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室内楽の伝統とは自ら作るもの

 
──今回のフェスティバルのレッスンでどんな感想をもたれましたか?
 
「音楽学校に通っている学生さんたちがこんなにも多くカルテットの勉強をしていることがとても嬉しいです。そして皆さんとても熱心にカルテットの重要なレパートリーを一生懸命勉強しています。
 
洗足学園が主催してこのフェスティヴァルを行なっているわけですが、洗足学園の生徒さんだけが主に参加しているというわけではなくて、ほとんどの音楽学校から来ているような印象です。桐朋学園.東京芸大、東京音大、愛知県芸大、……それが嬉しいです。学校の垣根など分け隔てなく、いろいろなところから応募者があって、皆さんが参加しているということはとても素晴らしい。
 
今回私は、カルテットだけを教えているのでカルテットに重きをおいた話になってしまいますけれども、カルテットのレパートリーには本当に素晴らしいものがたくさんあります。ですからカルテット奏法を勉強しようとする姿勢、カルテットの立派なレパートリーを通して音楽を勉強しようとする姿勢は素晴らしいと思います。
 
もちろんカルテットのレパートリーだけではなくて、室内楽を通して、自身の音楽性をもっと高めようとする、また極めようとすることは、大切です。」
 
──磯村先生は、カルテットの活動を長年なさってきたわけですが、もし今若い学生たちがカルテットでやっていこうとなると、これはとても大変なことだと思うのですが。
 
「それはちょっと耳の痛いところに触れてくれましたね(苦笑)。弦楽の生徒さん達が室内楽、特にカルテットのようなものを非常に熱心にやっていることは非常に喜んでいるのですが、実は内心、本当に日本にもそろそろもうちょっと室内楽、特にカルテットのような演奏団体に場所を与えてくれるようになったらいいんですけれどもね、と思う。
 
正直言ってまだまだ日本は室内楽の愛好家というか室内楽のコンサートに行く人たちの層はまだ薄いですからね。勿論、熱心にマニアックといってもいいほどの室内楽の愛好家もたくさんいますが、全体的に見るとまだまだ室内楽のファンの層が薄いです。」
 
──クラシック音楽、室内楽の本当の魅力、価値というものを伝える活動を、我々アッコルドも継続していきます。
 
「スポンサーシップの問題もあります。アメリカやヨーロッパなどでは、音楽学校もそうですけれども、地方自治体や国がお金を出していて、室内楽のシリーズコンサートなどでも、そのことによって成り立っているという場合が多いわけですね。
 
特にアメリカの場合は、ご存知のように税金の控除があったり、また経済的に余裕のある人が音楽に対して寄付をしてくれる。そういったことで成り立っている場合が多いです。そういうことに支えられて若い室内楽、室内合奏団、とりわけカルテットには演奏の機会を与えられているわけですよ。
 
日本の場合はなかなかそういう状況にはなっていません。アメリカのレジデント・カルテットという制度も大きいです。
 
欧米では室内楽は一般に馴染まれていますし、カルテットは重要なものであると思っている方が多いです。でも僕が簡単にそういうことを言うと、日本にはそういう伝統がないから、とすぐ言われてしまうんです。
 
でも、伝統がないないと言い続けて何年になりますか?
 
もう相当な年月が経ちましたよ。伝統というものは自ら作るものだと思います。僕たちも日本に良い伝統を作るために少しでも役に立つなら、と思っています。」
 
──今回、コンサートで、原田幸一郎さん、池田菊衛さんと共演されました。
 
「非常に楽しくやらせていただいています、昔の仲間と。池田君とは、ついこの間まで東京クヮルテットを一緒にやっていて、解散したところですけれども、原田幸一郎君とはこうやって一緒に仕事をして、しかも一緒に室内楽の演奏をしました。生徒さん達とも一緒に演奏しましたが、その時も原田君と一緒に演奏しました。
 
──原田貞夫さんが加われば完璧になるわけですが…
 
「そうですね(笑)。そういう可能性もあるでしょうね。」 

日本にはクラシック音楽の伝統がないと言い続けて

何年経ったと思いますか?

 

磯村和英さんに訊く

 

──第1回洗足学園室内楽フェスティヴァルより

インタヴュー

元・東京クヮルテットの奏者として一世を風靡した、ヴィオリストの磯村和英さんが語る日本のカルテットの“環境”の問題。
(3月11日から16日にかけて、洗足学園音楽大学内で行なわれた第1回洗足学園室内楽フェスティヴァルにて)

© 2014 by アッコルド出版

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