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インタヴュー

◎中西俊博(Toshihiro Nakanishi)

1956年 東京都生まれ。東京芸術大学卒業。
1985年にリリースしたファーストデビューアルバム「不思議な国のバイオリン弾き」が10万枚を超す大ヒットを記録。
以降、クラシック、ジャズ、ポップスなど多様なジャンルを表現するヴァイオリン奏者として音楽界の第一線で活躍。

 

ジャズヴァイオリンの巨匠ステファン・グラッペリとの共演、フランク・シナトラ、ライザ・ミネリ、サミー・デービスJr、クインシー・ジョーンズ、のコンサートでソリストやコンサートマスターを務める等、国内外の様々なアーティストとの共演も多い。
NHK「バイオリンは友だち」(1998)では ヴァイオリニスト千住真理子と共に講師をつとめた。

 

また、楽曲制作、編曲も多く手がけ、桑田佳祐、井上陽水、坂本龍一などのアルバム制作をはじめ、数多くのアーティストの楽曲制作、編曲を担当。
映像の世界での活躍も著しく、手がけたテレビ番組やCM音楽は150曲を超え、ヨーロッパで権威ある「LONDON国際広告賞2000」にて、TVオリジナルミュージック部門のファイナリストを受賞するなど国際的に高く評価されている。

 

さらに、舞台音楽にも才能を発揮し、「ア・ラ・カルト」(青山円形劇場/1989~)、東京国際芸術祭2004音楽劇「ファウスト」(世田谷パブリックシアター/2004)等、数多くの舞台の音楽監督を担当。
自身のコンサートも数多く開催しており、1998年より毎年青山円形劇場にて公演を行なっている「Leapingbow」はオリジナリティと高いクオリティが評価され、毎年人気を博している。

 

現在は、大きなプロジェクトと平行しながら、リーダーを務める「Reel's Trip」「Cool Groovin'」「爆裂クインテット」など、自己のバンドの活動を精力的に行なうと共に、ライブ活動も積極的に展開。
バイオリンの枠を超えた表現を追求し続けており、エレキバイオリンや多弦バイオリン、エフェクターなども使いこなし自ら楽器の制作を行なっている。
また、電気工具、レンガ、ボイスなども積極的にアンサンブルに取り入れ、全く即興のみの演奏も行なっている。

 

2012年7月にFLMEより、中西俊博ベストアルバム「ゴールデン☆ベストNo.1,No.2」をリリース。

オフィシャルサイト

http://couleur.bz/
 

フェイスブック  

http://www.facebook.com/toshihiro.nakanishi.10
 

ツイッター

https://twitter.com/nakanishi_vl

 

 



 

ヴァイオリニスト中西俊博さんの『グルーヴ論』

クラシック・ジャズ、ポップスなど、多様なジャンルを表現するヴァイオリニストの中西俊博さんに『グルーヴ』についてうかがった。

そもそも『グルーヴ』とは何か?​​
 

日本語にするのは難しいが、あえて無理して訳せば、ノリ、ということになるだろうか。訳しにくいところからして、そもそも日本にはない概念なのかもしれない。だが、ほんとうにそうだろうか。日本の民謡には、そもそもグルーヴ感があると思うし、例えば、津軽じょんがら節からは、血が騒ぐようなグルーヴを感じる。

グルーヴということを意識した事がない人も多いに違いない。だが、無意識のうちにグルーヴを持っている人も多い。

このグルーヴの定義についても、中西さんに解説していただいた。

グルーヴを教える人はほとんどいない

――アッコルドでは、音律とか、音階、モード……といったテーマを設けていますが、そのテーマの中の一つとして、これから(クラシックの)『グルーヴ』(あえて訳すとノリ?)も加えて行きたいと思っています。​

私は、クラシック音楽にも、ロックやジャズ等で言われるようなグルーヴというものがあると思うのですが、クラシックの世界で、グルーヴという言葉はほとんど聞かれません。​​

​中西「グルーヴは、もの凄く大事です。クラシックでもね。クラシックの世界の凄い人の演奏からはグルーヴを感じます。ただ、日本のヴァイオリンの先生で、グルーヴを教える人がほとんどいないので、演奏家は自分でそれを捉えるしかないですね。



グルーヴがないと、いい音楽にならない、好きなテイストにならない、ということに気がついて、自分で色々研究してグルーヴをつかむ人はいるけれども、先生からただ習うだけの人は グルーヴというものに気がつかないまま先へ行ってしまう。にもかかわらず技術はどんどん上手くなるわけですが、すごく上手くなってからグルーヴを掴むのは、逆に大変なんです。

何故なら、楽譜に書かれている音符に対して、感情は込めるけれども、グルーヴを注入しない状態で音にする、ということを長年やってしまって、それに慣れてしまっているから。

僕のレッスンでは、グルーヴが感じられない演奏をする生徒には 楽器を持たせないで、まず踊らせたり、ステップを踏ませたり、歌わせたりします。海外のコンクールに入った人でもそういうことをさせます。それをさんざんやったあとで楽器を持たせます。そして、開放弦の刻みからやらせていきます。相当根性いるけれど。

グルーヴの無い人というのは、思ったところに手が届かないみたいな、でも一応辻褄は合っているみたいな、そういうふうに音楽的に片寄った演奏で組み上がってきたわけですね。

クラシックのヴァイオリンの曲は、ヴァイオリンの魅力が、最大限活きるように、もともとアレンジされている。グルーヴが多少悪かったとしても『ここ、リズムが良くないからしっかりやりましょう』『遅れてしまうので、遅れないようにしましょう』というような対処療法をしていけば、ある程度のものができて、メロディーや編曲の素晴らしさで、それはそれで聴けてしまう。

ポップスの世界では、ヴァイオリンのための曲があるわけではなくて、歌の曲や、オリジナルを、ヴァイオリンで弾くことが多く、そうするとシンプルなメロディーを演奏することが多いんです。クラシックでどんなに早弾きができても、シンプルなメロディーで魅力的な演奏ができないというのは、メロディーに合ったニュアンスで弾けていないのだと思います。そのニュアンスの中の一つがグルーヴです。

これは、間違えているとか合っているという次元の話ではなくて、「それであなた気持ちいいと思っているの? もっと気持ちいいフレーズの弾き方あるんじゃないの?」という話なんですよ。



気持ちいい音楽の中には、勿論、ピッチが合っていた方がいいとか、音色が綺麗な方がいいとか、いろいろある中に、リズム、グルーヴもいい方がいいよね、というのが絶対あります。

例えばグルーヴが良くて、でも音は綺麗過ぎないほうがいい、なんていう音楽もあると思うんです。しわがれ声だけど、ノリがいい歌とかね。

優先順位というのは、いろいろなパターンがあると思うけれど、グルーヴはいつも下の方にしてしまって、ピッチ正確、ヴィブラートがちゃんとかかる、綺麗な音、間違えない、その辺ばっかりに気が行ってしまっている。これは、クラシックをみっちり習ってきた人に多いと思う。」

――グルーヴというのは、特に意識しないで持っている人もいると思うのですが、音色、音程、リズムといった基本要素にグルーヴを加えることがあたりまえになればと思います。

​中西「難しいことだけど、それは本当に実現したいことですよね。」





頭の構造から変えないと

――ところで、グルーヴというのは、メソードで学ぶもの? 自ら掴むもの? それとも感性のものなのでしょうか?

​中西「まずとにかく、頭の中の意識、構造から変えないとだめですよ。 生徒のほとんどが、リズムで悩むので、意識から全部やり直して行くんです。 リズム感は必要だけど、リズムがいいだけでもいい音楽は作れないです。 リズムが正確だね、上手に弾けてるね、こんな音楽つまらないでしょう。



その時の感覚を解放して自由に弾きたい! もしそう思うなら、弾いている瞬間に、じゃあどんな音色で、どんな早さでどんな幅のヴィブラートを、どんなアクセントをどこに付けて、どんなグルーヴで、どんな音量で、と、あらゆるテクニックをつかって表現したくなるはず。

その時に自由にテクニックを使えないで、テクニックが足かせを填めてる様な感じになっていたらどんなに窮屈か。 自由な感覚で弾くためにまずやるべき事は、練習して弾ける様になる、ではなく、その瞬間に浮かんだ感覚で弾ける様に、テクニックをもう一度整理し直して行く、これが必要なんです。そして、この中にグルーヴも入っているんです。

難曲を弾くためのテクニックを、活きた音楽のためのテクニックとして整理し直すんです。 例えばヴィブラートに関して、クラシックでは速いヴィブラートをかける人が多いですが、ポップスの世界でそんなに速いヴィブラートをつける人はあまりいないでしょう。

サッチモ、シナトラ、ビョーク、ビリー・ジョエルとか……。エレキギターやトランペットもね。 でも、クラシックの世界でヴァイオリニストはみんな速い。クラシックでは速いのが文化になっているけれど、ヴィブラートを遅くしてみたいと思ったことは一度もないの? と僕は問いかけたい。 速いものだという固定観念があるのかもしれないけれど、本当のところ、あなたはどう思っているの? と問いたい。

貴方が今やっている音楽は、教えられたものをそのままやっているのか、やりたくてやっているのか、皆がそうしているからそう弾くのか、……そういうところを僕は突っついています。

最初からポップスをやりたいと思う人は、自分の中にしっかりとしたイメージがある人がほとんどです。こんなふうにやりたい、こんなふうに格好良くやりたい、と。

クラシックの人も、子どものうちはもしかしたらイメージがあったのかもしれない。でも、どんどんどんどん難しい曲をやらされているうちに、こんなイメージで弾きたい、という意識よりも、今これを間違えないでちゃんと弾きたい、という意識にすり替わって行ってしまうんですね。

最初は間違えないで欠点のない演奏をすることを要求されるし、その方が音大にも入りやすいわけだし。気をつけないと感動を与える演奏ができたという達成感ではなくて、難曲を弾く達成感の方に意識が行ってしまう。

弾くことに夢中になりすぎるんですよ。テクニック的に難しいものを弾いているから、今弾いていることに夢中になる。楽器を持っただけで頭の中がそうなってしまう。これはある種の病気くらいに僕は思うんです。」





グルーヴの三要素



――ところで、ひとことでグルーヴと言っても、イメージが掴めない人もいると思うのですが、具体的にグルーヴを定義するとしたら。

​中西「僕は、グルーヴって同時に三つの要素が必要だと思うんだけど、一つ目は、ずっと根底に流れて繋がっていくリズム、グルーヴ(ノリ)というものがあります。

二つ目は、それに乗っかって自分が自由に弾く、たとえばグルーヴよりちょっと早めに弾く、遅めに弾く、あるいは三連をたっぷり弾こうとか・・・。


三つ目は、他のミュージシャンが二拍三連のようなポリリズムをやったり、頭抜きのフレーズなど、難しいリズムを演奏した時に、『えっ? 分からなくなっちゃうよー!』ではなくて、それを聴きながらリズムをリンクして楽しむ、つまり人のリズムを聴いて楽しめること。



グルーヴにはその三つの要素があると僕は思う。

もう一度言うと、

一つはずーっと根底に流れている揺るがないグルーヴ。



二つめに、そのグルーヴに乗せてメロディを自由なタイミングで気持ちよく弾けること。


三つめは、自分のグルーヴを保ちながら、他のミュージシャンが出しているリズムも楽しめる事。

この三つの要素を同時に感じながら弾く様になるのには凄く時間がかかるけど、出来たらめっちゃ楽しい 。
これはある意味理想論ですが、僕もその楽しさを味わうための練習をしています。」



――クラシック教育に、このグルーヴというものがもっと認識されるといいな、といつも思うのですが。

中西「難しいですよね。本当にねぇ、弾くことに夢中になってしまうんです。難しいものがダーッと出てくるから力んだりする。でも本当はそうじゃなくて、頭の中は、他のミュージシャンの面白いフレーズを聴いて、「おっ、スゲエ!」と思ったり、「このシンセの音を聴いていると、深い水の中に入っていく感じがするなあ」なんて思いながら、それに反応して自分が弾く、ということもアンサンブルの醍醐味なんです。



でも頭の中が、自分のことだけになって人の演奏を聴けなくなったり、つまり弾くことに夢中になっている人が多い。



それから、グルーヴとメロディとは違っていていいと僕は絶対に思う。グルーヴがちゃんとあって、その上に自由に乗るメロディがあればいいんだけれど、メロディがグルーヴとユニゾンになってしまうから音楽が止まってしまう。」

 

それぞれのグルーヴの違いが新たなグルーヴを生む

――奏者によってグルーヴ感が違っていて、でもそれが新たなグルーヴを生む、という話を聞いたことがありますが、それと関係している話ですか?

中西「そうです。ただし、グルーヴ感をそれぞれの人が持っていて、しかも微妙に違うというのはオッケーなんだけれども、自分にグルーヴがなくて、ただ人に合わせている、これではいいアンサンブルにならないですよ。

それぞれの奏者がグルーヴを持っていて、それが違っていてずれて、例えばメロディやベース、それぞれがずれていても、ずれながらずーっと曲が進んでも気持ちがいい場合もある。それは有りなんだけれども、ちょっとずれた、あ、遅かった、早くしよう、というのではグルーヴを生まないんですよ。



それはグルーヴではなくて、単に人に合わせている、つまり自分の音楽ではなくて、人に合わせている音楽。そうすると聴いているお客さんにも、グルーヴは伝わらない。

例えば僕らがバンドをやっていて、メロディの人が走ったりしても、そこにエネルギーがあって、自分のグルーヴで弾いていたら、それはそれで音楽として気持ちいいと皆思うわけです。でも、ちょっと走った、あ、やばい、直そう、ということで修正されると、聴いているお客さんは、ウッ、ってなるし、他のミュージシャンが「同じ気持ちで行こう!」と思っても、次の瞬間修正されたら、おかしなことになってしまう。それはもの凄く気持ち悪い。

だから、みんなが自分のグルーヴがあって、そこに乗っかって、それが多少ずれていくのは、有りです。
 

ブラジルの音楽、サンバとか、ずれても全然気にならないものはたくさんある。ただ、自分の意志があってずれているのかどうか、その違いは大きい。

早過ぎたから遅くしたら、今度は遅すぎた、なんていうことは、よくあるけど、生徒達を見ていると、それを無意識のうちにやっていて、結局グルーヴがふらついている。

でも、本来そういうふうに速さやリズムをちゃんと合わせなくては、と思っていること自体が音楽的に変なことで、思った通りに気持よく弾けば、それが合っていた、というふうにするのがいいわけです。

でもクラシックの場合ありがちなのは、早いからもうちょっと遅くしましょうとか、ここはこうしましょうとか、対処療法ばかりやることが多くて、結局一生それを練習の時にしなくてはいけないわけで、それって、音楽的に開放されず楽しくないでしょう?

でも、そのやり方で長年やって、それなりに上手くなっていくと、それが潜在意識の中に浸透して、あんまり楽しくない、とは思わなくなってくるのかもしれない。

気が付かないうちに、いつもリズムを調節している音楽になる。調節するのが上手い人は、僕にとってはすごくレッスンしにくいんです。結構上手く合わせちゃうからね。ただ、その人が自分の意志で弾いて気持ちよく合っているのか、メトロノームに縛られながら結果的に合っているのか、その違いはもの凄く大きいと思う。

好きにやっても合うじゃん、ということを経験してもらうと、えっ、こんなに楽しいものなの?と思ってくるはずです。それを少しでも体験することから始まると思います。」





取材/青木

〈中西俊博 出演ライヴ〉



◎学芸大学 珈琲美学

日時:4月12日(金)

会場:学芸大学 珈琲美学 

   東京都目黒区鷹番2-19-20第2ベルウッドビルB1

   http://www11.ocn.ne.jp/~bigaku25/
出演:中西俊博(Vn)、林正樹(Pf)
開場:18:30〜  1st 19:30/2nd 21:00 

料金:ミュージックチャージ¥3,000+ご飲食代
お問合せ: 03-3710-1695

ご予約:お店に直接お電話。

   もしくは珈琲美学サイトの御予約フォームから。

◎大阪ロイヤルホース

日時:4月17日(水)

開場:17:00〜   1st 19:30/2nd 21:20

会場:ROYAL HORSE

   大阪市北区兎我野町15-13 ミユキビル1階

   http://www.royal-horse.jp/index.html

出演:中西俊博(Vn)、畑ひろし(Gt)

   荒玉哲郎(Bs)、東 敏之(Ds)

料金:SS=¥3,675 S=¥3,150 A=¥2,100

   B=¥1,575  barcounter=¥1,050円

お問合せ:06-6312-8958・9

ご予約:お店に直接お電話。もしくはロイヤルホース・サイトの予約フォームから。

◎神戸 MOKUBA 
日時:4月18日(木)

開場:18:30 (Start 19:30)

会場:MOKUBA’S TAVERN (モクバズ・ターバン)
   神戸市中央区北長狭通3-12-14
     ザ・ベガ・トアロード1F
   
http://www.mokuba-kobe.com/

出演:中西俊博(Vn)、畑ひろし(Gt)
料金:前売り=¥2,500 当日=¥3,000 

お問合せ:078-391-2505

ご予約:お店に直接お電話で。

 

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