インタビュー

 若手ヴァイオリニストのホープのひとり、コンチェルトを得意とされている滝千春さんが、舞曲を中心に、ピアニストの中野翔太さんと今週の土曜日、東京オペラシティ大ホールでコンサートを行なう。盛りだくさんのプログラミングの意図を聞いた。

 滝さんは、5月には東京ヴィヴァルディ合奏団で、ヴィヴァルディの『四季』、今後、ピアニストの金子三勇士さんのデュオも予定されています。


舞曲とロマンスをテーマにしたら

プログラミングし易かった

 「最初にプログラムを作り上げるときに、面白いプログラミングにしたいと思ったのですが、テーマとして副題があれば、作りやすいのでは、と思ったのですね。そこでまず、舞曲とロマンスに関する曲を集めてみようと思いました。最初にバレエ音楽の『ロメオとジュリエット』が浮かび、ブラームスのハンガリー舞曲、バルトークのルーマニア舞曲、ということで、踊りつながりで、ピアソラの『ル・グラン・タンゴ』。そういう集め方をしました。ミヨーの『屋根の上の牛』も後々バレエ音楽になった曲です。
 お客様がよく知っていて、私たちも楽しめるプログラムにしました。」

————斬新なプログラムですね。

 「いろいろな時代のいろいろな踊りを組み込んでいき、まず受け入れてもらうためにどうしたらいいか、というので、副題を付けました。そうしれば、たとえ曲をご存じなくても、どんなコンサートなのかが、分かってもらえると思いました。」

————いろいろな舞曲をどのように弾きわけるのですか?

 「感性をどれだけ全面に出すか、というのが重視されてくるのが、後半ですかね。特にミヨーとかガーシュインですね。具体的にどのように弾きわけるか、を説明するのは難しいですが、どのようなリズム感を出せば楽しくなるだろうか、とか、どういうバランスをとれば、綺麗に聞こえるだろうか……そういうことを特にミヨーなどでよく考えました。
 ミヨーの『屋根の上の牛』という曲は、中野さんから紹介されて、私は今回初めて弾く曲ですが、とても高度なテクニックを必要とする曲です。元々チャップリンの無声映画のために書かれた作品です。チャップリン的な感じと言われれば、確かにそんな感じのする曲ですね。かなりコミカルな感じがします。ヴァイオリンとピアノと、全く違う調性で演奏するところもあって、音楽的な規則をあえて破るようなところがあります。」

――プロコフィエフの大曲『ロメオとジュリエット』を。

 「単純にロメオとジュリエットを弾きたくなって、いくつか編曲されているのは知っていましたが、YouTubeで検索していたら、リディア・バイチさんの編曲を見つけました。七つの曲が入っていて、時間的にも全部で15分くらいです。リサイタルで弾くのにちょうどいいと思ったので、この編曲を選びました。この作品の中でも、よく知られている楽曲が選ばれていますので、親しみやすいですし、迫力もあるので、うまくまとめられているという印象があります。最初はジュリエットのテーマで始まります。ロマンティックな部分もあれば、勇壮な部分、「騎士たちの踊り」も中間部分にあります。場面の移り変わりも見事です。」

————最後は「決闘とティボルトの死」ですか。これは、凄く速いパッセージが出てきますね。

 「オリジナルもヴァイオリンですが、オーケストラの演奏を聴いていて、皆さん凄いなと思いました(笑)。最初なかなか弾きこなせなかったのですが、慣れてきたら大丈夫です。
 全体にたっぷりな雰囲気のプログラムですね。今回、トークも入れます。曲の解説、思い入れを二人で話していこうと思っています。」

意見をぶつけ合うことが音楽作り

————中野翔太さんとの出会いは?

 「2年前に、浜離宮朝日ホールでリサイタルを行なったとき、ピアニストをお願いするときに、希望として、同世代の方をお願いしたんです。というのは、リハーサルで大事なのはディスカッションで、お互いに意見をぶつけ合って、完成度を高めていく、という方法が大事だと思っているんです。それがスムーズにできるのは、やはり年齢が近くて、お互い遠慮せずに言える同世代がいいと思ったんです。そうしましたら、中野さんを紹介していただきました。
 中野さんは、とても真面目な方で、なんでも受け入れようとしてくださいますが、納得がいかない場合は、意見も言ってくださいます。本当にまっすぐな方ですので、とても有り難いです。私も気持をまっすぐに出そうと思いました。
 音楽的に共通の部分もあれば、違う部分もあります。それを楽曲の中でどう生かしていくのか、ということですね。プロコフィエフはバトルの部分もあれば、寄り添い合う部分もありますから、彼と演奏することができて良かったと思います。」


————東京オペラシティのコンサートホールの印象は?

 「すごく綺麗なホールだと思います。いつもオーケストラとの共演でしたので、ここでのリサイタルは初めてです。どのくらい自分の音がホール全体に届けることができるのかがゲネ・プロのときの課題にたぶんなると思います。ピアノとヴァイオリンだけになりますから、その規模で、ホールに自分たちの音楽をどのくらい浸透させていけるのか、というのは、オーケストラとの共演とはまた違ったものになると思います。」


————音程感は変えるのですか?

 「音程感は、変わらないです。ただ、響き方は変わることは意識します。反響してくる感じを自分が受け入れて、全体としてどのように組み上げていくのか、ということを考えます。」


————現在使用されている楽器は?

 「クレモナのカパです。1699年です。ヴァイオリン独特のかん高いという感じではなく、かなり深みのある音色です。私は、太くて艶のある音を目指していますし、深みのある音の方が好きなので選びました。」


————どちらかというとロシアン系の?

 

「まぁ、そうですね。私の前の先生(ザハール・ブロン氏)もロシア人ですから、いつも深みのある音を聴いて育ってきました。」



サシュコ・ガヴリーロフとの出会い

————ここ数年で、演奏で変わった部分とか変えた部分は?

 「常に変わっていると思いますが、昨年、環境を変えたことも大きな変化に繋がっていると思います。以前はスイスのチューリヒにいたのですが、去年の夏からベルリンに移りました。
 ある瞬間、自分の目の前に壁が見えてしまって、どうやっても先に進めないような瞬間を感じたことがあったのです。どうにかして、その壁を越えたいと思ったときに、サシュコ・ガヴリーロフ先生に師事したのですが、その頃から、絡まった紐がほどけていくような、新たな道にスポットライトが当たったような感じになったのですが、それは自分としては大きな事件でした。
 自分の中で道が開けて、視野も広がるし、ヴァイオリンを弾くという考え方も少し変えられたかと思います。自分がもうちょっと努力していけば、もっと登れるか階段がある、というのが見えてきた、ということですね。」


————ガヴリーロフさんは、ベルリン・フィルのコンサートマスターだった方ですよね。

 「そうですね。その昔。現在83歳ですが、現役で活躍していらっしゃいます。毎年、草津の音楽祭に講師としていらっしゃいます。
 彼もロシアで勉強した方なので、音色は深いですから彼の音も好みです。
 彼は、『ヴァイオリニストとして、人に音楽を提供するときに、自分に無理があってはいけない』ということをよく言われます。具体的に言えば、肩に力が入ってはいけない、押さえつけてはいけない、もっと解放しなさい、ということです。そういったヴァイオリンを弾くという部分でのディテールを教えてくださる先生です。
 簡単に言えば、脱力ですね。頑張って弾くタイプを嫌う方です。自分が楽しく演奏し、それを伝えるためには、脱力が必要だ、と言われるわけですね。私自身、そのあたりがまだ足りないな、と思うので、少しずつ、彼に習ってマスターしていきたいと思っています。
 実際、私の音は、だいぶ変わってきています。ですので、とても満足しています。
 とても厳しい先生ですが、それはレッスンの時だけです。結構皮肉な言い方をされるんです。それで落ち込んでしまうこともあるのですが、レッスン以外の時間になると、かなり優しい方で、私の意見も尊重してくださいますし、温かい方です。」


————今後どのくらい彼には師事を?

 「あと二年くらいですね。その時、自分がどう思っているかで、勉強をどう継続するかが決まっていくと思います。できることがあれば、やっていくでしょう。妥協をするつもりはないです。
 でも、ベルリンには、スイスから移ったばかりなので、これから心機一転、いろいろな音楽家と新たな活動を展開していきたい、と思っています。」

 

取材:青木

 

舞曲とロマンスのテーマでプログラミング
ヴァイオリニストの滝千春さんに聞く

現在はコンサートは終了しております。

フレッシュ・デュオ [アフタヌーン・コンサート・シリーズ]
滝千春&中野翔太 「舞曲とロマンス」
滝 千春 Chiharu Taki (ヴァイオリン/Violin)
中野 翔太 Shota Nakano (ピアノ/Piano)
3月23日(土) 13時30分開演
東京オペラシティ コンサートホール

 

曲 目
エルガー:愛の挨拶
ブラームス:ハンガリー舞曲(1番~5番)
プロコフィエフ:組曲「ロミオとジュリエット」

(編曲:リディア・バイチ&マティアス・フレッツベルガー

1.イントロダクション  2.ジュリエット  3.騎士たちの踊り  4.バルコニーの情景  5.愛の踊り  6.マキューシオ  7.決闘とティボルトの死ラヴェル:「夜のガスパール」より“オンディーヌ”(ピアノ・ソロ)
バルトーク:ルーマニア舞曲
ガーシュウィン:3つのプレリュード
ミヨー:屋根の上の牛
ピアソラ:オブリヴィオン
ピアソラ:ル・グラン・タンゴ

 

主催:ジャパン・アーツhttp://www.japanarts.co.jp/concert/
 

Chiharu Taki Violin
 

ノヴォシビルスク国際ヴァイオリンコンクール(ジュニア部門)第1位。 メニューイン国際ヴァイオリンコンクール(ジュニア部門)第1位。  オイストラフ国際ヴァイオリンコンクール第3位。
 

2002年、桐朋学園音楽部門創立50周年記念演奏会にて小澤征爾指揮、桐朋OBオーケストラにソリストとして抜擢された。以来、高校在学中より国内の主要オーケストラと共演を重ね、小林研一郎、飯森範親、飯森泰次郎、円光寺雅彦、大友直人、小泉和裕、沼尻竜典、渡邊一正、シズオ・クワハラ、ゲルト・アルブレヒト、ユーベル・スダーン、ミハウ・ドヴォジンスキ、バイロン・フィディチス、クラウス・ペーター・フロール等との指揮者と演奏を共にした。
 

2008年、ギリシャでL.スヴァロフスキー指揮アテネ国立交響楽団、ドイツのパッサウでニーダーバイエルン交響楽団とブラームスを共演。 同年8月には清水和音との共演でデビュー・リサイタルを行ない、高い技術と音楽性で実力を示す。
 

2009年、飯森範親指揮/山形交響楽団によるラロのスペイン交響曲がNHK「オーケストラの森」で放映。
 

2010年、パリのサル・ガボーにて上田晴子と、2011年、浜離宮朝日ホールと2013年には東京オペラシティコンサートホールにて中野翔太との共演でリサイタルを行なう。
 

これまでに上西玲子氏に、辰巳明子氏、ザハール・ブロンに師事。
桐朋女子高等学校音楽科、チューリヒ音楽大学を経て、2012年よりベルリン音楽大学でサシュコ・ガヴリーロフに師事。

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