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尾池のブルーマンデー憂さ晴らし

ヴァイオリニスト 尾池亜美

第70回 松脂タルティーニ風

こんにちは! 憂さ晴らしのお時間です。
先日、とてもラッキーなことに、ロンドンのロイヤル・オペラ・ハウスでの通しリハーサルを聞くことが出来ました。演目はリゴレット。
演出もシンプルだけど凝っていて、客席が暖色の照明と椅子なのに対して、舞台が全体的にモノクロで、結果的に悲劇であるこのドラマに良く寄り添っていました。
 
人々の動きは割合シンプルで、でも部屋の中は2階建に成っており、大きな舞台を縦にも上手に使っています。
 
ヒロインのジルダ役は、なんと日本人の中村恵理氏が歌っていました。ヨーロッパの歌劇場で日本人が歌うのを実際に目にすることはまだまだ少ないので、とても嬉しかったです。こちらで日本人が国際的な活躍をしているのを観るのは、とても励まされることです。
オケは極めて整っており、トップから後ろの席まで同じ弓の動き!
特にコンマスは凄い弓のスピードをつかって、明快に発音し、音がオペラハウスの奥まで届くように演奏します。コンマスはオペラの場合、ザッツ(合図)を出したり流れを示すよりもひたすら淡々と弾き、皆がそれと呼応するべきなのだという信念を強く持っているように思いました。面白かった!
 
 
さて、自分の楽器の話になりますが、最近道具を考え直す機会があって、松脂を換えてみました。
アンドレア・バンという製作者のア・ピアチェーレという松脂なのですが、見てください、このビフォーアフター。手前のほうが塗ってある方です、まるで顔色が悪くなってしまったみたいに、緑です。
 
こちらは大昔にタルティーニが使用していた松脂のレシピをもとに、現代に再現したというもの。昔のもの=ガット弦と弧形の弓の時代に合った松脂という趣旨だからか、粒子が細かくて引っ掛かりがよく、しかし更に深く太い音が出るような調合で再現されています。
 
これまで苦労していたパッセージも音が軽々と出せたりして、仰天しましたが、ただ音色が暗く太いので、軽々とした曲想のために以前使っていたものと混ぜて使ったりしています。弾くものの曲調や、演奏時間の長さによってブレンドを変えるのも楽しいものです。私はすり減って薄くなった松脂を、弓の毛と木の間から挟み込んで、毛束の裏側から塗ったりもします(笑)
 
さてそれではこの辺で...良い1週間を!

© 2014 by アッコルド出版

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