ミュンヘン国際音楽コンクール

Internationalen Musikwettbewerbs der ARD München

ミュンヘン便り(その1)

ピアノトリオ1次予選結果速報  音楽ジャーナリスト 渡辺和

世界の音楽コンクール数ある中で、日本では「ミュンヘン・コンクール」は飛び抜けて有名な大会のひとつだ。理由ははっきりしていて、現在の日本楽壇で長老として活躍する堤剛、今井信子、東京クヮルテットなど戦後第2世代が若き日に盛んに挑戦し、各ジャンルので最高位という結果を残した輝かしい歴史があるからである。興味深いのは、それらの名前が殆ど「最高位の1位なし2位」だったこと。その結果、日本に報道される際に「めったに優勝者を出さない超難関」という形容詞句を付けられることになり、なんとも言えない権威と神秘性を与えることになった次第。
 
実際、今世紀に入り改革が行なわれるまで、ミュンヘンARD音楽コンクールは実際に優勝者が出にくい仕組みになっていた。ぶっちゃけ、1次予選から全て機械的な点数制で、一定の点数に達しない場合はその瞬間にオシマイ。1次予選から奏者が弾き終わって聴衆が会場からロビーに出てくると、もうそこには「2次予選へ」などというシールが貼ってあったり、いなかったり、という状況もあったのである。最終結果は「1位なし2位」どころか、「1位なし2位、3,4位がなく次は5位」などという珍妙な結果が出ることもあった。伝説の東京クヮルテットの優勝のときには、逆に本選を待つまでもなく優勝に必要な点数が積み上がってしまい、審査員団から本選は必要なしという声も挙がったという伝説がある。
 
元ケルビーニ弦楽四重奏団ヴァイオリン奏者でミュンヘン音楽院の教授を務めるクリストファー・ポッペンが今世紀にコンクール監督に就任するや、制度を改革。以降、基本的に毎回審査員団の協議でどのように結果を出すか決めることになったという。今世紀になって「ミュンヘン・コンクールで数十年ぶりの優勝!」などという報道が盛んにされるようになったのは、コンクールのシステムが変わったから。ま、コンクールとはそんなものなのだ、といえばそれまで。
 
話が前後してしまった。ミュンヘンARDコンクールは、バイエルン放送が毎年9月の始めに開催する総合音楽コンクールである。「コンクールのデパート」とも呼ばれるこの大会、ヴァイオリンからオルガン、打楽器、木管五重奏に至るまで総計2ダース弱の科目を並べ、毎年4科目が開催される。それぞれの科目は3年から4年、場合によっては5、6年に一度の開催となるわけだ。2013年はヴァイオリン、ヴィオラ、ファゴット、それにピアノ三重奏が課題とされた。ピアノ三重奏は6年ぶりとなる。
 
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室内楽に興味の中心がある筆者は、今回のミュンヘン訪問の目的はピアノ三重奏である。23団体を集めて、5日から1次予選が始まった。ピアノ三重奏を科目に挙げる世界の主要大会は殆どなく、室内楽専門大会のメルボルンが4年毎、大阪が基本的に3年毎(木管五重奏などになることもあるので、毎回ではない)。欧州から見れば遠隔地で開催される両大会は招聘団体が1ダース弱なので、このミュンヘン大会は文字通り「世界最大のピアノ三重奏のコンクール」なのである。
 
バンフから一度太平洋を越えて東京に戻り、今度はシベリアを跨いで南ドイツに至ったため、筆者は到着が5日の夕方。もう初日の6団体のセッションには間に合わなかった。昨日、本日と、会場となるミュンヘン音楽院の大ホールで朝の11時から夜9時頃まで、2日間で総計17団体の若いピアノ三重奏を聴き、今、1次予選の結果を知ったところである。結論から言えば、前回のヴァイオリン部門第2位で当地では聴衆にもすっかり人気者の白井圭が坐る多国籍チームのシュテファン・ツヴァイク・トリオも、サントリーホール室内楽アカデミーで鍛えられた日本人3人組のアルク・トリオも、無事に2次予選に駒を進めた10団体に入った。演奏の詳細などは、次回以降にお伝えしよう。
 
1次予選には、友人のトリオのチェロが事情で急に抜けたため、1ヶ月前に代打で急遽駆けつけることになった「アッコルド」でもお馴染みの新倉瞳さんも参加していた。残念ながら、これだけの激戦では流石に地力があるメンバーでも仕上げの時間が足りなかったか、2次へと進めなかった。とはいえ、このような環境で演奏することは、必ずや良い経験となることであろう。
 
夜も更けた。本日はともかく、「コンクール、始まりました」というトリオの速報のみ。なお、ヴァイオリンでは和久井映見さん、ヴィオラではHiyoli Togawaさんが2次予選に進出を決めている。ちなみに一足早く開催しているファゴットでは、小山莉絵さんがセミファイナルまで進んでいる。各科目の結果は、バイエルン放送公式ページをご覧あれ。各科目名をクリックすると、現在の経過が表示される。通過者は×で示されるのでご注意を。


http://www.br.de/radio/br-klassik/ard-musikwettbewerb/kandidaten/teilnehmer-2013-102.html

ミュンヘン観光の中心、マリーエン広場のポスター塔にも、「ミュンヘンARDコンクール」の告知が大きく成されている。

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前回のヴァイオリン部門で2位となった白井圭は、当地の熱心なファンには有名人。音楽院で歩いていると、あちこちから声がかかる。

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熱戦が繰り広げられる音楽院大ホール。メナハム・プレスラーやアントニオ・メネセスなどの審査員は2階に隔離される。

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音楽院は練習室になっているので、参加者も頻繁に顔を見せる。これから練習に向かうアルク・トリオ。ちょっとお疲れの顔かな。

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23団体が弾き終え、音楽院前で結果の発表待つ。セレモニーは特になく、演奏順リストに「通過」という印が貼られるだけの素っ気なさだ。

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ヴァイオリンとヴィオラは中央駅近くのバイエルン放送のスタジオ、ピアノは旧市街の南のガスタイク、トリオはギリシャ博物館隣の音楽院で予選が開催される。同時に進行するため、熱心な聴衆は自転車で数百メートル離れた会場を移動している。

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音楽院ロビーには各科目の途中経過が貼られる。ヴィオラは既に2次予選進出者にチェックがされている。

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