財団法人 CLASSIC FOR JAPAN(CFJ)の活動
「簡単に一言でいうと、ただ純粋にクラシック音楽を盛り上げていくために、様々なプロジェクトを行なっています。
特に二十代、三十代の関心というものが世間的にまだまだ弱いと思います。
それは以前からずっと問題だと思っていて、やはり、二十代、三十代でクラシック音楽が盛り上がっていかないと、いずれ消えてしまうことを懸念しています。これは、何かをしなくてはいけない、と思い、電通入社後すぐにCLASSIC FOR JAPANプロジェクトチームを発足し、その後正式に財団法人化しました。
最初にやろうと思った事は、若手演奏家の支援です。それは、すでにこれまでも長くやっていることではあったのですが、日本の二十代、三十代が盛り上がるためには、スターが必要だと思いました。それも日本の若手演奏家のスターです。現状では、一般の人に、知っているヴァイオリニストを5人あげてみて、と質問しても、あげられないのが実情です。ポップに近くなるほど、メディアに出ますが、純クラシックで、それなりに名前が通る人というのは、そんなにはあげられない。それでは草の根は広がらない。だから、スターを育てることが大事だと思った訳です。
若手音楽家をサポートする支援の一つとして、CFJは、若手演奏家に対して名器の貸与をしています。やはり名器を使用することによって、コンクールやリサイタル本番の結果がかなり違ってくると思います。しかし、若ければ若い程、名器を持つ事は困難です。そこを無償で貸与する、ということです。
その結果、良い成績を収め、そこから羽ばたいてくれれば、それはとても嬉しいことですし、次につながることだと思います。
CFJは名器を保有出来る財団には至っていませんが、名器の持ち主と若手演奏家との間を取り持つ、という活動を行なっています。企業のオーナーや資産家の方々で若手演奏家を支援したいと考えている人というのは、実はとても多くいらっしゃいます。例えば、COCO壱番屋創業者の宗次ご夫妻も、若い演奏家を支援しています。このように企業やオーナーの方々と若手の優秀な演奏家とをマッチングする、という業務も行なっています。
その流れで宗次エンジェルヴァイオリンコンクールも一緒に盛り上げてきました。このコンクールの特徴である弦楽器貸与のコンサルティングもCFJが行なっています。楽器の選定・管理もCFJでしっかり責任を持ってやっています。良い楽器には良いメンテナンスが必要なので、それなりのメンテナンスも行なっています。
これがCFJの仕事として最も重要なものの一つです。」
――20世紀の巨匠も、多くがストラドをはじめとした名器を使っていますね。
「そうですね。ただ名器は次の300年にも繋いでいかなくていけないと思っています。そういう役割もこの財団にあると考えていますし、何より、私自身が特に若い人に貸与し、サポートしていきたいと思っています。
今ストラドを持っている方というのは、既に功成り遂げた方がほとんどです。有名な方はご自身で買える方もいるでしょうし、十分援助されている方もいらっしゃいます。でも、これからあと一歩という位置にいる若い人、でも名器は持っていないという方にストラドを貸与するということをCFJは行なっていきます。若手には相応しくない、と言ってしまうのではなくて、この楽器は次の世代にバトンタッチしていかなくてはいけない、と思います。
だから、宗次エンジェルヴァイオリンコンクールにおいても、若い人達への名器の貸与、ということが大きな目的の一つになっています。今の音楽家も勿論名器を使うにこしたことはないですが、やはり残していく、ということも大事だと思います。
そして私達は、日本の演奏家に対する貸与を行なっていきます。これはCFJの根底にある「日本のクラシックを盛り上げたい」という想いに沿ったもので、日本でのスターを生まないとダメだと思っています。特に十代二十代から出てきて欲しいですね。そうでなければ、十代二十代のファンがついていかないと思っています。そのために頑張って欲しいですし、そのためであれば、CFJはいくらでも協力します。」
東北復興プロジェクト
TSUNAMIヴァイオリン-千の音色でつなぐ絆-
「音楽界を盛り上げる」ということは大切な事業のひとつですが、CFJとして今やらなくてはいけないのは、東北における音楽復興だと思います。
東北復興プロジェクトの一つとして『TSUNAMIヴァイオリン・プロジェクト』-千の音色でつなぐ絆-というものがあります。
陸前高田の奇跡の一本松を使って、ヴァイオリンの中の魂柱が作られ、ボディは、流された家屋から作られた津波ヴァイオリンが父、中澤宗幸によって制作されました。そこには人々の思いが込められています。奇跡の一本松から魂柱が作られたわけです。」この楽器を世界中の1000人の演奏家に繋いでいきます。
――流された木材から津波ヴァイオリンがつくられ、その裏に奇跡の一本松の絵が描かれていることは知っていましたが、魂柱が奇跡の一本松から作られたのは知りませんでした。
「これは、意外と知られていなくて、海外のメディアからも、同じ反応が来ました(笑)。魂柱は一本松から作られた物です。正に魂のこもった魂柱なんです。
すでに本当に多くのいろいろな演奏家に弾いて戴きました。1000人の演奏家に引き継いでいただく、ということで始まりまして、すでに200人の演奏家に弾いていただきました。今年7月、学習院OB管弦楽団定期コンサートにて、皇太子さまがTSUNAMIヴィオラをお弾きになり、同年10月にはサントリーホールにてヨーヨー・マさんがTSUNAMIチェロをアンコール披露しNHKで放送されました。もちろんプロだけでなく、いろいろな方に弾いていただきながら、リレーを続けています。」
東北復興プロジェクト
CLASSIC FOR JAPAN × ルツェルンフェスティバル
「もうひとつは、スイスの音楽祭、ルツェルン・フェスティバルとの連携です。
今年9月、CFJとルツェルン・フェスティバルはプロジェクトパートナーとして連携し、可動式ホール・アークノヴァ内において「CFJこども音楽プログラム」を開催しました。被災地のこども達だけを招待した音楽プログラムです。
特に強く意識したのは「分りやすいクラシック音楽」。簡単に言うと、演奏よりも、“曲の説明”、“聴きどころについての解説”にフォーカスしました。そのために、元テレビ朝日アナウンサーの朝岡さんに司会をお願いし、聴く側がわかりやすい音楽を目指しました。
またアークノヴァに来られなかったこども達のために、桐朋学園の高校生に協力いただき、学校訪問コンサートを行い、その次の日には坂本龍一さんや、ルツェルン祝祭管弦楽団ピックアップメンバーによるコンサートなども開催しました。多くのメディアに取り上げられ、大成功に終わりましたが、単発で終わるのではなく、継続を目指して来年度を既に企画中です。
CLASSIC FOR JAPANと電通の
壮大なプロジェクトへ
「CFJは、クラシック音楽の普及活動、若手演奏家支援をメインやっていますが、今、やらなくてはいけないのが、東北を音楽で元気にする、ということだと思っています。その部分を電通と協力して進めています。
先ほど申し上げた、ルツェルンフェスティバルアークノヴァもそうです。
陸前高田の市長も仰っていましたが、音楽は何かを変える力があると。その通りだと思います。すでにTSUNAMIヴァイオリンの1000人リレー活動でずっとやってきたので、それは事実だと思います。この活動を行なってきて、良かったと思うことの一つに、今までヴァイオリンやクラシックを聴いたことのなかった方々も、このTSUNAMIヴァイオリンを通して、クラシックに触れることが出来ているのです。
東北の復興と同時に音楽の普及にも繋がっているということです。
この活動に関して、お手紙も多くいただき、クラシック音楽を初めて聴きました、という熱いお手紙もたくさんいただきました。ふだん興味がなかった人でも、このTSUNAMIヴァイオリンのコンサートには来てくださるんです。
今回のプロジェクトでは、東北の復興とクラシック音楽の普及・復興ということが大きなテーマですが、それが大きな手応えとなって返ってきていることは、本当に大きな励みになっています。」
──意義のあるプロジェクトですね。中澤さんのお勤めになっている電通さんとCFJとの関係というのは。
「当初は、私自身が、電通とCFJのお仕事をそれぞれどのようにやっていこうか、と凄く考えました。元々、僕の家は音楽の家系ですので、音楽で日本に貢献するという大きなテーマを持っていたわけで、定期的にサロンコンサートを開催したり、TSUNAMIヴァイオリンの1000人リレープロジェクトも始めていたわけですが、TSUNAMIヴァイオリンのことがニュースに取り上げられ、社会的に周知されたことによって、僕のやっているプロジェクトを電通が応援する、と言って貰えました。
これは最高の形でした。僕は電通ではメディアプランナーとして、毎日様々なクライアントに接していますが、日本における芸術・音楽の発展につながる社会貢献事業の提案に力を入れています。かたやCFJの活動をしているわけです。
電通は、やはり、何かを定着させることのプロフェッショナル集団です。
クラシック音楽をもっともっと若い人たちに知ってもらいたい、生活に必要不可欠である、ということを皆さんに知っていただくようにするプロだと思います。
その電通がビジネスを超えて、音楽と文化事業に興味を持ってくれたのは凄く嬉しかったです。震災以降、文化が大切であると考え方にさらに拍車が掛かったように思います。
──ご自身の夢と生きがいとやりがいとお仕事が全部見事に合致したものですね。
「まだまだ難しいことはたくさんありますが、頑張っています。そして、こつこつと進めているもう一つプロジェクトがありまして、『音楽の日』という日をつくろうとしています。この日は、日本全体がクラシック音楽一色になる日、というものを作ろうとしています。その日には、CMから電車の広告から何から何までクラシカルなものにするわけですね。広告だけでなく、生の演奏が街中で流れているような、そういう日を作ったら面白いと思います。各企業や日本の主要オーケストラやホールにもお話をしているところです。
クラシック音楽全体を盛り上げていくのは演奏家の役目ではないと思います。盛り上げる環境を創り、それを継続して外に発信していく役目を背負っているのは我々プロデューサーの役目だと考えています。」
取材:青木日出男
若手演奏家支援、ルツェルン・フェスティバルと連携した東北音楽祭、
震災ヴァイオリン1000人リレー、様々な音楽復興プロジェクト……
壮大なプロジェクトをプロデュースする中澤創太さんにお話をうかがった。
中澤さんは、大手広告代理店・電通のメディア・プランナーとしての顔と財団法人CLASSIC FOR JAPAN(CFJ)のチーフ・ディレクターとしての顔を持つ方だ。
中澤さんに、この壮大なプロジェクトの始まりである、CFJの活動と、ここに電通が加わっての、音楽による東北復興プロジェクトについてうかがった。
http://classic-for-japan.or.jp
東北復興の為に音楽を
財団法人CLASSIC FOR JAPAN(CFJ)と電通の壮大なプロジェクト
中澤創太さんに訊く
インタヴュー
【プロフィール】
中澤創太(なかざわ そうた)
東京都出身
1985年1月7日生まれ。
英国アメリカンスクール卒。
上智大学外国語学部卒業後 株式会社電通入社。
営業を経て、現在メディアプランナー。
数々の音楽・文化を発展させるためのプロジェクトを手がけている。
2009年、”CLASSIC FOR JAPAN”プロジェクトチームを発足し、2013年に一般財団法人CLASSIC FOR JAPANとして正式に登録及び活動をスタートした。
チーフディレクターを務め、若手演奏家支援、音楽祭開催、TSUNAMIヴァイオリンプロジェクトと幅広いプロジェクト展開している。
今年2013年10月、ルツェルンフェスティバル・アークノヴァ松島における、「CLASSIC FOR JAPAN こども音楽プログラム」の総合プロデューサーを務める。
中澤創太さん
キム・ダミさんと宗次德二氏
宗次コレクション楽器の一つであるストラディヴァリウス1731年「ロマノフ」が貸与された。