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いずみホールでの記念演奏会も無事終了。
今日の栗山カメラマンの1枚は、ステージ上の両団体である。もうすっかり来日公演のポスターのような仕上がりっぷりだ。
 
22日にサントリーホール・ブルーローズで彼らに接する東京の音楽ファンに、最高の写真付きでの一足早い優勝者ツアーのご案内をいたしましょう。
 
優勝者を直ぐに東京の聴衆に紹介するのは、大阪国際室内楽コンクールとしては初の試みだ。お陰で京都観光に続いて東京観光も出来ると、大喜びのアルカディアQである。
 
 
アルカディアQのチェロ君に来日資料データとして正確な名前の発音を尋ねたら、「トルク・ジョルト」という答えが返ってくる。そう、この4人の音楽家の名前を彼らの文化に従って表記するなら、「姓・名」の順になる。我々日本人と同じ、というよりも、お隣のハンガリーと同じなのである。
 
「私たちはクルジュ=ナボカに住んでいます。トランシルヴァニアの中心で、ドラキュラの故郷です(笑)。そこからヨーロッパ各地に演奏に出ています。」(アナ・トルク)
 
今でこそルーマニアだが、トランシルヴァニアは19世紀後半から第2次大戦後まではハンガリーの最も南の地域で、クルジュ=ナポカがハンガリー第2の都市だったのである。
 
実は、バルトークもトランシルヴァニアの生まれ。亡命後はスイスの作曲家として知られるシャンドール・ヴェレシュも、この街で生まれている。だから、いずみホールで披露されたバルトークの第5番は、アルカディアQにしてみればお隣ハンガリーではなく、自分らの音楽なのである。
 
「バルトークは全部演奏してみたいです。自分らにとってローカルな音楽だと感じますし、ともかく大好きです。リゲティも、もうちょっと遠くにありますが、とてもやってみたいです。」(レスラン・ドゥミトル)
 
ちなみにルーマニアのお札に肖像が描かれるエネスコは、ちょっと違うという。
 
「エネスコはブカレストというより、パリですね(笑)。」(ジョルト・トルク)
 
アルカディアQは、過去の大阪優勝団体とはちょっと毛色の違う、極めてローカル性の高い団体であることは確かだ。とはいえ、学んできた音楽は正統派である。
 
「私たちはヴィーンのヨーロッパ室内楽アカデミーに参加し、元アルバン・ベルクQのハット・バイエルレ先生や、アルティスQのヨハネス・マイスル先生に学びました。本選で演奏したベートーヴェンの作品131は、ベルリンでフェルツ先生に徹底的に指導を受けた曲なのですよ。今はそれらを自分らのものにしてくときです。」(アナ・トルク)
 
第3回大阪大会で優勝したベルチャQの第1ヴァイオリンを務めるコリーナ・ベルチャも、アルカディアQの本拠地からほど近いティミショアラの出身である。7年前にアルカディアQが活動を始めた頃、ブカレストで2年間レジデンシィをしていたベルチャQには何度も指導を受けているとのこと。大阪国際も第2世代が登場してきている。
 
 
 
ステージ姿をご覧になってお判りのように、トリオ・ラファールの黒髪のピアニスト嬢はなんとなく親しみのある風貌である。
 
「日本には1年間、名古屋にいたことがあります。おばあちゃんのうちは豊中です」と、マキ・ウィーダーケアは流暢な日本語で応える。
 
チューリッヒ音楽院で、ヴァイオリンのダニエル・メラーとマキは二重奏のパートナーだった。たまたま学内演奏会でラヴェルのピアノ三重奏を弾くことになり、同学年のチェロ、フルリン・クォンツに声をかける。
 
「あの頃の僕はいろんなことをしていて、どうしようか迷ったんですけどね(笑)」(クォンツ)
 
一度の演奏で意気投合した3人は、本気でピアノ三重奏を目指すことになる。ちなみに第6回大会第1部門で3位となったガラテアQは、彼らの先輩にあたる。
 
メラーはヴィオラも弾き、先生はカルミナQのヴィオラ奏者ウェンディ・チャンプニーとのこと。先生の娘で若手の気鋭チェロ奏者キアーラ・エンデルレとクォンツはよく知った仲だという。チューリッヒ湖の周りは、室内楽が豊かに育つ場所なのかしら。
 
「大阪のコンクールは素晴らしかったです。なにしろ時間に正確(笑)。全てがちゃんと運営されていました。ただ、ひとつ厳しかったのは、ステージ上での練習ができなかったことです。バランスはホールによって全然違いますから、バスが聞こえすぎるところもあるし。でも、審査員の先生には私たちのバランスはとても良かったと仰ってもらえました。」(クォンツ)
 
「日本のお客様は静かですよね。拍手があんまりなかったので、どうだったのかなぁ、と。演奏は凄くしやすかったです。」(マキ)
 
スイスに戻ると演奏会が次々待っている。チューリッヒ近郊、ミュンヘン、シュレスヴィヒ=ホルシュタイン音楽祭、そしてダヴォス音楽祭。10月にはウィグモア・ホールへのデビューも。そこでは、ギーガーが彼らのために昨年秋に書いた《カプリース》が披露されるとのこと。話を聞く限り、もうすっかり若手の売れっ子の日程だ。
 
「週に3,4回くらい練習をしています。トーンハレ管に呼ばれたり、いろいろな仕事をしていますが、中心はトリオです。できる限りこのメンバーでトリオを続けて行ければ。」(クォンツ)
 
「とはいえ、僕たちはひとつところに留まらず、常に生き生きとしたアンサンブルでありたいと思っています。」(メラー)
 
武満の音楽は大好きというマキさんは、来年の紅葉の頃に日本を訪れるのが大いに楽しみだという。トリオ・ラファールの精妙な響きは、確かに、日本の秋によく似合うだろう。

 

アルカディアQ

トリオ・ラファール

第8回大阪国際室内楽コンクール&フェスタ

大阪初夏の陣 〈11〉

音楽ジャーナリスト 渡辺 和

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アルカディア・クァルテット

(写真:日本室内楽振興財団チーフ・フォトグラファー:栗山主税)

コンクールチーフカメラマンの

今日の2枚

トリオ・ラファール

(写真:日本室内楽振興財団チーフ・フォトグラファー:栗山主税)

第8回大阪国際室内楽コンクール優勝団体

披露演奏会in東京

 

アルカディア・クァルテット(弦楽四重奏部門優勝)

トリオ・ラファール(ピアノ三重奏&四重奏部門優勝)

 

5/22(木)19時開演

 サントリーホール・ブルーローズ

 

 曲目:ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第14番嬰ハ短調作品131(アルカディア・クァルテット)

 シューベルト/ピアノ三重奏曲第2番(トリオ・ラファール)

 他

 

© 2014 by アッコルド出版

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