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インタヴュー

ニューヨークを拠点に世界的に活躍するヴァイオリニスト、渡辺玲子さんが、サントリーホールで開催されるチェンバー・ミュージック・ガーデンに出演。(車いす利用者のための室内楽演奏会、サントリーホール室内楽アカデミーゲストコンサート #2 ) コンサートへの思いを、ご自身の近況とともにうかがった。

わたなべ・れいこ
超絶的なテクニック、玲瓏で知的な音楽性、切れ味鋭い官能性と幅広いレパートリーで、世界のヴァイオリン界をリードする逸材。1984年ヴィオッティ、86年パガニーニ両国際コンクールで最高位を受賞。これまでにワシントン・ナショナル響、ロザンゼルス・フィル、セントルイス響、ヴァンクーヴァー響、フィルハーモニア管、BBC響、ウィーン・トーンキュンストラー管、ロシア・ナショナル管、バンベルク響、NHK響、香港フィルなどと共演。中でもシノーポリ指揮ドレスデン・シュターツカペレ、サンクトペテルブルク響との共演はCDもリリースされ、大好評を博した。秋田の国際教養大学特任教授(秋学期)。2005年第35回エクソン・モービル音楽賞奨励賞受賞。ニューヨーク在住。日本音楽財団より貸与されたストラディヴァリウス 1725年製ヴァイオリン「ウィルヘルミ」を貸与されている。

http://www.reikowatanabe.com/

できるだけたくさんの方に

生の音を聴いてほしい

── 今回車いす利用者のためのコンサートなどにも出演されますが、このようなアウトリーチ活動は、普段から積極的になさっているのですか?



「私は毎年秋に秋田の国際教養大学で一般の学生に音楽に関する講義を行っていますので、その時期に秋田の高校生を対象にしたレクチャーコンサートも行っています。今年も11月に予定されています。その他、これまでに名古屋や松山などの小中学校を訪ねて演奏するようなプロジェクトにも参加しています。今年は先程の秋田以外にも、北九州や石川県などでもレクチャーコンサートが予定されています。」


── やはり、通常のコンサートとは客席の反応は異なりますか?


「トークなどの部分では通常のコンサートのアプローチと異なりますが、演奏するということに関しては、私の方の意識は通常のコンサートと変わりません。ただ、若い人の反応は素直ですね。」


── どのようなところに気を付けてプログラミングされるのですか?


「作曲家や曲想などがバラエティに富んだプログラムを心がけています。ただ、その中に、一貫性のあるテーマを持たせるようにも務めています。」



── トークの内容は?



「実は毎回悩むところです。例えば、2年前のレクチャーコンサートの時には、モーツァルトやベートーヴェンのソナタを取り上げ、最初にヴァイオリンが奏でるテーマが、再現部にきて今度はピアノが同じテーマを奏でたときに、作曲家がどこに工夫をこらし変化を付けているかというようなことも、少し詳しく解説しました。」



── どこに耳を傾けるとより楽しめるか、ということを示す?


「そうですね。この作品のどの部分に素晴らしい要素が隠されているか、そこに作曲家がどのような工夫を凝らしたのか、ということを伝えるように努めています。何となく聴くのではなく、そういった音楽の構造や本質にかかわる部分での楽しみ方を知っていただきたいと思っています。


今回のサントリーホールで行なう『車いす利用者のための室内楽演奏会』では、言葉で説明するよりも、なるべく音楽を集中して聴いていただくように考えてプログラムを構成しました。従って、トークの時間はそんなに多く取りません。しかし、特殊な奏法、例えばフラジオレットやミュートを付けたときの音などについては、ある程度具体的に触れるつもりです。というのも、私の演奏会に来てくださった方が、終演後、あの部分はどうやって音をだしていたんでしょうね?と話していたというようなことを聞くこともあるのです。演奏している方では当たり前と思っていても、聴いている方には不思議に思うこともあると思うので、少しでも興味を持って聴くことができるように工夫したいと思います。


今回のようなコンセプトのコンサートは、周りも同じような境遇の方ですから、おそらく、普段のコンサートよりも楽な気持ちで会場にいらして頂けるのではないかと思います。


生の音は、CDなどで聴くのとは違った響き、音から伝わってくる振動がありますし、奏者の呼吸も聞こえるでしょう。それらに良い思い出、良い感覚を得て、帰路についていただけたら、と思います。」



── ご自身は国際教養大学で一般の学生たちに『音楽の素晴らしさを伝える』講義をされていますが、そこで培われたノウハウが、アウトリーチに活かされるということも?



「それは大いにあります。ずっと音楽を専門にやってきましたから、音楽を聴く上で、私自身が『常識』と思っていることが、学生たちにとってはそうではないことも多々あります。そこで得たことは、アウトリーチ・コンサートをする際、大変参考になっています。



国際教養大学で教鞭を執るようになって、今秋で10年になるのですが、そこで教えることによって自分自身が学んできたことを、こういった形で生かせるのは大変嬉しいことです。」



国際教養大学で
教えることを通して得たこと



── 故・中嶋嶺雄学長(政治学者。幼少よりスズキ・メソード創始者の鈴木鎮一にヴァイオリンを師事し国際教養大学の学長を務める傍ら、社団法人才能教育研究会の会長を務めていた。今年2月死去)は国際教養大学のカリキュラムに、音楽を積極的に取り入れていました。



「音楽を専門にやってきた学生ではありませんので、できることは限られてきますが、意味のある取り組みだと思います。



故・中嶋学長は、ご自身がヴァイオリンを弾くのがお好きで、海外に行ったときに、ヴァイオリンが弾ける、ということが交流の上で大変役に立ったという経験をお持ちでした。



また、音楽は人格形成においても、教養においても、非常に重要なんだという信念をお持ちでしたから、積極的に取り入れていたのです。


私が直接かかわっていないヴァイオリンのアンサンブルのクラスもありますが、学生たちを見ていると、とても楽しんでやっているように見受けられます。楽器のケースを肩にかけて歩くのも、誇らしげというか、一種のステイタスのようで、嬉しいらしいです。」 



── 具体的な方法論が確立されていないだけに、弾くことを教えるよりも、音楽の楽しさ、深さを教えることの方が難しそうなイメージがあります。



「難しさはそれぞれにあると思うのですが、子どもの頃から弾いている私にとっては後者の方が難しかったです。


自分がやってきたヴァイオリンの作品だけではなく、音楽を全体的にとらえて言葉で説明しなければなりませんので、それ以前にやってきたこと以外に勉強しなければならないことがものすごく多かったですね。徹夜して本を読み、資料を作って・・・、という作業が何年間か続きました。」 



── 具体的には、毎回題材になる曲を選んで解説を?



「そうです。取り上げる作品は、私自身がその年にフォーカスしている作品だったり、様々ですが、やはりヴィヴァルディの四季と、バッハの組曲とフーガ、ベートーヴェンの交響曲やピアノそなた、そしてシューベルトの歌曲は必ず取り上げています。」



── 学生さんたちの反応はいかがですか? 



「皆さん音楽が好きで、一般的によく知られているクラシックの名曲を聴く、という学生も多いです。例えば、パッフェルベルのカノンが好きでよく聴く、といったように。


でも、クラシック音楽は、楽しいとか、好きだとか、そういった気持ちだけで聴いていると、最初に興味を持ったその作品だけで終わってしまう場合が多いと思うのです。ですから、作曲家がいかにその作品に工夫を凝らしているかを丁寧に説明します。


それから、必ず今活躍している邦人作曲家にレクチャーに来ていただいているんです。事前にCDで聴いてもらうと、拒否反応を起こす学生が多いのです。やはり、現代曲は聴きやすい和声ではなかったりしますからね。


でも、実際にお会いして、作曲者がどういった人なのかということに触れ、どういった意識で作っているかというのを知ると、また関わり方が変わってきます。良い経験になっていると思います。」



〈2〉へ続く。

取材/向後由美

ヴァイオリニスト 渡辺 玲子・インタヴュー〈1〉

サントリーホール主催

チェンバー・ミュージック・ガーデンに出演

チェンバー・ミュージック・ガーデン
 

サントリーホール室内楽アカデミー

ゲストコンサート #2



6月14日(金) 19:00 開演(18:20開場)
会場:サントリーホール ブルーローズ
曲目:ブラームス/ピアノ四重奏曲第1番 ト短調 op.25、モーツァルト/ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲 変ホ長調 K364
出演:渡辺玲子(Vn)、川本嘉子(Va)、サントリーホール室内楽アカデミー選抜アンサンブル、サントリーホール室内楽アカデミー選抜フェロー
料金:指定3,000円 指定ペア5,000円 サイドビュー2,000円 学生1,000円
*学生、ペア、セットはサントリーホールチケットセンター(電話・WEB・窓口)のみ取り扱い。
*学生席は25歳以下、来場時に学生証提示要。
詳細・申込み:

http://www.suntory.co.jp/suntoryhall/schedule/detail/20130614_S_3.html
問合せ:サントリーホール 0570-55-0017

© 2014 by アッコルド出版

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