1ヴァイオリンのアナ・トロークに、同郷の先輩で第3回大阪の覇者ベルチャQのコリーナ・ベルチャを彷彿とさせられるのでは。
 
午後のセッションの最初は、ミュンヘンで学ぶノーヴスQの同門、アベルQ。数年前の先輩達のように、ともかく「ポッペン先生に基礎からきちんと学んでいます」という音楽で、皮肉ではなくきちんとした留学の経過発表会のようだ。さて、これからどうなっていくのか、なにしろ内面には情熱が燃える韓国勢だ、団として基礎を固めてからが期待される。
 
中国と日本の連合団体、ヤーナQは大阪初登場である。ヴィオラが交代し、硬質な響きがひとつのキャラクターとして定着してきたのは嬉しい。モーツァルトもヤナーチェクも、語り口は決して達者というわけではないし、細部に課題も多いものの、このガッチリした音の趣味は大事な個性たりえよう。いろいろ難しいことも多かろうが、続けていって欲しいものだ。
 
オランダのラガッツェQは、大阪大会では前々回優勝のドーリックQ以来、久々に登場した、ヨーロッパ最先端のピリオド奏法を取り入れる団体である。バロック弓とモダン弓を2本づつ持って登場し、ハイドンとドビュッシーでは弓も持ち方もまるで異なる。確かにハイドン作品50の6終楽章の「蛙」の声は、時代弓の方が弾きやすいのだろう。
 
イギリスのカヴァレリQは、イギリス趣味の穏便で中庸な音楽とはちょっと異なる、多少の音の汚れも侍さない劇的この上ないヤナーチェクを聴かせてくれた。モーツァルトのニ短調でテンポの問題をとくに意識させられなかったのだから、説得力があったと言わざるを得まい。
 
スイスで学ぶカタロニア人集団ゲアハルトQの音楽からは、師匠にして大阪の審査員席に座るライナー・シュミット氏の薫陶をはっきりと感じられた。ベートーヴェン作品18の3の第1楽章の第2主題で、微妙な和声の変化をしっかり拾い出して聴かせてくれるのにはビックリ。先輩にあたるウェールズQとはまるで違う芸風ながら、師匠の同じ教えをまるで違う方向に展開しているのが興味深い。
 
最後に登場したアダマスQは、ヴィーンという経歴から想像していた典雅さとはまるで異なる、猛烈なテンポで駆け抜けるベートーヴェン作品18の6を披露。ソレイユQとはまた違った意味で、「どうしてこうなるの」と感じさせられてしまった。これだけ技術があるのだから、まだまだ音楽も変わっていくだろう。
 
 
というわけで、以下が審査員団が下した2次予選進出団体のリスト。木曜日の午前11時からの演奏順に並べてある。
 
◆カヴァレリQ (イギリス)
バルトーク第3番
ブラームス第2番
 
◆アルカディアQ(ルーマニア)
メンデルスゾーン第4番
バルトーク第5番
 
◆ヴァン・カイックQ(フランス)
シューマン第2番
バルトーク第3番
 
◆ラガッツェQ(オランダ)
シューマン第3番
バルトーク第4番
 
◆ヴァスムートQ(アメリカ)
メンデルスゾーン第6番
リゲティ第1番
 
◆ゲアハルトQ(スイス)
メンデルスゾーン第6番
バルトーク第6番
 
◆アベルQ(ドイツ)
シューマン第1番
バルトーク第4番
 
さても、この顔ぶれを妥当と思うか、ちょっとビックリと思うか。ストリーミングをお聴きになった貴方はいかがお感じだろうか。ロマン派とバルトーク若しくはリゲティという組み合わせ、やっぱり演目として注目してしまうのは、ヴァン・カイックQが持ち出したシューマンの第2番だろう。第5回大会で、まず誰も弾かないこの曲を持ち出し空前の名演奏を披露し優勝への足がかりとしたベネヴィッツQを思い出すのは、筆者だけではあるまい。

弦楽四重奏部門1次予選結果

及び2次予選演奏順と曲目

 

ライヴストリーミング

http://www.ustream.tv/channel/the-8th

第8回大阪国際室内楽コンクール&フェスタ

大阪初夏の陣 〈3〉

音楽ジャーナリスト 渡辺 和

以下の写真は、クリック(タップ)すると、

拡大され、キャプションも出ます。

コンクールチーフカメラマンの今日の1枚

その1:「イギリスのカヴァレリQがいずみホール楽屋に到着したところ。本日のキメウチです。」

(写真:日本室内楽振興財団チーフ・フォトグラファー:栗山主税)

コンクールチーフカメラマンの

今日の1枚

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