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ベートーヴェンの世界は常にモダン

 

──そもそもベートーヴェン全曲を演奏するために、ヴェーラ弦楽四重奏団を作られたのですね

 

「そうですね。僕個人としてはそうです。最初つくったときにどのような方針にしようか、ということで、まずベートーヴェンの全曲演奏の提案をしました。それまで、ほんの数曲しか僕自身は演奏していませんでしたから、カルテットを作ったからには、全曲やりたい、というお話をしましたら、全員賛同してくれました。全部で16曲ありますし、それぞれ忙しいメンバーなので、なかなか大変なのですが。

 

結成のときは、みなとみらいホールが僕に声をかけてくれて、定期的にやりませんか、ということで、トークを交えてカルテットそのものを紹介するという企画でした。コンサートの最後にベートーヴェンのラズモフスキーの3番を演奏したんですよ。そのあと毎回二曲ずつ演奏しようということになりました。番号順に演奏するのではなくて、1番と16番、というやり方にしたんです。そして、最後に残ったのが、今回のラズモフスキーの1番、これで、完結です。オールベートーヴェンで通そうということで、作品131は再演です。作品131は、皆がもう一度やりたいという気持ちで一致した曲です。」

 

──ベートーヴェンは、前期、中期、後期とよく分けられますが、どの曲もそれぞれに凄い世界を。

 

「全部、難しいですし、深みもあります。しかも一曲ずつスタイルは違う。どんどん新しいことをやろうとしていたベートーヴェンの意気込みを感じます。創意に溢れていた人だと思います。前期は一曲ずつ違うし、中期のラズモフスキーの充実した世界、これは、ちょうどシンフォニーのエロイカあたりの作品ですね。ベートーヴェンらしさが確立された頃です。

 

後期になると第九のあとでしょう。これはもう、よりベートーヴェンが自分のプライベートに戻ったような気がします。自分の親密な気持ちも含めてさらに新しいことをしようとしている。だから、妙に面白かったり、子供っぽさがあったり、難解なところもある。子供が遊んでいるみたいな音楽。」

 

──前期はロマン派的ですが、後期はもうモダンですよね。

 

「そうなんですよ。あの時代に、あの音楽を思いついたというのは、凄い創意工夫というか、先見の明というか、いつも新しいものを追い求めていたのでしょうね。」

 

──ハイドン、モーツァルト的な音楽から現代音楽まで。

 

「ですから、カルテット全曲やっているとまったく飽きない。ずっとやっていたい。ただ、とても難しい。ヴェーラは6年めですが、これまでやり続けてきたこと、音作りというものはベートーヴェンならではのものがあると思います。勿論、皆で試行錯誤した部分はありますが、だんだん皆のアイディアが寄ってくる。131には二回めですから、それまで気づかなかった深い部分での皆の提案、閃き、もあります。ただ、今回で完結とはいえ、これからも何回もベートーヴェンは弾いていくと思います。」

 

──完結に近づいてベートーヴェンの世界の何かが。

 

「少しですね、まだ。言葉で言うのは難しいです。ベートーヴェンの楽譜に書いてあることをどれだけ深く読み取り追求するか、それをやり続けたあとカルテットとしての成長を感じます。ベートーヴェンは実に書き込んでいる、という実感があります。譜面に書いてあることをやればやるほど、作品が生き生きしてくる。

 

譜面に書いてあることを忠実に再現しようという気持ちでも、そこは、必ず個人個人の感覚とかセンスというもので音にするわけですから、その辺りが、カルテットとしての個性につながると思います。お互いに触発されます。」

 

カルテットは個性の違いも魅力の一つ

 

─メンバーの構成で、だいたいの方向性がきっと決まるのでしょうね。

 

「実は、メンバーは全員、私の一本釣り(笑)なんです。僕はそれまで、全員と演奏をしているけれど、他の三人は、お互いに初めての出会いでした。音とか性格とかが似ている、ということだけではないんです。違うところもある。でも、その個性が集まったときに面白いものが生まれる、と思ったのですが、想像どおりでした。やればやるほど面白くなってきました。良い意味でお互い遠慮無く言い合える。

 

あと、同じオーケストラの中で組む、というのはよくあるけれど、ふだん別々のオーケストラで活動しているメンバーで、という思惑もありました。渡邉辰紀さんは、私と同じオケですが、オケ自体大きいので、三ヶ月くらい会わないこともある(笑)。つまり、新鮮さを保ちたいと思ったわけです。ふだんの活動を離れてフリーな気持ちで四人が集まる。だけど、勿論ふだんのオーケストラ活動での経験というものが、音楽のイメージのよりどころにもなるわけです。いろいろな指揮者、いろいろなアイディアをそれぞれのメンバーが体験して財産にしているわけですね。

 

皆、トップ奏者ですから、オーケストラの頭を弾くのは、人について弾くわけではないから、カルテットをやるのはごく自然なことだと思います。皆が主張するから、誰かが物足りないということは全然無い。」

 

作品131の世界に打ちのめされて……

 

──完結編のあとは、どのような展開を。

 

「ベートーヴェンのあとは、ショスタコーヴィチとか、バルトークとか……という話もよくありますが、ベートーヴェンはこれからもカルテット作りの核として、弾きつづけます。そして、これまでやってこられなかった他の多くの名曲をどんどん演奏していきたい、と僕は思っています。ベートーヴェンは何回も引き続けることによって高めて行きたい。」

 

──ベートーヴェンのカルテットであえて好きな曲というと。

 

「一番好きなのはやはり131です。これは皆も賛同してくれます。間違いなく良い曲です。130も132もいいですけどね。でも、実は131には思い出があって、N響にいた頃に、アンドレ・プレビンが、131の弦楽合奏版を振ったことがあったんです。僕はこの曲に打ちのめされて、オケで弾いていても、人間の集中力の限界を試されているような気がしました。原曲はカルテットだけれども、果たして自分がカルテットで弾けるのかな、と思ったくらいでした。」

 

「ヴェーラ弦楽四重奏団ならではの音楽、音、響きを聴いていただきたい。アンサンブルを作るのは勿論大事ですが、ただ合わせるだけでなく、ぶつかり合いながらも、同じ方向で作っていく、そういうやり方が僕は好きですし、面白いと思う。対話ですね。どんどんお互いに触発されて音楽を作っていく、という世界を皆目指しています。こじんまり上手にはなりたくない。カルテットに限らず、音楽の魅力というのは際限がないから、どこまでできるか、四人で、というのがあります。

 

カルテットでオケのようなサウンドがするときもあります。カルテットというのはハーモニーの四声部だから、本当に完成形ですね。だから、凄い響きがする。」

 

取材:青木日出男

 

ヴェーラ弦楽四重奏団(三浦章宏Vnさん、大林修子Vnさん、青木篤子Vaさん、渡邉辰紀Vcさん)が、

ベートーヴェン弦楽四重奏曲全曲演奏会を“完結”する(12月8日14時 横浜みなとみらいホール小ホール)。

 

このコンサートを前に、ヴァイオリニスト・東京フィルコンサートマスターの三浦章宏さんに抱負をうかがった。

演奏会直前インタヴュー

ヴェーラ弦楽四重奏団

ベートーヴェン弦楽四重奏曲全曲演奏会“完結編”

 

2013室内楽シリーズ~みなとみらい流Ⅲ
ヴェーラ弦楽四重奏団
ベートーヴェン弦楽四重奏曲全曲演奏会

≪完結編≫

 

【日時】2013年12月8日(日)午後2時開演

【会場】横浜みなとみらいホール小ホール

【出演者】

ヴェーラ弦楽四重奏団

 三浦章宏(ヴァイオリン/東京フィルハーモニー交響楽団コンサートマスター)

 大林修子(ヴァイオリン/NHK交響楽団第2ヴァイオリン・フォアシュピーラー)

 青木篤子(ヴィオラ/東京交響楽団首席)

 渡邉辰紀(チェロ/東京フィル首席)

【曲目】 

 ベートーヴェン: 弦楽四重奏曲第7番 ヘ長調「ラズモフスキー第1番」Op.59-1

 ベートーヴェン: 弦楽四重奏曲第14番 嬰ハ短調 Op.131

【入場料】

全席指定 一般 4,000円

学生・障害者手帳をお持ちの方 2,500円

Miraist Club(友の会)会員(一般のみ) 3,600円

【お問合せ】ホールチケットセンター:045-682-2000

http://www.yaf.or.jp/mmh/recommend/2013/12/2013-3.php

 

ヴァイオリニスト 三浦章宏さん

© 2014 by アッコルド出版

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