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様々なジャンルの音楽を
──今し方、弾かれたのはアイリッシュ系の作品ですが、凄いテクニックですね。
「本当に速くて、速くて大変です(笑)。」
──エレクトリック・ヴァイオリンを弾かれていましたね。
「これは五弦の楽器です。ヴィオラとヴァイオリンが合体したものです。便利ですね。扱いが若干難しくなるので、そこは習得しないといけないですが。」
──式町さんの演奏からはジャンルの広さと心地よさを感じます。
「ヴァイオリンを12年やっているのですが、まずは6年間クラシックをずっとやっていました。ポップスは元々大好きなので、ポップスを習得するためにまず頑張ったんです。
そして僕はアドリブも好きなので、その世界を知りたくてジャズの世界に入りました。 ポップスとジャズをやっていくうちに、クラシックの世界でダンスっぽくて、速弾きがあったら面白いだろうな、と思い速弾きもします。
それから耳の聞こえない方にも楽しんでいただけるような音楽を作ることも僕の夢だったんです。そういった理由でダンサーの方とよくコラボさせていただいたりするのですが、それがアイリッシュ、タップダンスの音楽へと拡がっていったわけですね。
ですから僕は一番の軸はポップスですが、クラシック、ジャズ、ポップス、アイリッシュ、ラテン他のジャンルを演奏します。」
──白寿ホールでコンサートをなさっていたとき、白寿生科学研究所のヘルストロン(電位治療器)で、体調を戻されたと言われていました。やはり、体にいいですか?
「いいですね。今も手首にしているんです。」
──あ、これもヘルストロンなのですか?
「ええ、腕が温まります。冬の時期は悴むので、これを使っています。」
──ヘルストロンでだいぶ体調が戻られた?
「麻痺そのものを完全に直すのは、なかなか難しいですが、ある時期、車いすに座る状態で、それですと体力、スタミナが落ちてくるんですね。しかも僕はがむしゃらにやるタイプなので、そうすると体を壊してしまうんですね。その時に、どうしようかと思ったのですが、ヘルストロンに乗ることによって血流が良くなって、体が元気になるんです。肩こりもひどいのですが、その解消にもいいですし、偏頭痛にも効きます。乗っていると体力が増強されて、コンサートでも元気に演奏できるという感じですね。」
──あれだけ速弾きができるのはすごいですね。
「自分でも不思議なんですよ。例えば、食事の時にうまくナイフが使えなかったり、階段を上り下りするときは手すりがないとうまくできないとかがあるんですね。日によって体調によっても変わってきます。走ることはできるけれど、階段の上り下りがうまくできないとか、変わっているんです。」
──やはり、ヴァイオリンの力は大きい。
「そうですね。脳科学でも言われていますが、指先を鍛えると脳が鍛えられますよね。小さい頃、手も麻痺していたんですよ。以前は動かすのも億劫でした。でも訓練の一環としてやっていたヴァイオリンのおかげで、あそこまで動くようになったわけですね。」
──コンサート活動は。
「去年の4月に初めてコンサートを行なって、これまでに6回やりました。最近、津波ヴァイオリンも使わせていただいているのですが、白寿ホールのコンサートの時も使わせていただきました。アコースティックで弾くというのはなかなかないので。僕は現在はエレクトリックが主流です。生のヴァイオリンからマイクを通しエフェクタを使う、という世界でもあります。」
リズムトレーニングもリハビリに
──最初に師事されたのは。
「最初にクラシックを正式にレッスンしていただいたのはヴァイオリニストの中澤きみ子先生です。」
──中西俊博さんに師事されたのはどのような経緯で?
「中西先生が、相模大野でコンサートをなさっていたのですね。僕は町田に住んでいますから、聴きに行ったことがあったんです。家にたまたチラシがあったんです。そして聴きに行ったらハマっちゃってハマっちゃって(笑)。ポップス、ジャズ、ロック、クラシック、先生ご自身の音楽……と演奏されていましたが、面白い世界だな、アドリブってなんて面白い世界なんだろう、と思ったんです。そこで先生に師事したいという手紙を書いたんです。すぐにはご返事はいただけなかったんですが、何ヶ月後かに、いいよ、と言ってくださって。私の演奏をDVDに録って送って、と言われたので送りました。当時はひどかったと思います(苦笑)。でも、いいよ、と言われてレッスンに通うようになりました。中西先生は、『熱意に押された』と仰っていました。」
──中西先生は、レッスンが厳しいことで有名ですが。
「リズムの鬼、と言われていますから(笑)。」
──グルーヴのことを盛んに言われます。
「グルーヴは本当に大事だと思います。先生の練習方法はとてもユニークで、まず、ピッチと指使いに2年くらいかけて、楽曲はいっさいしない。僕に対しては、音楽をかけて、ひたすら足踏みをする、というレッスンでした。
ちょうどその頃、僕の麻痺がひどくなって指使いが柔らかくできない状態になったので、ヴァイオリンは諦めた方がいいでしょうか、というお話をしたのですが、先生は、僕にヴァイオリンも弓も持たせないで、椅子に座わらせて、力抜いて、入れて、ということから始められたんです。
もはや普通の生活を送るためのようなところから始まったんです。そのようにして、あらゆるリズム、あらゆる音楽、を叩き込んだうえで、ゆっくりアドリブを合わせていく、ということをやっていました。」
──ヴァイオリンの勉強、音楽の勉強が、リハビリになっていたということですね。
「本当にそうですね。中西先生の教えのおかげですね。僕の病気が唯一良くなる方法というのは、筋肉に指令を与えることなんです、脳から。でも、自分では無理なんです。人にリハビリをしてもらう。人から、ここの筋肉を使っているよ、という指令を与えられると使えるようになってくるんです。
昔は、指がうまく廻らなかったんですが、今では先生のおかげで廻るようになりました。大恩人です。」
──グルーヴ感はどのように。
「例えばクラシックの楽曲の場合、作曲者の書いたものを忠実に守って弾かなくてはいけないですが、ジャズは、そうではなくて、とにかくグルーヴは大事に、というスタンスですよね。
元々僕はそちらの方が好きだということもありましたが、やはり中西先生の地道なレッスンのおかげでグルーヴ感が身についたように思います。
僕は三連が苦手で、二連と四連しかできなかったので、ひたすら三連を毎日、時には何時間もメトロノームで練習しました。
三連と言っても微妙な違いがあって、君ならその違いが分かる、と中西先生に言われて、本当にしっかりと訓練して、ここまでになりました。 三連はグルーヴの一つの元ですね。
人間の習性として、演奏して行くうちにどうしても速くなるということがあります。あとは、グルーヴがずれてくる、というのはありますが、先生は妥協を許さなくて、微妙な違いをとことん追求されていました。
厳しいレッスンだけど、耐えて頑張ってね、とよく言われました。そうすれば、そのうち初見でどんなリズムでも対応できるようになるから、と言われたんです。
2、3年経って、いろいろな曲をやるようになって、あ、ほんとだ、と驚きました。」
──アドリブはどうやってやるのですか?
「人それぞれですが、一番オーソドックスなのは、例えば中西先生に習ったときは、アドリブのためにまずリズムを習得するんです。当時スティービー・ワンダーの『I Just Called To Say I Love You』という曲で、リズムを叩き込んだ上で、洋楽をたくさんかけて、それに自由に合わせる、という方法でした。
最初は、あれ、わからないです、という状態でしたが、そのうちに、ゆっくり繰り返すうちに、アドリブができるようになっていったんです。僕は曲の中でアドリブをやったのではなくて、本当のアドリブから始めていきました。」
──コード進行に則ってアドリブをする、とよく言われますが。
「勿論、コードも使います。でも、最初びっくりしたのですが、とにかく、自由にやってごらん、と言われたんです。コードは、何度も練習をやっていくうちにだんだんと分かっていくようになる。
よく先生に言われるのは、気持ちいい音と悪い音を探してごらん、ということです。コードに沿っていなくても気持ちの良い音というのはあります。でも気持ち悪い音もあります。その音の感覚を大事にしてね、とよく言われました。気持ちいい音、悪い音を自分の頭に認識させることで、そのうちに自分で自動的にアドリブになってくる、ということなんですね。」
──そういう作業も、きっとリハビリになっているのでしょうね。
「そうですね。そして中西先生は決して諦めなかったのですね。僕ができないと言っても、いやできる、といつも仰っていました。
そのうちにステップしながらヴァイオリンを弾くということによって、足と手を連動させるということもありました。実は、その作業は理にかなっていまして、僕の脳の障害を直す最も最適な方法だったんです。先生のおかげです。
先生が五弦ヴァイオリンを弾かれていることもあって、僕も五弦を弾くようになりました。先生は、視覚障害の方にも楽しんでいただけるようにといろいろ工夫なさっているのですが、五弦ヴァイオリンは、変化に富んだ音がします。
それで例えばアイリッシュのダンサーの方とコラボして、今度は聴覚障害の方にも楽しんでいただける。」
──クラシックの世界にもグルーヴを。
「クラシックにも勿論グルーヴはありますね。例えば、モデラート、アレグロとかありますね。そしてア・テンポ、これはある意味グルーヴなんですね。チャールダーシュって結構盛り上がるじゃないですか。
それは、テンポの速い部分と遅い部分がそれぞれグルーヴしているからだと思うんです。だから聴いていて面白い。今回、リベルタンゴを演奏しますが、これは正にグルーヴ・ヴァージョンですね。
グルーヴの表現は、いろいろあると思いますが、僕はよくちょっとしたニュアンスでも出します。例えばポルタメント奏法がありますが、指を押さえて若干スライドさせる。そういうニュアンスがグルーヴに繋がるんです。」
──今後の抱負を。
「まず大事なのは、中西先生のなさっている音楽を継承することです。勿論クラシックの世界も弾いていきます。全部のジャンルを丁寧に汚さないで弾きこなすことですね。全部を中途半端にするのではなく、大変ですけれど、全部を丁寧に究めていく。そしてお客様の要望に常に応えられるようにしたい。
お客様は、ジャズ好き、クラシック好き……といったように別れると思いますが、全部のご要望に応えるために全部を究めたいと思っています。津波ヴァイオリンも弾かせていただきますが、聴いてくださる方々が被災地のことをいつまでも忘れないで欲しいと思いますし、また、悲しみを少しでも癒やしてあげられたらと思います。鎮魂歌のように弾きたい。
あとは、後世に伝えたい。同時にエレクトリックの世界も広めていきたい。 僕自身障害を持っていますが、障害を持っているからといって、最初から諦めるのではなく、少しずつの積み重ねによって、いまより絶対に強くなるということ、一生懸命頑張ろうね、ということを伝えたい。
小さい頃は、プロのヴァイオリニストになりたい、という気持ちが強かったのですが、今は、そういったことを超越して、いろいろな方に音楽を伝えたい、という気持ちの方が大きいですね。なによりもいろんな方が楽しめるものにしていきたいですね。音楽だけでなく、視覚的にも聴覚的にも全部楽しめるようなものですね。」
式町水晶(しきまちみずき)
〜心のままに〜
ヴァイオリニスト
式町水晶さんに訊く
インタヴュー
式町水晶(しきまちみずき)さんは高校生ヴァイオリニスト。 幼児期に脳性麻痺を発症し、指の麻痺や動作のバランスが取りづらいといったハンディを持つ方だ。 しかし、4歳からそのハンディを克服するためにヴァイオリンを始めて、それが体に良い影響をもたらし、さらにはヴァイオリニトとして成長し、多岐に亘るジャンルを演奏して人々に感動を与えている。
式町さんは、財団法人Classic for Japanが主催する「千の音色でつなぐ絆」プロジェクトにも参加している。昨年10月25日、白寿ホールで行なった「津波ヴァイオリン~千の音色でつなぐ絆~チャリティコンサート 式町水晶 心のままに」で、感動的な演奏によって聴衆を魅了した。 3月10日にも、東日本大震災チャリティ公演「式町水晶コンサート~心のままに~」を行なった。このインタヴューは、そのリハーサルの時のものだ。
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