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ロマン派ラウンド、そしてファイナル出場団体選出

 写真・文:茂工 欄

第11回バンフ国際弦楽四重奏コンクール

11th Banff International String Quartet Competition

バンフ便り(その6)

月曜日から始まったセッションも、とうとう4ラウンド目の「ロマン派ラウンド」へ突入。ここまで全ての団体が演奏を行ない、明日のファイナル・ラウンドへ出場するクァルテットが審査される。週末に入ったこともあり、週末パックを利用して聴きに来る聴衆も入り、客席も賑やかになってきた。

 

1000人近いキャパシティの会場がかなり埋まっているのは、室内楽のコンクールとしては珍しいのではないだろうか。これは単に弦楽四重奏のファンが集まっているだけでなく、このコンクールが若手団体の「品定め」のためにコンサート主催者が集まる重要な場となっているから。

 

アメリカの室内楽団体の活動を支えるシステムとして大切な二つの要素は、大学によるレジデンスと愛好家主催によるコンサートがある。愛好家によるコンサートというのは、本業は音楽ではないが音楽を聴くのは好きであるが故に、自分(または自分たち)で演奏家を呼んでコンサートを作り、時には年間に数回のシリーズを運営している形態のこと。基本的に営利目的ではないので規模も決して多くなく、比較的金銭や時間に余裕のある層が中心となるが、北米ではこのような主催団体が地域・街ごとに多く存在する。若手室内楽団体は有名なコンサートホールによる演奏会だけでなく、このような室内楽シリーズに出演を重ねることで経験を積んでいくのである。

 

その主催者たちが、自分たちのシリーズの出演者を「品定め」する場としては、世界中から手練れの若手弦楽四重奏が集まるこのコンクールはうってつけの場だ。各団体の古典から現代まで一通りの演奏を聴くことが出来るので、会場では将来どの団体に声をかけようかと、メモを取りながら耳を傾ける姿を多く見かける。実際に会場で筆者の前に座っている女性も、ニューヨーク州のある街で年間5回公演の室内楽シリーズを運営しており、今大会には新たな出演者の発掘に来たと語る。

 

バンフ国際弦楽四重奏コンクールに出場するクァルテットは、審査員による公式な受賞を狙うだけでなく、このような人々の前でいかに自分たちをアピールするかで、将来の北米での仕事の数が変わってくるのである。過去33年の中で唯一日本から出場したクァルテット・エクセルシオ(2001年)も、ファイナル・ラウンドまでは進めなかったものの、そこで演奏したリゲティがホノルル室内楽協会ディレクターの耳にとまり、10年後にホノルルへの招聘公演へとつながった。

 

 

そのような眼光鋭い客席の中で行われる「ロマン派ラウンド」。今回の課題曲は『19世紀に作曲されたロマン派・国民楽派の弦楽四重奏曲(ベートーヴェンとシューヴェルトの作品は対象外)。ただしドビュッシーとラヴェルの作品は含まれる。』と比較的緩やかだ。


これまでの3ラウンドで各団体の特徴も見えてきているので、それぞれの選曲を見ると、自分たちの強みが一番出しやすい曲を選択してきたのがよく分かる。

 

朝から1日かけて行なわれるセッションは、Schumann Qの圧倒的なメンデルスゾーン第6番から始まった。音楽一家の中で幼い頃から合奏することに慣れてきた兄弟によるアンサンブルは、ロマン派の響きと流れが体に染みついているかのように自然な音楽。ソロでも十分活躍出来る第1ヴァイオリンのエリックの輝かしい音が、決して独りよがりの独奏曲に聞こえないのも、4人の団体としての安定性を物語る。


フランスから出場しているCavatine QとNoga Qは、それぞれ自国の作曲家で挑戦。


Cavatineは骨太で筋骨隆々とした感のドビュッシーを仕上げてきて、対照的にNoga Qは弱音を大切にしながら繊細な音色で揺蕩うように歌い上げるラヴェルを演奏したのは印象的だった。


そのほか、メンデルスゾーンやブラームスを選ぶ団体が多い中、唯一シューマン第1番を演奏したのがAnima Q。意図的にテンポを変化させながら躍動感を効果的に出し、またゆったりとシューマンの叙情的なメロディーを詩的な世界を作っていた。


今回のコンクールで特に異彩を放っているAttacca Qは本日最後の演奏。ドヴォルザーク第13番を演奏。40分にもわたる長大な曲である。ドヴォルザーク特有の土臭さだけでなく、20世紀的の音楽に見られるような要素などが複雑に入り混じったこの曲を、音色のパレットの広さ、ギリギリの表現の幅で演奏。

 

ファイナル選抜へ最後の演奏、全団体とも出し惜しみない熱演で、目利きの揃った客席でもスタンディングオベーションが繰り返された。

〈結果速報〉

 

演奏後の審査の結果、ファイナルラウンドに進むのは下記3団体となった。

 

Navarra Quartet
Cavatine Quartet
Dover Quartet

 

現地時間14時(日本時間9月2日朝5時)から、それぞれがベートーヴェンを演奏する。

待ちに待ったロマン派の1日。

会場前には朝からカルガリーから一回券で訪れた聴衆もたくさん。

土曜日とあって、午前10時半からのセッションも満員だ。

客席にはあちこちに業界関係者の姿が。

トロントの音楽評論家ウィリアム・リトラー氏も、トロントでは絶対に見せない姿で登場。

© 2014 by アッコルド出版

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