音階と旋法について
音階という言葉は誰もが知っている。
だが、旋法となると、ちょっと曖昧、という方も多いのではないだろうか。
音階というと、長調(長音階)と短調(短音階)の二つをイメージする方がほとんどだと思う。
しかし、この音階は長調と短調しかない、と思い込んでしまったところに、旋法という言葉が出てきたときに惑わされる原因があるように思えてならない。
玉木宏樹先生は、こう言われた。
「音階」とは文字通りに、音を階段的に並べたもの。
「旋法」とはその「音階」で旋律を作るための種々の並べ方。
そして、さらにこう説明された。
今の平均律のピアノは、12の半音階で成り立っています。そして、変化音のない、つまり白鍵だけの音階を全音階と呼びます。
この白鍵だけの音階(Diatonic Scale)の中で、「ド」から始まる「ドレミファソラシド」を長音階と呼んでいますが、本当は「ド」から始まる旋法なのです。同様に「ラ」から始まる「ラシドレミファソラ」という自然短音階も、「ラ」から始まる旋法なのです。
ということは、レから始まる「レミファソラシドレ」という旋法もあるし、ミから始まる「ミファソラシドレミ」という旋法もあるし、……計7つの旋法があることになる。(但し、これらの旋法が華やかなりし時代は、教会旋法としての旋法である。現代における旋法とは意味合いが違う。)
例えば、レから始まる「レミファソラシドレ」は、音階であり旋法であるわけだ(ドリア旋法)。これをD durとは違うの? と誤解する人がいるが、そもそも、レから始まる「レミファソラシドレ」は、長音階とは別物であることを忘れてしまうから、勘違いすることになるように思えてならない。
レミファソレラシドレ、という長調でも短調でもない音階なのである。
長調と短調しか、音階がないと思い込んでしまったのは、音楽教育にも原因があるように思えてならない。
旋法のそれぞれ
では、ドから始まる旋法(イオニア旋法・教会旋法)は、ハ長調と同じ、と言って良いのか。
玉木先生は、
理論的には現代のハ長調は、メロディの流れの中で機能和声を内包しているので、いろいろなハーモニー付けが可能である。
しかし、イオニア旋法は、機能和声を内包しない、つまりハーモニー的には、ドミソだけのメロディである。
と言われている。
その例として、ラヴェルのボレロをあげられた。このメロディは延々とドミソだけの伴奏で展開する。
その他の旋法について、玉木先生は、次のように語った。
「レ」から始まる旋法は「ドリア」と呼ばれ、ニ短調とは、6度が半音高くなります。。
この「ドリア」旋法の曲は沢山あります。ドラマ音楽とかCM音楽でも、少し古風な感じを要求された時、この旋法が使われます。有名な曲を2曲あげておきましょう。「スカバラフェア」と「グリーンスリーブス」です。またチャイコフスキーの弦楽セレナードの3楽章は、「ミ」の音から始まる「ドリア」です。
次に「ミ」から始まるのは「フリギア」旋法です。
この旋法は上から下へ下ってくると、「ファ」と「ミ」が下行導音になる哀愁のあるフンイキがあります。ギリシャのオリュムポス音階と、それに全く同じの日本の雲井調子がこの旋法です。
そして長唄なんかに典型的に出てくる決まり文句のようなフレーズも典型的な「フリギア」です。
「ファ」から始まる「リディア」。
この旋法は、4度が半音高く、なんだかテンションの高い不安感を伴います。昔のアメリカの漫画映画のアクションシーンとかによく使われていました。
有名な曲ではショスタコーヴィチの7番交響曲の冒頭とか、バルトークの民俗風のフレーズには頻繁に登場します。それから、ハリウッドで映画音楽を沢山書いたコルンゴールトは、その経験をもとにしたVln協奏曲を作曲しましたが、1楽章の冒頭はリディア、終楽章のエンディングに出てくるホルンによる堂々としたメロディはリディアとミクソリディアです。まさに映画音楽然としています。
「ソ」から始まるのは「ミクソリディア」。これは「ドリア」と並び、最もよく使われる旋法です。一昔前のアメリカの西部劇映画には無数に使われました。それを多少意識した、私の作曲した「大江戸捜査網」のテーマはミクソリディアそのものです。
「ラ」から始まるのはイ短調と同じです。また、ジャズでは「シ」から始まるのを「ロクリア」と呼んでスケール練習もありますが、クラシック系で使うことはないようです。
今演奏している曲が、なんだか、長調でも短調でもない雰囲気、と感じたら、旋法を分析してみるとさらに音楽への興味が深くなっていくのではないか、と私は思う。
(青木日出男)