リサイタルツアー 秋のシーズン
「聴衆の息づかいを聴きながら音楽を創っていきます。」
ヴィオラ奏者 植村理一
インタヴュー
ーー リサイタルツアー 秋のシーズンがスタートしました。11月8日に行なわれた東方典礼カトリック教会(京都)でのリサイタルはいかがでしたか?
「満席のお客様と、会場の素晴らしい響きに支えられ、私自身も気持ちの良いリサイタルでした。お客様からは『とてもあたたかい雰囲気で、至福の時でした』といった感想をいただき、とても嬉しく思っています。
皆さん、意欲的に聴いてくださり、積極的に音楽に参加していただけたような印象を受けました。
私自身もヨーロッパでクァルテットを演奏していた時のように、ステージが「自分の場所」。リビングルームのように、いろいろな空想をめぐらせる一番落ち着ける場所のように感じました。
アルバートさんとのデュオに留まらず、お客様と室内楽を演奏しているかのようでした。私も演奏している時が最もリラックスし、時間、距離から解放され、演奏中、心の世界でお客様と自由に会話か出来る体験をさせていただきました。」
ゴットファーザー『愛のテーマ』を書いた
ニーノ・ロータのクラシック作品とは
ーー 選曲はどのように?
「まずオープニングに明るく華やかな曲を演奏し、最後はブラームスという流れにしました。
そして、エネスコ(Vn)、シューマン(Pf)、ヒンデミット(Va)ブラームス(Pf,Va)など、演奏家でもあった作曲家を選びました。
私は、イタリアでクァルテットを8年間演奏していたので、ニーノ・ロータの珍しい作品も取り上げます。イタリア文化会館のご後援もいただきました。」
ーー ニーノ・ロータのヴィオラ・ソナタはどのような作品ですか?
「ロータはイタリアの作曲家です(Nino Rota 1911〜1979)。フェリーニの映画のほとんどの曲を書いています。なかでも、コッポラ監督の映画ゴットファーザーの『愛のテーマ』は世界的に有名ですが、クラシックにおいても素晴らしい作曲家です。ロータ自身、映画音楽は趣味で本業はクラシックだと言っていました。
このソナタはイタリア・クァルテットのヴィオリスト、ピエロ・ファルッリ氏に捧げられました。のびやかでパストラール風な第1楽章。コラール的第2楽章。そして明るく弾むようなロンド風の第3楽章に、軽快なコーダで締めくくられます。
ロータはカーティス音楽院でも学んでいるので、『アメリカ的な広がり』と、元来彼の中にある『イタリア的な繊細さ』が織りなす世界はとても美しいです。
ぜひ、この機会にたくさんの方々に聴いていただきたいと思います。」
ーー ブラームスのヴィオラ・ソナタは元々はクラリネットのために書かれ、その後、ブラームス自身がヴィオラに編曲しているのですね。この作品は、ヴィオラ奏者にとって、どのような存在ですか?
「ブラームスは晩年制作意欲も衰えていましたが、才能あふれるクラリネット奏者に出会い、一気にソナタを書きました。そして、それらの作品を自分でも演奏できるようにヴィオラ譜も作ったのです。
曲は愛情に満ちています。
クラリネット作品からの編曲ですが、ブラームス自身、当初から自分で演奏することを念頭に書かれているので、極めて自然で、身近に感じます。」
共演者アルバート・ロト氏は
ピアニストというより「芸術家」
ーー 共演者のピアニスト、アルバート・ロトさんはどのようなピアニストですか?
「先日の若林暢さんのアルバートさんとのリサイタルを聴き、感動しまして、即決で共演を依頼しました。ですので、今回が初めての共演です。
彼はピアニストというより芸術家です。
ピアノを鍵盤楽器ではなく完全に『弦楽器』として扱っています。私たちはいわゆる縦の線を合わせたり、ダイナミクスを打ち合わせたりはしません。曲の持っているエネルギー、方向性、作曲者の意思に近づくために、弾きながら耳で感じ、お互いの響きをブレンドしていきます。
それゆえ、アルバートは『天使の羽根を持った詩人』と海外でも評されるのです。」
ーー 岡山大学Junko Fukutake Hallは今月完成したばかりのホールなのですね。こちらでのリサイタルは、どういった切っ掛けで?
「岡山大学の学長から、『岡山大学創立150周年記念事業』として直接お話をいただきました。
私も東京芸術大学に勤め、大学での教育に携わっていますので、こういった形でご協力させていただけることを大変に名誉に感じ、嬉しく思います。これからも教育の場が、広く世間から大切にされていくことを望みます。」
聴衆と共に創る
ーー 最後に、聴衆にメッセージをお願いします。
「国籍、宗教、文化、人種、利害を超えて魂の世界では全ての人は等しく平等で、等しく尊い。音楽はその大切さを私たちに教えてくれます。
今回はポーランド人とウクライナ人を父母に待つNY在住のアルバート・ロト氏、同じくNY生まれの私とがさまざまな時代のさまざまな国籍の演奏家、かつ作曲家の曲を演奏し、1つの世界を創ります。そのために膨大なエネルギーが費やされました。
アルバートさんも我が家に泊まり込み、連日8時間を超えるリハーサルもあっという間に経ってしまいます。
人間『完璧』はあり得ませんが、個性を尊重し、より理解しようと真剣に共演者と共に曲に向かい合う、その妥協のない真剣さに皆さまにも聴衆として参加していただけたら幸せです。
あらかじめ出来たものを発表するのではなく、アルバートさんと皆さまの息づかいを感じながら音楽をその場で創っていきます。
ですから、お客様も共演者なのです。それが私たちの演奏です。」
取材:向後由美

植村理一 リサイタルツアー 秋のシーズン
出演:植村理一(ヴィオラ)
アルバート・ロト(ピアノ)
曲目:G.エネスコ/演奏会用小品
R.シューマン/おとぎ話 作品113
P.ヒンデミット/ソナタ 作品11-4
N.ロータ/ソナタ 第1番 ハ長調
J.ブラームス/ソナタ 第1番 作品120-1
12月 1日(日) 京都 南丹市 知井文化の集い