東京音楽コンクール入賞者リサイタル

ヴァイオリニスト 井上静香の「今」を。

11月4日(月・祝)東京文化会館 小ホールにて井上静香さんがリサイタルを行なう。

 

ーー 東京音楽コンクールを受けたきっかけは?

 

「私がこのコンクールを受けたのは、5年前、2008年です。その当時、悩み多き時期で、何かを打破したくていろいろなことに挑戦していたのです。その一つがコンクールでした。

 

既に28歳で、受けられるコンクールが限られていたのですが、やるからにはがんばりなさい、と先生からも背中を押され、挑戦しました。

 

結果は2位だったのですが、聴衆賞をいただき、それがものすごく嬉しかったですね。

やってきたこと、やりたいことを音に出すことができたのかな、と。1位には繋がりませんでしたが、ご褒美をいただいた気分でした。」

 

ーー 当時、コンクールを受けることに関して、周囲の反応はいかがでしたか?

 

「既に仕事をしていましたら、やはり、驚かれました。その頃、紀尾井シンフォニエッタ東京のメンバーになった時期だったので、とにかく時間をつくることが大変でしたから。

 

でも、チャレンジできる場があるというのは有り難いことです。それに、このコンクールは後々演奏の場をつなげてくれるのですね。今回のリサイタルもそうですが、この他に、都立美術館での演奏や、小学校でのアウトリーチなどがあり、そのいくつかに参加して経験値を上げることもできました。ですので、本当に受けて良かったと思っています。

 

今、思うことは、チャレンジできることがあったら迷わずにやったほうが良いんだな、ということです。

仕事が忙しかったり、いろいろと問題があるかとは思うのですが、意外とできるものです。自分で制限をかけずにやってみることが大事なのだと思います。」

 

ーー 当時、他にはどのようなことに挑戦していたのですか?

 

「他にはヨガを始めてみたり・・・。試行錯誤していたんですね。もがいていました。

 

でも実は、具体的にどういった経緯でコンクールを受けたのかは覚えていないんです(笑)。

 

今まで、大きなきっかけや、理由があって行動に移した、というより、直感だったり、こうしたらおもしろいのではないか?といった流れでやってきたんです。コンクールもそのような状況だったのだと思います。」

 

ーー ヴァイオリニストになろうと思われたのも?

 

「そうですね。私は新潟の出身で中学3年生まで新潟で過ごしたのですが、中学3年になったらヴァイオリンはやめようと考えていました。どちらかというと、医療系にすすみたくて。

 

ヴァイオリンはどうしても練習時間を多くとられ、友達と遊ぶ時間も少なくなってしまったり、子ども心に我慢するというのが嫌だったのですね。もっと別の世界に行きたい、と思っていたんです。

 

丁度その頃、先生に勧められて地元で行なわれている、新潟県音楽コンクールを受けたのです。そのコンクールは一般も小中高生も全部一緒くたなのですが、中学2年生で大賞を受賞することが出来たんです。

 

それで、もしかしたら音楽の道でもやっていけるのでは?と思うようになり、桐朋学園に進学することにしたんです(笑)。

 

でも、高校生の頃はまだヴァイオリニストに、というのは実はそれほど思わなかったのですが、大学で室内楽をやるようになり、良い仲間と知り合ってからですね、音楽の世界でやっていきたい、と思うようになったのは。」

 

ーー 卒業後、紀尾井シンフォニエッタ東京に?

 

「2006年頃に紀尾井シンフォニエッタ東京のシーズンメンバーに応募して、1年間弾かせていただいて、その後、正式にメンバーになりました。

 

室内オケがやりたかったんです。オーケストラよりも『個』が活かされるような気がしていたんですね。今は、オケでもかわらないかな、と思っているのですが。

 

でもやはり、アンサンブルの面では、室内オケはシビアな側面が多いので、そちらの方に興味がありました。作品もオケよりも室内オケのレパートリーの方が好きでしたね。それらがシーズンメンバー募集に応募した動機でした。」

 

東京文化会館 小ホールでのリサイタル

 

ーー 選曲はどのように?

 

「まずは好きな曲。それからチャレンジしたい曲を選びました。」

 

ストラヴィンスキー「デュオコンチェルタント」

ベートーヴェン「クロイツェルソナタ」

 

「ストラヴィンスキーが本当に大好きで、この曲(デュオコンチェルタント)もずっと取り上げたいと思っていた作品です。今回、プログラムに入れることが決まって、ストラヴィンスキーについて更に勉強する中で、ストラヴィンスキーとベートーヴェン(リサイタルではクロイツェルを演奏する)との繋がりがみえてきたのです。

 

ベートーヴェンが交響曲第3番エロイカを作曲したのは1803年。フランス革命が終わりにさしかかり、その翌年にナポレオンが政権をとり混乱期が終わるかと見えて、またも混乱の日々が続くわけです。そういった時代に書かれた作品。

 

それ以前の、交響曲1番、2番の頃はハイドン様式ですね。貴族の夜会の様子をそのまま曲に当てはめていたような作品です。

例えば1楽章は馬車が到着して出迎える様子。2楽章は夜会が始まるまでのゆったりした時間。3楽章はメヌエット、つまり踊りです。そして4楽章で皆が帰っていく、というような構成です。

 

それが、3番エロイカには、そういった時代は終わったのだ、という激しさがあります。おそらく、聴衆は驚いたと思うんですね。何故、こんな曲を今書くのだろうか?と。

 

そこから110年経ち、ストラヴィンスキーの『春の祭典』が初演され、その時も聴衆は大混乱だったと記録が残っています。

 

その1年後に第一次世界大戦が始まり、またそれにも混乱期の前兆が漂っています。

 

ベートーヴェンもストラヴィンスキーも、混乱期の始まりを肌で感じていたのか、作品に時代が反映されているということが共通点であり、その2人の作品には他の作曲家の作品とは少し違うものを感じるんです。

 

特に『春の祭典』は原始的なエネルギーというか、言葉では表せないような、体で感じるようなものがあると思う。同種のものをベートーヴェンの作品にも感じるのです。

 

ですから、エロイカ完成から210年、春の祭典初演から100年たった2013年の今、この2人の作曲家の作品をプログラムに入れ、勉強し演奏することができるのが、とても嬉しいです。」

 

佐藤眞「無伴奏バイオリンのためのファンタジー」

 

「現代曲というと、メロディックではなかったりすることがありますが、この作品は最初から最後までメロディに一貫性があり、要素だけが飛び出している、そのような作品です。

緊張感があり引き込まれていきます。かといって緊張感がありすぎるわけではなく、異空間に連れて行ってくれるような雰囲気の作品です。

 

和の雰囲気も感じるのですが、それが全面にでているわけでもなく、興味深い作品です。

 

今、私は邦人作曲家の作品を演奏することが好きで、機会があればもっと積極的に演奏していきたいと考えているんです。今回、佐藤眞さんの作品を入れたのは、そういったことをやっていきたい、という意思表示の意味も込めて入れました。」

 

エックレス ソナタ

 

 「エックレスは小さいときから演奏している作品です。当時、練習をすることがあまり好きではなかったのですが、でも、ヴァイオリンを弾くことは好きで、その時代に弾いて気持ちが良かった作品です。今、どのように感じて、どのように弾けるかな、と思ったことがありプログラムに入れました。」

 

音楽の時代背景

 

ーー 音楽は作品の要素のひとつでもある時代背景を客席に届けることは難しいように思います。

例えば絵画の場合、歴史的なことをテーマに展覧会を行なっても、それほど敷居の高さや堅苦しさのようなものは感じられないことが多いように思うのです。

でも、音楽の場合、それをやってしまうと、演奏会の趣旨自体がそれてしまう可能性も。

 

「目で見えるわけではありませんしね。

そこにクラシックのおもしろさがあったり、ということもありますが、でも聴いたままを受け止めてほしいと思います。

 

演奏会で、時代背景など、そういった歴史的な側面を前面に出してしまうのは野暮なのかな・・・と(笑)。でも、それを知るともっと興味をもって聴くことができる。そういった可能性が高いのも事実です。歴史のロマンを感じることも出来ますので、聴いた感覚を更に広げる要素になり得ると思います。」

 

ーー クラシック音楽に興味を持つ切っ掛けは人それぞれで、もしかしたら歴史がきっかけになることもあるのかもしれませんね。

 

「切っ掛けというのはすごく大事だと考えています。

 

アウトリーチに関しても、学校側から、知っている曲を取り上げてほしい、といったリクエストが多いんですね。もちろん、それも良いと思うのですが、有名ではなくても、良いものは良い。聴いたことがなくても。

 

絵画でもそうだと思うんですね。よく分からないのだけれど、何故か惹かれる、ということがあると思います。それに近いですね。

 

特に子どもに聴いてもらうときには、そういった感覚を養ってほしいと願いながら内容を詰めています。

 

生で聴くからこそ感じるものがあり、それが後々何かに繋がっていってくれたら嬉しいですね。それがたとえ音楽でなくても良いと思うのです。

そういったきっかけを作ることができたら嬉しいし、続けていきたいと思っています。」

 

 

ーー ピアニスト、鷹羽弘晃さんとは何度目の共演ですか?

 

「今回が初めてです。鷹羽さんは桐朋の一つ上の先輩で元々作曲の方です。なので、演奏も作曲家としての解釈なのですね。ピアニストだとピアニズムからの解釈でまた違うと思うのですが。ですので、発見があります。」

 

ーー 聴衆にメッセージを。

 

「チラシに『井上静香の今を』というキャッチコピーがあるのですが、これを作った頃の『今』と、この瞬間の『今』とでは、中身が変わっていて、変化の途中である自分があります。11月4日だけの音、というのを是非、聴いていただきたいと思います。」

インタヴュー

©AYACO NAKAMURA

井上静香ヴァイオリンリサイタル

日時:11月4日(月・祝)14時開演
会場:東京文化会館小ホール
曲目:エックレス/ソナタ、ストラヴィンスキー/デュオコンチェルタント、佐藤眞/無伴奏バイオリンのためのファンタジー
   ベートーヴェン/クロイツェルソナタ
詳細:
http://www.t-bunka.jp/calendar/calview.html?ym=201311&d=5&m=small

© 2014 by アッコルド出版