尾池のブルーマンデー憂さ晴らし

ヴァイオリニスト 尾池亜美

第68回 立派、かつカジュアルな「パトロン」的システム

こんにちは!憂さ晴らしのお時間です。
ふらりふらりと流れるままにロンドンへ来てしまいました。
こちらは地下鉄のはじっこの駅、リッチモンド。世界の時間の基準であるロンドンですが、巨大な街とはいえ30分も電車に乗れば美しい自然であふれる地です。
 
先日興味深いコンサートを聞いてきました。ある若手演奏家が、ある年配の方のお家でコンサートをするというシンプルなものですが、しかしそこには立派、かつカジュアルな「パトロン」的システムがあるコンサートでした。
 
というのも、この若手のオーボイストはサウスバンク・シンフォニアというオーケストラに所属していて、今回のコンサートもその団体がきっかけを作ったわけです。
 
Southbank Sinfonia(twitter: https://twitter.com/southbanksinf )というこのオケは、1年毎にメンバーが総入替えする20-30代の演奏家で構成されたオーケストラ。毎年夏にオーディションを行って、1月から10月までの間に密度の濃い演奏活動を行います。
 
音大卒業生に職が無いのはイギリスでも同じみたいで、特にひとりでは積むことの出来ない種類の経験を、このオケでは提供していて、とても興味深く、羨ましく思いました。団員はこの1年で、交響曲や協奏曲から、オペラ、室内楽、ソロ(時々団員からソリストが選出されます)など、演奏家、とくにオケ奏者として必要な全ての経験を積んでいるように思います。
 
合唱指揮などで素晴らしいキャリアを築いたサイモン・オーヴァー氏が、音大を出た後の演奏家のキャリアのために作り上げた団体です。彼と運営の人々は、各地でオケの演奏する機会を作っていっただけでなく、オケ自体や各団員をサポートする「パトロン」のシステムも、とても上手に作っているのに感心しました。
 
まずオケをサポートする方法の多彩さ。全部で10通りくらいの方法があります。いちばんざっくりと、しかし大きくサポートを贈る形は「寄付」。それから、特定のコンサートに対してスポンサーとなったり、特定の団員に対してパトロンとなったり(規模は人それぞれ)、もしくは「月額」で寄付を行ったり。一番手軽なサポートはもちろん「コンサートを聞きに行く」ことです。
 
活動の基盤は、ロンドンの中心にある教会。そこでは月に数回、夕方のラッシュアワーを避けて音楽を聞いて帰ろうという無料のコンサートを催しています。しかも、一杯のワイン付き。室内楽からオケまで多彩なプログラムが無料で聞ける。そしてそれをサポートしたいひとがしている。なんだか素敵な循環です。
写真のとおり、このオケは沢山の国籍の人が集まっていて、東京にもこんなオケがあったら、たとえばアジア中の演奏家が集まってこういうことが出来たらほんとうに素敵なのではないかと思います。その時の公用語は...やはり英語かな。本当にそんな団体が出来たら、もしかして物凄い競争率になるんじゃないでしょうか。
 
ただこうした企画をスタートするのは、若い演奏家だけではなかなか難しいものです。コンサートを計画するのは私でも出来ても、それをサポートしてくれる人たちのネットワーク作り、システム作りは私には到底出来ることではありません。様々な場所で経験を積んだ人々が、皆で音楽を大事に育てていくことで生まれたサウスバンク・シンフォニア。いつかアジアにも、こんな団体が生まれたらいいな、生まれるんじゃないかなと密かに期待しています。
 
今日はこの辺で。皆さんよい一週間を!
 

© 2014 by アッコルド出版