実を言うと、森友嵐士さんの歌を知ったのは、3年ほど前だ。
妥協を許さぬメロディライン。
恐れを感じるほどのエネルギー。
頑なな心を解放してくれる優しさ。
そして、根底に流れる愛。
彼の歌には尋常でない「歌心」があり、グルーヴがある。それは天性のものなのか。
誤解を恐れず言うと、器楽奏者がいくら頑張っても、ある意味、歌手の音楽的情報量には敵うべくもない。
いろいろ想像するばかりで、森友さんのことは何も知らなかった。
あれほどの歌をうたう人に何故十数年間の空白があったのだろうか。
アッコルドは設立当社から「ヒューマン・クロスオーヴァー」を理念の一つとして掲げてきた。すると運命の環は輪廻の環のごとくというのだろうか。まず森友さんの「男たちの宴」を東京都・町田市で聴くことができた。
そして、森友さんと直にお会いすることができた。それどころかインタヴューまですることができたのは、望外の喜びだった。わくわくするような展開だった。
いったい、森友さんは何を語ってくださるのだろうか。いや、私自身が、彼からどんな話を引き出すことができるのだろうか。
私は、クラシックのアーティストには、2,000人以上お会いしてきた。しかしロックの世界のアーティストとは初めてだ。
私は、いまだにインタヴューする前は怖い。アーティストは私の質問を気に入ってくださるだろうか。あきれ果てて席を立ってしまうのではないか。その恐怖と闘いつつ、いつもアーティストの立場になって聞こうと思った。
30年やってきたクラシックの世界でもそうなのに、今回はまるで勝手の分からないロックの世界のアーティストだ。
だが森友さんは、とても優しかった。私の拙い質問全部に、一つひとつ丁寧に答えてくださった。クラシックの世界でも感じたことだが、突き抜けた人に共通するのは、優しさであり、相手へのリスペクトである。
「男たちの宴」で、森友さんは、ピアニストとチェリストとのトリオの世界を追求している。T-BOLANの演奏形態とはまるで違う世界である。
いったい森友さんは、どのような経緯で、このようなクラシックの世界と近づいていったのだろうか。もしかすると、これは森友さん自身における“ヒューマン・クロスオーヴァー”なのではないだろうか。
私は訊きたいことは全部訊いた。10月30日から数回にわたってWebアッコルドで掲載する『森友嵐士の語り』において、私なりの切り口で森友さんの魅力をお伝えしたい。
アッコルド編集長 青木日出男
森友嵐士 ロングインタヴュー掲載の経緯
1990年代、「離したくはない」「マリア」などの数々のヒット曲を生み出したT−BOLANのヴォーカリスト、森友嵐士さんが、十数年ぶり、2009年から演奏活動を再開した。
再開後は、T−BOLANの演奏形態だけでなく、まったく新しい世界であるピアノとチェロとのトリオにも力を入れている。
