インタヴュー

ヴァイオリニスト 渡辺 玲子・インタヴュー〈2〉

サントリーホール主催
チェンバー・ミュージック・ガーデンに出演

基準は、その演奏で「説得されるか」



── 3月には室内楽アカデミーで指導されましたが、フェロー(受講生)の演奏はいかがでしたか?



「皆さん頑張っています。お互いよく話し合って、しっかりと考えています。
けれども、その話し合っていることが言葉だけではなく、音に出ているか?というと、まだ出し切れていないように感じます。


この作品のイメージは?と訊ねると、直ぐにいくつかの答えが返ってきて、いろいろと考えているのは伝わってくるのですが、その言葉が無くても、演奏からこちらに伝わってくるように。そういったところまでやってもらいたいと思っています。」



── 普段、レッスンではどういったところに注目してアドバイスなさるのですか? 



「勿論、演奏家の立場で聴いてアドバイスするのですが、まずは一聴衆として聴くんです。そして、その演奏で説得されるか、されないか、という基準で聴きます。


作品の解釈は様々で良いと思うのです。しかし、全体を通して聴いたときに納得がいかないところ。そういったところがあると説得力に欠ける演奏になります。例えば、『何故、そのテンポにしたのか?』理解できないところは、どうしてそうしたのかを訊ねます。


受講生たちを見ていると、癖で演奏するということが多いように感じるんです。
例えば、ここの音にヴィブラートをかけたい、というのではなく、ここの音を弾いたときにヴィブラートがかかってしまうから、かける。


無意識で、自分の肉体の勝手な動きで演奏していては、説得力のある演奏にはなりません。そこを意識して、出したい音と体とを連動させる、ということがもうちょっとスムーズに出来てくれば、表現の幅が広がるのではないかな、と思います。」



── 厳しいですね(笑)。



「褒めることも大事なのでしょうけれどね(笑)。受講生の皆さんは、高い要求レベルを持って聴き、今は厳しく『私は納得できない』ということをはっきりと伝えた方が良い時期にいると思うのです。それに、それができるようになったら、いろんな人が褒めてくれますから。ですから今は、もっと成長したいという気持ちがあるのなら、厳しい意見に心を開くことも大事です。



これは今だから言えるのですが、10代の頃、たくさんの先生方から厳しい意見をいただいてもなかなか理解できなかったんです。何故、そんな厳しいことを言うのかな?と思うこともありました。でも、ずっと頭の片隅にあって、今になるとそれが理解できるんですね。


ですから、私自身もそういったことを経験してきたからこそ思うのですが、今は分からなくても、将来のためにも、厳しい意見にも心を開いて自分のことを過信しないでやってもらいたい。自分の力を信じて、でも過信しない。


故・アイザック・スターンが宮崎音楽祭にいらしたときにおっしゃったことなのですが、『演奏会に来てくださったお客様がすごく褒めてくれると思うけれど、それを信じるな』と。確かにそう思うんです。



演奏会を終えて、やはり不安だから、誰かに『良かったよ』と言っていただくと信じたくなる。勿論、ある程度は信じて良いと思うのですが、でも、『ここはうまくできなかったな』と感じたところは、やはりうまくできていない。お世辞で喜んで、そういったところを曖昧にしてしまうのは良くない。褒められたことで、ああこれで良いんだ、と誤解してしまうのはおそろしいことだな、と思うんです。かといって、褒め言葉を全部拒否して、いじけるのも良くないですし(笑)、バランスですね。



実はその音楽祭で、スターン先生がモーツァルトのコンチェルトをお弾きになった後、『素晴らしかったです』と先生に伝えたんです。そしたら、どこが良かった?と、詰め寄られて、一所懸命に説明したことがあるんです。最後に、それなら納得、とおっしゃって(笑)。ただ、良かった、というのでは通用しないんですよね。」



「仕組み」を理解して、コントロールする



── ご自身は、ソリストとして、これまで世界中で演奏されてきましたが、時には精神的に弾くことがつらい、ということもありましたか?



「ありますよ。ショックなことがあったら、別のショックを与えて、そちらに気がいくようにする。そのようにして、弾けなくなるくらいのショックなことに気持ちがいかない状態を無理矢理つくります。



これはまた少し違う話になりますが、どうしても右手が上手くいかないところがある学生に、その部分を弾いているときに、左手のヴィブラートに集中して弾いてみて、と別のところに意識を向けさせるんです。すると不思議とうまくできることがあるんです。変に意識が集中しすぎるからできなくなってしまう。


ですから、何かをやるときって、技術だけではなくて、精神的な部分がすごく大きい。肉体的な部分を司るのはやはり精神だから。そこをどうやってコンロールするか。それはとても重要なことです。」

 

ジュリアード時代からの大切な作品



── 今回、チェンバーミュージック・ガーデンでは、モーツァルトの『ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲』を演奏されます。



「すごく演奏したかった作品なんです。ジュリアードで師事した故・フックス先生は、この作品をリリアン・フックスとよく演奏していて、当時、先生のところにレッスンに行くと、何かにつけてこの作品の2楽章を持ってきて、教えてくださったのです。


私にとって、とても大切な作品です。でも実はまだ本番で弾いたことがないんです。」



── それは驚きです。



「でいろんなところで弾きたいと要望していたのですが、何故か機会が無くて。 ですから、今回はエキサイトしています。」



── フックス先生の言葉で印象に残っていることはありますか?



「言葉というよりも、弾いている姿などを思い出します。


先日、フックス先生とリリアンとの演奏をCDで久しぶりに聴いたのですが、やはり良い演奏だな、と思いました。フックス先生はパーソナリティが独特な方だったのですが、あの演奏を聴くと非常に高貴な人だったんだな、と。演奏は人也かな?なんて思いながら聴いていたんです(笑)。特にリリアンとしっとりと演奏する2楽章は泣けます。」



── 共演者は川本嘉子さんですね



「川本さんは同級生なんです。これまで、室内楽などを何度か演奏しています。今回、モーツァルトは指揮者なしなので、どのような音楽づくりができるか、非常に楽しみです。


また、ブラームスのピアノ四重奏曲はチェリストとピアニストとが室内楽アカデミーのフェローなので、どのようなアンサンブルになるか、そちらも楽しみですね。


どちらの作品も、私自身、力が入っていますので、皆さんもそういった気持ちで来ていただけたら嬉しいです」



取材/向後由美

チェンバー・ミュージック・ガーデン
 

サントリーホール室内楽アカデミー

ゲストコンサート #2



6月14日(金) 19:00 開演(18:20開場)
会場:サントリーホール ブルーローズ
曲目:ブラームス/ピアノ四重奏曲第1番 ト短調 op.25、モーツァルト/ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲 変ホ長調 K364
出演:渡辺玲子(Vn)、川本嘉子(Va)、サントリーホール室内楽アカデミー選抜アンサンブル、サントリーホール室内楽アカデミー選抜フェロー
料金:指定3,000円 指定ペア5,000円 サイドビュー2,000円 学生1,000円
*学生、ペア、セットはサントリーホールチケットセンター(電話・WEB・窓口)のみ取り扱い。
*学生席は25歳以下、来場時に学生証提示要。
詳細・申込み:

http://www.suntory.co.jp/suntoryhall/schedule/detail/20130614_S_3.html
問合せ:サントリーホール 0570-55-0017

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